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穏やかな朝
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ラルフは結界を張り終えると、念のため魔除けの呪術を屋敷の四隅に施した。
「これで当分は持つだろう」
額に浮いた汗を拭い、ふっと息をつく。
呪術に集中したのは久しぶりなので、体力が消耗した。だるい体を励ましながら寝室に戻ると、裸のまま床に倒れているミアを抱き起こした。
魔物の貌をまともに見てしまったようだ。驚いた拍子に、ベッドから転げ落ちたのだろう。
「ん?」
見ると、気を失いながらも胸のゴアをしっかりと握っている。
「そうか。魔除けのお守りだったな」
クスッと笑うと、ミアの顔や姿をあらためて見回した。燭台の灯りに、無防備な裸体が鮮やかに浮き上がっている。
「やはり何の変哲もない、ただの娘だ」
ラルフはミアを膝の上で横抱きにすると、初夜の儀式を思い返した。
痩せているようで、抱き心地はなかなか良い。媚薬なしでも快楽を得ることができたのは意外だった。娘の唯一の美点である緑の瞳と、聖なる光のおかげで悲愴な夜にならずに済んだともいえる。
また、ミアが見せたラルフへの抵抗――快楽に抗う姿は新鮮だった。乙女ゆえだろうか。
「頑固な拒絶を捻じ伏せた瞬間は、まさに痛快。お前には悪いが、私には至福のひと時だったよ」
勝手なことを語りかけつつも、ラルフはミアを大事に毛布にくるみ、そっとベッドに寝かせた。ゴアに、そしてミアの頬にも口付けると、疲れた身体を彼女の横に沈めて、すぐに眠ってしまった。
翌朝、ラルフはルズのけたたましい鳴き声と羽ばたきに叩き起こされた。
「何だルズ、朝からここで何をしている」
ベッドにミアの姿はない。台所で朝食の支度をしているのだろう。
「その朝食なんだけどね、食糧庫がすっからかんだろうから持ってきてあげたんだよ。僕が、早起きして、わざわざ!」
妖獣は羽ばたくのを止めてラルフの肩に掴まると、恩着せがましく言った。
「ほう、えらく気が利くじゃないか」
ラルフは面白そうに笑い、ルズの喉を軽く撫でてやった。
「それからさ、ミアの服が見当たらないから、クローゼットの適当なのを着せておいたよ。いいでしょ」
「うん?」
ミアの服はその辺に放ってあったはずだが……ラルフはそう言いかけて、すぐに察した。ミアの服があまりにボロなので、ルズが隠したのだろう。
「別に構わんよ。だが、ミアに合うサイズがあったかどうか。今までの妻はグラマー揃いだったからね」
ベッドを出て鏡の前に行くと、ラルフはシャツの襟を直し、髪を後ろで束ねた。あまり眠らなかったわりに顔色が良い。精力が漲っている。
「どうやら、あの娘とは身体が合うようだ」
ラルフが食卓に着くと、ミアが朝食を運んできた。
紺色のワンピースを着て、その上にエプロンをかけている。髪も後ろにきちんと結い上げてあり、今朝の彼女は小奇麗な印象だ。
それだけでなく、どこか変化したようにラルフは感じたが、はっきりと分からなかった。
「お洋服を、クローゼットからお借りしました」
白いんげんのサラダをテーブルに置きながら、ミアが報告した。
彼女はうっすらと頬を染めているが、ラルフは気付かない振りをした。夜は夜、昼は昼である。
「うん、勝手に使うといい」
素っ気なく答えると、ミアの後ろ姿に目を当てる。腰の辺りに紐を巻き、スカート丈を調節している。やはり丈が合わないようだ。
「これで当分は持つだろう」
額に浮いた汗を拭い、ふっと息をつく。
呪術に集中したのは久しぶりなので、体力が消耗した。だるい体を励ましながら寝室に戻ると、裸のまま床に倒れているミアを抱き起こした。
魔物の貌をまともに見てしまったようだ。驚いた拍子に、ベッドから転げ落ちたのだろう。
「ん?」
見ると、気を失いながらも胸のゴアをしっかりと握っている。
「そうか。魔除けのお守りだったな」
クスッと笑うと、ミアの顔や姿をあらためて見回した。燭台の灯りに、無防備な裸体が鮮やかに浮き上がっている。
「やはり何の変哲もない、ただの娘だ」
ラルフはミアを膝の上で横抱きにすると、初夜の儀式を思い返した。
痩せているようで、抱き心地はなかなか良い。媚薬なしでも快楽を得ることができたのは意外だった。娘の唯一の美点である緑の瞳と、聖なる光のおかげで悲愴な夜にならずに済んだともいえる。
また、ミアが見せたラルフへの抵抗――快楽に抗う姿は新鮮だった。乙女ゆえだろうか。
「頑固な拒絶を捻じ伏せた瞬間は、まさに痛快。お前には悪いが、私には至福のひと時だったよ」
勝手なことを語りかけつつも、ラルフはミアを大事に毛布にくるみ、そっとベッドに寝かせた。ゴアに、そしてミアの頬にも口付けると、疲れた身体を彼女の横に沈めて、すぐに眠ってしまった。
翌朝、ラルフはルズのけたたましい鳴き声と羽ばたきに叩き起こされた。
「何だルズ、朝からここで何をしている」
ベッドにミアの姿はない。台所で朝食の支度をしているのだろう。
「その朝食なんだけどね、食糧庫がすっからかんだろうから持ってきてあげたんだよ。僕が、早起きして、わざわざ!」
妖獣は羽ばたくのを止めてラルフの肩に掴まると、恩着せがましく言った。
「ほう、えらく気が利くじゃないか」
ラルフは面白そうに笑い、ルズの喉を軽く撫でてやった。
「それからさ、ミアの服が見当たらないから、クローゼットの適当なのを着せておいたよ。いいでしょ」
「うん?」
ミアの服はその辺に放ってあったはずだが……ラルフはそう言いかけて、すぐに察した。ミアの服があまりにボロなので、ルズが隠したのだろう。
「別に構わんよ。だが、ミアに合うサイズがあったかどうか。今までの妻はグラマー揃いだったからね」
ベッドを出て鏡の前に行くと、ラルフはシャツの襟を直し、髪を後ろで束ねた。あまり眠らなかったわりに顔色が良い。精力が漲っている。
「どうやら、あの娘とは身体が合うようだ」
ラルフが食卓に着くと、ミアが朝食を運んできた。
紺色のワンピースを着て、その上にエプロンをかけている。髪も後ろにきちんと結い上げてあり、今朝の彼女は小奇麗な印象だ。
それだけでなく、どこか変化したようにラルフは感じたが、はっきりと分からなかった。
「お洋服を、クローゼットからお借りしました」
白いんげんのサラダをテーブルに置きながら、ミアが報告した。
彼女はうっすらと頬を染めているが、ラルフは気付かない振りをした。夜は夜、昼は昼である。
「うん、勝手に使うといい」
素っ気なく答えると、ミアの後ろ姿に目を当てる。腰の辺りに紐を巻き、スカート丈を調節している。やはり丈が合わないようだ。
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