琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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サキ博士の願望

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「そこで私は目先を変えてみました。このトーマという国がゴアに古くから関わりがあるのではと思い、ゴアドア城内の世界図書館で、関連資料を探したのです。職員と一緒に、夜明け近くまで」 
 個人的な関心ごとに職員を使うなど、いかにもサキらしい。相変わらずのなりふり構わぬ執着癖に、ラルフは微笑した。 
「それで、何か分かったのだな」 
「ええ、一応は……しかしそれが怪しげなもので」 
 サキは机の引き出しから一冊の本を取り出した。油紙でカバーされたそれは、本というより雑誌であった。中綴じの、薄っぺらい作りである。 

 月刊 世界の伝承・神秘の伝説

「世界各地に残る不思議な伝承をまとめた、好事家向けの雑誌です。発行部数の少ない、会報誌に近いもののようですね。これは20年ほど前に刊行された号で、トーマ国が特集されています」 
「トーマ国が?」 
 サキ博士は付箋をつけたページを開き、ラルフに示した。 
「『大陸の東に位置するトーマという小国に、不思議な伝承を持つ石がある。いにしえより国の要職を務める貴族プラドー家に伝わる家宝の一つで、石の名前はゴア。琥珀によく似た有機鉱物。宝飾品として楕円に加工され、プラドー家の長子に代々受け継がれている』」
 ラルフは目を閉じて、静かに聴いている。 

 ミアの言ったとおりだ。
 ベルはプラドー家の長子であり、それゆえに青のゴアを身に着けていたのだ。 

 サキはさらに続けた。 
「『プラドー家には、家宝の石とともに《 詩 》が伝わっている。それは――

   ーーーーーーーーーー

 黒と青のゴアが揃い、合わさる時、どんな望みも叶うだろう 

 太陽と月を支配し、聖なる光を手に入れる 

 偉大なる魔法使いが与えし力を得る者は、書を火にくべる勇気を持て 

   ーーーーーーーーーー

 ――実に謎めいた《 詩 》である。呪文のような伝承に、一体どのような意味があるのか? それは、当主プラドー伯爵にも不明のようだ……』 

 サキがここまで読み終えると、研究室の助手が紅茶と菓子を運んできた。 二人はソファに席を移して向かい合い、しばし一服する。
 
「伝承か。どんな望みも叶う……いくらでも転がっているな、そういう類の話は」 
 ラルフは小ばかにした感じで笑う。1000年を生きる青年には、数百年の伝承など根拠のない作り話に聞こえるのかもしれない。 
「ええ。こういった言い伝えは大抵迷信で、胡散臭いものですからね……しかしですよ、この『黒のゴア』というのは、どこにあるのでしょうね」
「……」 
 ラルフはカップを置くと、サキを見た。鎌をかけているわけではない。至極真面目な顔つきだ。 
「プラドー家にあるのだろう?」 
「私もそう思ったのですが……」
 当然のように返すラルフに彼女はかぶりを振り、記事の続きを読んだ。

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