琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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魔物の狙い

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 今、何時だろう。もう夜明けは近いのだろうか。
 いや、違う。部屋を仄かに照らすのは、暗闇に反応するゴアの光である。
 まだ夜は続いているようだ。

 ミアは初めての経験に、驚きと悦びを感じている。
 怖くて、逃げ出したいほど怖かったのに、どうなっているのだろう。
 隣で眠るのは、地上のものとは思えない、妖しげで冷酷な美しさを持つ森の番人。
「ラルフ……さま」
 1000年もの間、この暗い森の中で、青年の姿のまま生き続けているのだとルズから聞いた。
 ただの人間の男ではない。魔物を手懐けるほどの力を持っているという。得体の知れない、恐ろしい術を使って私をこんなふうにしたのだ。

(負けちゃだめ……早く、ベル様を捜さなければ)

 彼女は自分に言い聞かせた。
「忘れないで、ミア。あなたがなすべきことを」
 だがミアの身体はラルフの思うままに導かれ、何も考えられないような快楽の波に呑みこまれた。ベルを見つけ出すという使命は意識の底の葬られ、もはやどうでもいいことのようにすら感じてしまう。
「だめ、負けちゃだめ……」
 ミアは雑念を払うように、強く頭を振った。

(私はベル様を見つけ出す。どうしても、見つけ出すのだ)

 心で念じた時、ラルフがいきなり起き上がった。
「……!?」
 ミアは驚いて声を上げそうになるが、彼の手に口を塞がれる。
「ラ、ラルフ様?」
「魔物が来ている」
 彼は低い声で教え、素早く衣服を身に着けてマントを羽織った。燭台に灯を点すと、ミアの胸もとに揺れるゴアが、すうっと光をおさめる。
「お前はここにいろ。動くなよ」
「は、はい」
 ラルフは深く息を吸い込むと、ミアの傍を離れた。窓を静かに開け、その隙間から滑るように出て行く。
「……?」
 窓が閉まる刹那、地獄の底から響くような、恐ろしい声が聞こえた。あれは魔物の咆哮だろうか。
 ミアは毛布にくるまり、ラルフの言いつけどおりじっとしていた。


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