琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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独りぼっち

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「分かりました」
 ミアは衣裳部屋の奥に移動し、ラルフが窓の外に目を向けているのを確かめてからドレスを着替えた。
 肌がひんやりとする。
 冬が忍び寄るこの季節に、レースのドレスはそれこそ下着にしかならないと思う。
 着替え終わると、姿見の前に立ってみる。確かに似合わない。似合わないけれど、思ったより違和感がないのが不思議だった。
(体型が変わったのかしら?)

「こちらへ来なさい」
 ラルフが窓の外を見たまま声をかけた。
 ミアは靴下も靴も脱いで、裸足のままである。このドレスに似合う履物は持っていない。
 仕方ないのでそのままラルフの前に進んだ。
「ふうん」
 彼は蒼い眼を、まずミアの顔と上半身に這わせ、胸もとのゴアで止めた。
 今夜は微かだが月明かりがある。燭台も点いているのでゴアは発光せず、ミアの胸に落ち着いている。
 ラルフはミアに手を伸ばすと、髪留めをはずした。
 灰色の髪がはらりと肩に落ちる。照明のかげんか、灰色が銀色にも感じられた。

 居心地悪そうに立ちすくむミアを眺め、ラルフはおやっと思う。
 昼間より顔の輪郭がふっくらとして、血色もいい。ドレスがばら色なので、その反射かもしれないが、それにしても――
「例の菓子を食べ過ぎたのか?」
 彼は視線をミアの腰から下に落とす。
 短い裾から脚が丸見えになっており、彼女はそれをピタリと閉じている。
 ラルフはさらに視線を下げた。
 裸足の指が、意外なぐらい整った形をしている。
 新たに発見した、彼女の慎ましやかな美しさであった。

「ミア、お前は……強かな女だ」
 緑の瞳を覗き、ラルフは優しい笑みを浮かべた。とても柔らかな表情である。
「し、したたか……ですか?」
「ああ。一筋縄ではいかない。この私に隠しごとをするなど、いい度胸だな。ただの貧弱な娘ではないらしい」
 ミアは後退りした。えもいわれぬ恐ろしさが、彼女を襲っている。
「私は、そんな。隠しごとなんて……」
 ラルフはミアの体を引き寄せると、いきなり唇を塞いだ。
 抵抗を試みる女の腰を押さえてすっかり動きを封じてしまうと、そのまま床に崩し、襟もとに手をかける。薄いドレスを引き裂く音が悲鳴のように聞こえた。
「な、何を……ああっ……」
 ミアは乱雑に身体を広げられ、あっという間に押し入ってきた蛮力を、ただ受け入れるしかなかった。
まるで彼女を罰するような、容赦のない交わりだった。


 誰もいない屋敷。
 誰もいない暗い森。
 この人は、永い時を独りで生きてきたのだ。
 ずっと独りぼっちだったのだ。
 妻がいても、こんな風に扱ってきたのだろう。
 一方的に、貪るように。
 この人は……

 快楽の渦に翻弄され、意識が遠退きそうになりながらも、ラルフの孤独を思った。
 ミアもまた、独りであったから。

 緑の瞳は、哀しみに濡れていた。

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