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サキ博士の願望
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国をぐるりと囲む堀に沿って西回りにしばらく飛ぶと、紫の煙が上がるのろし台が見えてくる。
その根元にある広場にラルフは降下し、敬礼する兵士達に出迎えられた。
「お待ちしておりました、ラルフ様!」
兵士に頷き、ラルフは広場で待機していた人物に向かって足を進める。彼女のほうも駆け寄ってきた。
「お呼び立てして申しわけございません」
のろしを上げたのはサキ博士だった。王立研究所の責任者である彼女は、王城の許しを得てラルフを呼び出したようだ。白衣姿で、徹夜でもしたかのように目を充血させている。
「どうした、目が赤いぞ」
「はい。夜通し探し物をしていたもので」
「探し物?」
「はい。それで、あなたにご相談したいことが……とにかく、研究所へいらしてください」
早口で言うと、先に立って歩き出した。彼女らしからぬせっかちな態度である。
「ラルフ、僕はここで待ってるよ。どうせ退屈な話だろう」
「ん? ああ」
ルズはラルフの肩を離れ、木陰に飛んで行った。昼寝でもするつもりらしい。
「退屈な話か……さて、それはどうかな」
広場からは馬車で移動して城下へ入った。研究所に着くと、サキは所長室へ真っ直ぐに進み、ラルフを招き入れる。そして、扉を閉めるやいなや本題を切り出した。
「あのゴアという有機鉱物ですが」
机の上に、例の分厚い鉱物事典を広げ、ゴアのページを開いてみせる。
「昨日、あなたが帰られたあとに、この事典の他に資料がないか探してみたのです」
「ふむ」
さすが研究者だとラルフは感心するが、それはあえて口にせず、話を聞くのを優先した。
「何か見つかったのか」
「それが……この事典を丸写ししたような資料はいくつかありましたが、それ以上のものはさっぱり。本当に希少な化石のようで、詳しく研究された書物も記録もまったく見当たりませんでした」
「ほう。世界一の鉱物資料庫と言われるお前の研究所の中でも?」
「ええ」
サキはやるせないため息をついた。
「そうか。しかし私を呼び出すからには、何らかの発見があったのだろう」
ラルフの問いに彼女は顔を上げ、とても複雑な表情をした。
「発見といいますか……これを見てください」
サキは本の最後のページをめくり、奥付を広げた。
「この事典の発行は500年前です」
「ふうん、年代物だな。編纂は……」
ラルフは奥付の文字を辿り、はっとする。サキがその箇所を指さし、声に出して言った。
「この鉱物事典をまとめたのは、東の小国トーマの鉱物博物館内『鉱物関連資料編纂室』となっています」
「トーマ……」
ラルフは思わず胸ポケットを押さえた。
その根元にある広場にラルフは降下し、敬礼する兵士達に出迎えられた。
「お待ちしておりました、ラルフ様!」
兵士に頷き、ラルフは広場で待機していた人物に向かって足を進める。彼女のほうも駆け寄ってきた。
「お呼び立てして申しわけございません」
のろしを上げたのはサキ博士だった。王立研究所の責任者である彼女は、王城の許しを得てラルフを呼び出したようだ。白衣姿で、徹夜でもしたかのように目を充血させている。
「どうした、目が赤いぞ」
「はい。夜通し探し物をしていたもので」
「探し物?」
「はい。それで、あなたにご相談したいことが……とにかく、研究所へいらしてください」
早口で言うと、先に立って歩き出した。彼女らしからぬせっかちな態度である。
「ラルフ、僕はここで待ってるよ。どうせ退屈な話だろう」
「ん? ああ」
ルズはラルフの肩を離れ、木陰に飛んで行った。昼寝でもするつもりらしい。
「退屈な話か……さて、それはどうかな」
広場からは馬車で移動して城下へ入った。研究所に着くと、サキは所長室へ真っ直ぐに進み、ラルフを招き入れる。そして、扉を閉めるやいなや本題を切り出した。
「あのゴアという有機鉱物ですが」
机の上に、例の分厚い鉱物事典を広げ、ゴアのページを開いてみせる。
「昨日、あなたが帰られたあとに、この事典の他に資料がないか探してみたのです」
「ふむ」
さすが研究者だとラルフは感心するが、それはあえて口にせず、話を聞くのを優先した。
「何か見つかったのか」
「それが……この事典を丸写ししたような資料はいくつかありましたが、それ以上のものはさっぱり。本当に希少な化石のようで、詳しく研究された書物も記録もまったく見当たりませんでした」
「ほう。世界一の鉱物資料庫と言われるお前の研究所の中でも?」
「ええ」
サキはやるせないため息をついた。
「そうか。しかし私を呼び出すからには、何らかの発見があったのだろう」
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「発見といいますか……これを見てください」
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「ふうん、年代物だな。編纂は……」
ラルフは奥付の文字を辿り、はっとする。サキがその箇所を指さし、声に出して言った。
「この鉱物事典をまとめたのは、東の小国トーマの鉱物博物館内『鉱物関連資料編纂室』となっています」
「トーマ……」
ラルフは思わず胸ポケットを押さえた。
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