琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ミアの夢

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 ベルの残した赤いドレスの上で、ラルフはミアの身体を愉悦に浸らせた。
 いかせ過ぎて、失神させた。
 そして、寝室へ彼女を運ぶと、ベッドへ寝かせて自分も休んだ。
 二人とも素裸だった。
 ゴアの他は何一つ、身に着けていない。

「まず訊こうか。お前はどこで生まれた」
 ラルフはミアの髪を優しく撫でた。
 夜明け前の暗い闇の中、黒のゴアが清らかに発光している。
 ミアは従順な眼差しを彼に向け、もう敵わないと観念した。
「私は、東の小国トーマの、プラドー家に代々仕える執事の家に生まれました」
「父親は執事だったのか」
 素直に答えるミアの前髪を、ラルフは指で梳く。髪は灰色から銀色に変わっていた。

「はい。私が生まれる前に死んだと……病気で亡くなったと聞いています」
「そうか……では、母親は?」
「母は、これも代々仕える家政婦の家に生まれた人です。父が死んで執事の家が取り潰されたので、もとの家政婦の仕事を私に教えながら、プラドー家で働いていました……」
 いろいろ思い出されるのか、ミアは言葉を途切れさせる。ラルフは彼女の頬にキスをし、薄紅色の素肌と、ふっくらとした輪郭を目でなぞった。
 ミアはきれいになっていた。
 不思議だった。ラルフに抱かれる女は、抱かれるたび、彼に若さや瑞々しさを奪われてゆくはずなのに。

「母は、もともと体が丈夫でなかったのもあり、私が七つの冬に倒れて……そのまま」
 ミアの瞳は哀しみを湛えていたが、涙はない。ただ虚ろに、自分を見守る男を映していた。
「それからは、酷いものでした。旦那様も奥様も、なぜだか私が忌々しいようで、乱暴に扱われた」
「それは前にも聞いた。ベルだけがお前を大事にしてくれた。そう言ったな」
 ミアは唇を引き結ぶと、かぶりを振った。
「違うのか?」
「ベル様は……ベル様は他の使用人にもわがままで意地悪でしたが、私には特にひどく当たられました」
 ラルフは驚いた風でもなく、薄く笑った。
「それを聞いて安心したよ……」
「え?」
「いや、それで? どうしてそのゴアを、ベルに預けられたと嘘をついた。ここからが本題だ、ミア」

 ラルフはミアを抱き寄せると、鼻先を付き合わせた。
「お前はプラドー家の伝承を信じているのだろう。黒と青のゴアが揃い合わさる時、どんな望みも叶うだろう……」
 ミアはあからさまに動揺する。
「なぜあなたがご存知なのですか。プラドー家の、秘密の言い伝えを」
「……」
 ラルフはミアの下腹に手を這わせた。
「あ、ラルフ様……」
 ミアは瞼をきつく閉じた。身体は彼の腕に拘束されて動けない。
「だからお前は、青のゴアを求めてここまで来た。ベルその人ではなく、彼女が身に着けている青のゴアをな。その黒のゴアと合わせて、願いを叶えるために」

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