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ゴアドアの城
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街の一角でルズと別れたラルフは、世界中のあらゆる鉱物・化石に精通した学者であり、大陸きっての博識を誇るサキ博士の研究所へ足を運んだ。
研究所の最も奥にある所長室に、サキ博士がいた。
長いブルネットの髪を無造作に束ね、黒のスーツに白衣を羽織っている。拡大鏡を覗いているところだった。
ラルフは壁をコンコンと叩き、来訪を知らせた。
サキは拡大鏡から顔を上げて、さっと振り向く。そして眼鏡越しにラルフを懐かしそうに見つめ、親愛の微笑を浮かべた。
「まあ、めずらしいお客様だわ」
すすめられた椅子に、ラルフは腰掛けた。
所長室は天井に届くほどの書棚にぐるりと囲まれている。換気窓から差し込む自然光のおかげで、意外に明るい。
「久しぶりだな、サキ」
「ええ、本当に」
自然光のもと、ラルフは彼女と向き合い目を細めた。
「森で初めて会った時、お前はまだほんの子どもだったな。あれから20年になるか」
「ええ、もう30になりますよ」
サキは10歳で家出をし、暗黒の森をさまよっているところをラルフに発見された。そして選別に合格し、ゴアドアに無事通された"有益"な人間の1人である。
女ではあるが、当時の彼女はまだ子どもであり、ラルフの妻には選ばれなかった。
その代わり、学者になって鉱物王国ゴアドアで石の研究をしたいという望みを聞き入れられ、そのとおり世界に名を馳せるまでの博士となった。
彼女が生まれ育った貧しい国には、夢を叶えられる機関などなかったという。ゆえに家を飛び出し、ゴアドアを目指したのだ。
「ラルフ様。あなたには感謝しきれないほどの恩があります」
「恩に着ることはない。魔物に喰わせるには惜しい人間を通しただけだ」
サキは信念を持って危険な旅をし、ゴアドアを目指した。強く美しい女に、ラルフは寛大な心で接する。
「ところで、今日はどのような用向きですか? 私でお役に立てるのなら、何でも協力しますわ」
「うむ。これを見てほしい」
椅子を向き合わせて座る彼女に、ラルフは胸ポケットからそれを取り出してみせた。
ベルが持っていた琥珀――青いゴアである。
「これは……」
サキは驚きの表情になり、壊れ物を扱うかのような慎重さで、石を受け取る。
ためつすがめつした後、拡大鏡で詳しく調べ始めた。
「手触りも、この化石独特の軽い感じも、琥珀っぽい……でも違う。これは、樹脂でできたものではない。色合いもそうよ。青琥珀とはもっと別の、特殊な深みを持っているわ」
サキは拡大鏡の倍率を上げて、さらに観察する。
ラルフが見守っていると、彼女はふいに立ち上がり、書棚から分厚い本を抜き出した。せっかちにページをめくり、ある箇所を開いてラルフに見せた。
研究所の最も奥にある所長室に、サキ博士がいた。
長いブルネットの髪を無造作に束ね、黒のスーツに白衣を羽織っている。拡大鏡を覗いているところだった。
ラルフは壁をコンコンと叩き、来訪を知らせた。
サキは拡大鏡から顔を上げて、さっと振り向く。そして眼鏡越しにラルフを懐かしそうに見つめ、親愛の微笑を浮かべた。
「まあ、めずらしいお客様だわ」
すすめられた椅子に、ラルフは腰掛けた。
所長室は天井に届くほどの書棚にぐるりと囲まれている。換気窓から差し込む自然光のおかげで、意外に明るい。
「久しぶりだな、サキ」
「ええ、本当に」
自然光のもと、ラルフは彼女と向き合い目を細めた。
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「ええ、もう30になりますよ」
サキは10歳で家出をし、暗黒の森をさまよっているところをラルフに発見された。そして選別に合格し、ゴアドアに無事通された"有益"な人間の1人である。
女ではあるが、当時の彼女はまだ子どもであり、ラルフの妻には選ばれなかった。
その代わり、学者になって鉱物王国ゴアドアで石の研究をしたいという望みを聞き入れられ、そのとおり世界に名を馳せるまでの博士となった。
彼女が生まれ育った貧しい国には、夢を叶えられる機関などなかったという。ゆえに家を飛び出し、ゴアドアを目指したのだ。
「ラルフ様。あなたには感謝しきれないほどの恩があります」
「恩に着ることはない。魔物に喰わせるには惜しい人間を通しただけだ」
サキは信念を持って危険な旅をし、ゴアドアを目指した。強く美しい女に、ラルフは寛大な心で接する。
「ところで、今日はどのような用向きですか? 私でお役に立てるのなら、何でも協力しますわ」
「うむ。これを見てほしい」
椅子を向き合わせて座る彼女に、ラルフは胸ポケットからそれを取り出してみせた。
ベルが持っていた琥珀――青いゴアである。
「これは……」
サキは驚きの表情になり、壊れ物を扱うかのような慎重さで、石を受け取る。
ためつすがめつした後、拡大鏡で詳しく調べ始めた。
「手触りも、この化石独特の軽い感じも、琥珀っぽい……でも違う。これは、樹脂でできたものではない。色合いもそうよ。青琥珀とはもっと別の、特殊な深みを持っているわ」
サキは拡大鏡の倍率を上げて、さらに観察する。
ラルフが見守っていると、彼女はふいに立ち上がり、書棚から分厚い本を抜き出した。せっかちにページをめくり、ある箇所を開いてラルフに見せた。
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