琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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覚悟を決める駒

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 指で強く擦っても消えない住所は、まるで烙印のようだ。サキは不気味に思いながら、ラルフを見上げた。
「……それを確かめて、どうするのです?」
「ゴアドアの世界図書館には、世界中のあらゆる時代のあらゆる書物がおさめられているはずなのに、ゴアについて記述されているのはこの1冊のみ。そうだな?」
「はい。特権を使って禁書の棚までしらみつぶしに探しましたが、その雑誌だけでした」
 そのことについては、サキも妙だと思っていた。あれだけ膨大な書物のどこにも、ゴアについての特別な記述がない。また、プラドー家の伝承に関する情報も皆無だった。

「つまり、家宝も伝承もプラドー家の秘密なのだ。本来ならば……」
 ラルフは指笛を吹いて、ミアにくっついて台所へ入って行ったルズを呼び戻した。
 ほどなくして紅い妖獣はバタバタと飛んできて、不満そうではあるが、ラルフの肩に素直にとまる。
 サキは話を続けた。
「伝承について書かれた唯一の雑誌。この雑誌の記者に喋った人間がいるということですね」
 サキが訊くと、ラルフは頷く。
「青のゴアが楕円に加工されていることまで知り得る人物だ」
「ということは、プラドー家の者か、あるいは……」
 サキは、ハッとする。例えば、プラドー家に代々仕えている人間も当てはまるのではないか。執事、召使い……あるいは家政婦。

 ルズはラルフに命令されて巨大化した。熱風が吹き上げ、サキの髪や白衣を波打たせる。
「その人物が判り次第、連れて来てくれ」
「私がですか?」
「そうだ。お前も知りたいだろう」
「はあ、しかし……」
「黒のゴアについても、その者は何か知っている」
「……」
 ずいぶんと勝手な命令だ。黙っていると、彼は語気を強くした。
「買収してでも連れて来い」
 サキは頷くと、白衣の内側深くに金塊を押し込んだ。
「承知しました。こんな仕事は初めてですが」
 とにかく行くしかない。覚悟を決めて、ルズの背中に乗り込んだ。

(それにしても、なぜミアさんに直接訊かないのだろう)

 黒のゴアを本当はどこで手に入れたのか。彼女に訊くのが一番の近道ではないかとサキは思うが、何となく言いだせない。純白のデイジーが、目の端に映っていた。
 この男……ラルフという男は、まるでゲームのようにゴアの秘密を探ろうとしている。サキは妖獣の背中から、微笑んでいるように見えるラルフの蒼い顔を見やった。

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