琥珀色の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
29 / 88
サキ博士の願望

しおりを挟む
 国をぐるりと囲む堀に沿って西回りにしばらく飛ぶと、紫の煙が上がるのろし台が見えてくる。
 その根元にある広場にラルフは降下し、敬礼する兵士達に出迎えられた。 
「お待ちしておりました、ラルフ様!」 
 兵士に頷き、ラルフは広場で待機していた人物に向かって足を進める。彼女のほうも駆け寄ってきた。
「お呼び立てして申しわけございません」 
 のろしを上げたのはサキ博士だった。王立研究所の責任者である彼女は、王城の許しを得てラルフを呼び出したようだ。白衣姿で、徹夜でもしたかのように目を充血させている。 

「どうした、目が赤いぞ」 
「はい。夜通し探し物をしていたもので」 
「探し物?」 
「はい。それで、あなたにご相談したいことが……とにかく、研究所へいらしてください」 
 早口で言うと、先に立って歩き出した。彼女らしからぬせっかちな態度である。 
「ラルフ、僕はここで待ってるよ。どうせ退屈な話だろう」
「ん? ああ」 
 ルズはラルフの肩を離れ、木陰に飛んで行った。昼寝でもするつもりらしい。
「退屈な話か……さて、それはどうかな」
 
 広場からは馬車で移動して城下へ入った。研究所に着くと、サキは所長室へ真っ直ぐに進み、ラルフを招き入れる。そして、扉を閉めるやいなや本題を切り出した。
「あのゴアという有機鉱物ですが」 
 机の上に、例の分厚い鉱物事典を広げ、ゴアのページを開いてみせる。 
「昨日、あなたが帰られたあとに、この事典の他に資料がないか探してみたのです」 
「ふむ」 
 さすが研究者だとラルフは感心するが、それはあえて口にせず、話を聞くのを優先した。

「何か見つかったのか」 
「それが……この事典を丸写ししたような資料はいくつかありましたが、それ以上のものはさっぱり。本当に希少な化石のようで、詳しく研究された書物も記録もまったく見当たりませんでした」 
「ほう。世界一の鉱物資料庫と言われるお前の研究所の中でも?」 
「ええ」
 サキはやるせないため息をついた。 
「そうか。しかし私を呼び出すからには、何らかの発見があったのだろう」 
 ラルフの問いに彼女は顔を上げ、とても複雑な表情をした。 
「発見といいますか……これを見てください」 

 サキは本の最後のページをめくり、奥付を広げた。 
「この事典の発行は500年前です」 
「ふうん、年代物だな。編纂は……」 
 ラルフは奥付の文字を辿り、はっとする。サキがその箇所を指さし、声に出して言った。 
「この鉱物事典をまとめたのは、東の小国トーマの鉱物博物館内『鉱物関連資料編纂室』となっています」 
「トーマ……」 
 ラルフは思わず胸ポケットを押さえた。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...