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覚悟を決める駒
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「専門家としては、どう判断した」
視線を屋敷へ向けたまま、さり気ない風にラルフが訊いた。サキは椅子を立つと、自分をゲームの駒のように動かすであろう男に答える。
「私が見たところ、あのゴアは本物です。研究所で分析するまでもないと思います」
「なるほど。お前が言うのなら間違いない」
サキは白けた。
ラルフは最初から、あれが本物だと確信している。
ただ、見せたかっただけなのだ。黒のゴアを、その持ち主と一緒に。
「ミアさんのような方があなたの妻とは意外でしたが、なるほど納得しました」
せいいっぱいの皮肉だが、ラルフは涼しい顔。淡々とした口調で、新妻とのなれそめをサキに聞かせた。
「お前には話しておこう。ミアはトーマからやって来た。プラドー家で家政婦をしていた娘で、家出したベルを捜すためゴアドアへ向かう途中、この森で私に拾われたのだ」
サキは驚きのあまり絶句する。
「……プラドー家ですって?」
「ああ。ベルがあの"黒"のゴアを自分に残していったと、そう言っている」
サキは眉根を寄せると、持参した鞄の蓋を開けて中から雑誌を取り出す。トーマの特集が組まれている、例の『月刊 世界の伝承・神秘の伝説』である。
「しかしラルフ様、記事ではこうなっています」
サキは該当部分を声に出して読んだ。
「『いかんせん、この言葉の謎が解けたところで肝心の黒のゴアがない。 黒と青のゴアが揃い合わさる時――と、言葉は伝えているのに、実際受け継がれているのは"青のゴア"のみ』」
ラルフの話した内容と矛盾している。
「プラドー家に黒のゴアは受け継がれていないとあります。それなのになぜ、あの娘……失礼、ミアさんは本物の黒のゴアを持っているのですか。しかも、ベルさんに残されて?」
「不思議だな」
ラルフはサキから雑誌を取り上げると、発行元が記載されているページを開いて、冷たく目を光らせた。
「私も、おそらくお前も、胡散臭い伝承などには興味がない。だが気になるだろう、あの娘が身に着けている希少な宝……」
サキは沈黙で肯定を示した。
「黒のゴアを、どこで手に入れたのか」
ラルフはゆっくりと立ち上がり、サキの手を取った。
「……ラルフ様?」
動揺するサキだが、彼は自分の手の平を上に重ね、何やら呪文を唱えている。それからマントのポケットから大人の拳ほどの金塊を取り出し、サキに持たせた。
「なっ、何でしょうかこれは」
一目で純金とわかる重い塊を石ころみたいに渡され、サキは戸惑った。
「その住所に行って、記事を書いた者に会って来るのだ。そして、プラドー家の伝承を誰に取材したのか、確かめてくれ」
「……?」
見ると、手の甲に文字が刻まれている。先ほどラルフが呪文を呟いたのは、住所を写すためだったのだ。
視線を屋敷へ向けたまま、さり気ない風にラルフが訊いた。サキは椅子を立つと、自分をゲームの駒のように動かすであろう男に答える。
「私が見たところ、あのゴアは本物です。研究所で分析するまでもないと思います」
「なるほど。お前が言うのなら間違いない」
サキは白けた。
ラルフは最初から、あれが本物だと確信している。
ただ、見せたかっただけなのだ。黒のゴアを、その持ち主と一緒に。
「ミアさんのような方があなたの妻とは意外でしたが、なるほど納得しました」
せいいっぱいの皮肉だが、ラルフは涼しい顔。淡々とした口調で、新妻とのなれそめをサキに聞かせた。
「お前には話しておこう。ミアはトーマからやって来た。プラドー家で家政婦をしていた娘で、家出したベルを捜すためゴアドアへ向かう途中、この森で私に拾われたのだ」
サキは驚きのあまり絶句する。
「……プラドー家ですって?」
「ああ。ベルがあの"黒"のゴアを自分に残していったと、そう言っている」
サキは眉根を寄せると、持参した鞄の蓋を開けて中から雑誌を取り出す。トーマの特集が組まれている、例の『月刊 世界の伝承・神秘の伝説』である。
「しかしラルフ様、記事ではこうなっています」
サキは該当部分を声に出して読んだ。
「『いかんせん、この言葉の謎が解けたところで肝心の黒のゴアがない。 黒と青のゴアが揃い合わさる時――と、言葉は伝えているのに、実際受け継がれているのは"青のゴア"のみ』」
ラルフの話した内容と矛盾している。
「プラドー家に黒のゴアは受け継がれていないとあります。それなのになぜ、あの娘……失礼、ミアさんは本物の黒のゴアを持っているのですか。しかも、ベルさんに残されて?」
「不思議だな」
ラルフはサキから雑誌を取り上げると、発行元が記載されているページを開いて、冷たく目を光らせた。
「私も、おそらくお前も、胡散臭い伝承などには興味がない。だが気になるだろう、あの娘が身に着けている希少な宝……」
サキは沈黙で肯定を示した。
「黒のゴアを、どこで手に入れたのか」
ラルフはゆっくりと立ち上がり、サキの手を取った。
「……ラルフ様?」
動揺するサキだが、彼は自分の手の平を上に重ね、何やら呪文を唱えている。それからマントのポケットから大人の拳ほどの金塊を取り出し、サキに持たせた。
「なっ、何でしょうかこれは」
一目で純金とわかる重い塊を石ころみたいに渡され、サキは戸惑った。
「その住所に行って、記事を書いた者に会って来るのだ。そして、プラドー家の伝承を誰に取材したのか、確かめてくれ」
「……?」
見ると、手の甲に文字が刻まれている。先ほどラルフが呪文を呟いたのは、住所を写すためだったのだ。
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