琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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儀式の準備

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「お前は私の妻なのだから、いちいち断らなくていい」
「す、すみません」
 食堂もきれいに掃除してある。屋敷中を一日で磨き上げ、花を造って飾り、食事の仕度もこなす彼女の能力は確かに素晴らしい。この娘にも、取り柄はあったようだ。
 ラルフはふっとため息をつく。
「家のことはお任せするよ。実に優秀な奥様ぶりに、さっきから驚かされている」 
「えっ」
 ラルフの言葉を聞き、ミアは頬を赤らめた。 
「奥様だなんて、そんな……それに、家事を褒めていただいたのは、生まれて初めてです」 

 なるほど――
 ミアが仕える貴族の屋敷では、これくらい当たり前の仕事なのだ。幼い頃から家政婦としての技術を叩き込まれてきたというのは本当らしい。

「あの、どうかされましたか」 
 おずおずと窺ってくるミアに、ラルフは笑いかけた。 
「どうもしないよ。腹が空いたから、早く料理を運んでくれ」 
「はっ、はい」 
 慌てて台所に戻る彼女の肩に、ルズがずっと張り付いている。 
(妖獣があんなに人間に懐いてどうするんだ)
 ラルフは呆れると同時に、そんな現象が初めてであることに思い至る。
 ミアは今までの妻とは違う。ずいぶんと異質な女であるのを、つくづくと感じていた。 

「ふむ、美味いな」
 ミアの料理はラルフの口に合う。特に煮込み料理が味わい深い。手の込んだ料理は久しぶりなので、美味く感じるのかもしれないが。
「お屋敷の庭に、野菜畑を作っても良いですか。新鮮な葉物のお野菜が欲しいので」
 ミアの要望を、ラルフは二つ返事で承諾した。
「どんどんやるが良い。根菜ばかりでは飽きるからな」
「はい、ありがとうございます」

 ルズが城で貰ったミネラルをかじりつつ、料理を次々に平らげるラルフを珍しそうに見やった。
「すごい食欲だね。ラルフって実は大食漢なんだ」
「健啖家と言え」
 ラルフは腹を立てた風でもなく、鶏の香草焼きを切り分けては口に運ぶ。
 二人のやり取りが可笑しかったのか、ミアがワインを注ぐ手を休め、クスッと笑った。
「ん?」
 ナイフを止めたラルフが、彼女を見上げる。
「あっ、すみません……私」
 ミアが気まずそうに詫びるので、今度はラルフがクスッと笑う。
「何度も言うように、お前は家政婦ではなく私の伴侶になったのだ。堅苦しくするな。遠慮もいらん」
「は、はいっ。分かりました」
 と言いながら、直立不動で返事する。ラルフは肩をすくめると、ナイフを動かし始めた。

 食事が済むと、ラルフは居間のソファで少し休んだ。
 それから台所で片付けをするミアに、「あとで上に来なさい」と声をかけてから、夜の仕度に取りかかる。外はすっかり日が暮れて、森も屋敷も、闇に覆われていた。



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