琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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独りぼっち

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 サキがルズとともに旅立った、その夜――

 ラルフから贈られたドレスや小物類を整理し終えると、ミアはあらためて広い衣装部屋を見回した。
 かつて彼の妻だった女達の形見が、数えきれないくらい吊るされている。かなりクラシックなデザインも散見された。
 不死であるという彼は、一体何人の妻を看取り、悲しみを味わってきたのだろうか。
 ミアは永遠を生きるという感覚を想像してみた。自身は若い体のまま、愛する伴侶は年をとってゆく。目の前で、枯れて、朽ちてゆくのだ。
(辛すぎるわ……)
 小窓のカーテンをそっと開き、夜に沈む森をぼんやりと眺めた。
(もし私がラルフ様のように永遠の命を得たとしたら。暗くて寂しくて、どうしたらいいのか分からないだろう。きっと……)

「ドレスは気に入ったか」
 ふいに低い声が聞こえて、ミアは振り向く。
 ラルフが腕組みをして、閉じたドアに凭れていた。いつの間に入ってきたのか。いや、先ほどからじっと見ていたのかもしれない。
「え……ええ。とても上質な生地に、しっかりとした縫製。私にはもったいない、素晴らしいドレスばかりです。あの、ありがとうございます」
 ミアはもじもじしながら、彼の親切に感謝する。本当を言うと、贈られたドレスのデザインには、かなり戸惑っているのだが……

「ものはいいがすべて古着だよ。貴族御用達の、下取り専門店で買ったらしい」
「えっ?」
「ドレスはサキ博士が選んだ。私ではない」
 ラルフは呪文で燭台の灯を明るくすると、サキが見立てたというドレスを順番に確認していく。クスッと鼻で笑い、目に留まった一着を取り出してミアに示した。
「どうやら彼女は、私の妻を妖艶な女だと想像したようだ」
 下着のようなデザインの、総レースドレス。ミアもこの一着には戸惑ったので、奥のほうへ仕舞っておいたのだ。他のドレスも大人びたデザインだが、これは飛びぬけている。

「背丈は教えたが、あとはお任せだ。サキも衣装には興味がないので、適当に選んだみたいだぞ」
 ラルフはミアとドレスを見比べ、笑っている。ドレスは全体的にゆるゆるで、特に胸の辺りがサイズに合っておらず、詰め物が必要である。
 ミアの頬が真っ赤に染まる。
 過去の妻達はみな、グラマラスだった。ずらりと並ぶドレスが、それを証明している。
「着てみなさい」
 ラルフはミアに、総レースのドレスを押し付けた。
「で、でも……」
「意外と似合うかも知れないぞ。少なくとも、それよりはましだ」
 彼はミアが今身に着けている、裾を調節したワンピースを目で指す。確かに、これはみっともない。

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