琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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真紅のドレス

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「何を泣いている」
 ラルフはミアの濡れた睫を指で拭い、眉をひそめた。
「……悲しくて」
「悲しい?」
「私は独りぼっちです」
 涙が尽きせぬ泉のように溢れている。深い緑がいっそう深くなり、なにかを責めて訴えているようだった。ラルフは半身を起こすと、彼女を黙って見下ろす。胸がざわついていた。
 不吉な予感に苛まれる。

 悲しいだと?

 闇も魔物すらも恐れぬ彼を不安にさせる、緑の瞳。それを濡らす涙。
 ラルフの鼓動が速くなっている。呼吸が乱れる。苦しくて堪らない。

「黒のゴアを、どこで手に入れた」
 ミアの嗚咽が止まった。
 ラルフは首もとに滲む汗を、密やかに拭う。残酷な気分だった。
 安穏とゲームを楽しむ余裕は失せた。美学など打ち棄てる。訊くだけの事を訊き出したら、こんな小娘、精気を吸い尽くして直ぐにでも棄ててやる。

「プラドー家に受け継がれているのは、青のゴア。これだけのはずだ」
 彼は脱ぎ捨てたシャツのポケットからゴアを取り出すと、ミアにつきつける。
「どうしてそれを……っ」
 ミアはがばりと起き上がった。飛びついて奪おうとするが、身をかわしたラルフに突き飛ばされる。
「あっ」
 床に投げ出されたが、すぐに起きて彼を睨みつけた。彼女の眼に、もう涙はなかった。激しい感情を表す、緑の炎が燃えている。

 ラルフは満足そうに笑うと、立ち上がってドレスの間を歩いていく。逞しくも美しい裸体が、月明かりに浮かぶのを、ミアはじっと見つめる。
「いいものを見せよう」
 一着のドレスを抜き出すと、戻って来てミアの前に放り投げた。
「これはっ……!」
 それは、金糸銀糸で豪華な刺繍が施された、真紅のドレスだった。震える手で、見覚えのあるドレスをかき寄せる。ミアはすべて理解した。

 青のゴア。そして、真紅のドレス。
 二つとも、ベルの持ち物である。

「ベル様は、ここにいたのですね。なんという迂闊。なんという……」
 冷たく見下ろす男の顔を、ミアは見返す。
 もはや彼女は、貧相で弱々しい少女ではない。ラルフが好む強かな女に変身していた。
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