琥珀色の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
16 / 88
ゴアドアの城

しおりを挟む
 街の一角でルズと別れたラルフは、世界中のあらゆる鉱物・化石に精通した学者であり、大陸きっての博識を誇るサキ博士の研究所へ足を運んだ。
 研究所の最も奥にある所長室に、サキ博士がいた。
 長いブルネットの髪を無造作に束ね、黒のスーツに白衣を羽織っている。拡大鏡を覗いているところだった。
 ラルフは壁をコンコンと叩き、来訪を知らせた。
 サキは拡大鏡から顔を上げて、さっと振り向く。そして眼鏡越しにラルフを懐かしそうに見つめ、親愛の微笑を浮かべた。
「まあ、めずらしいお客様だわ」

 すすめられた椅子に、ラルフは腰掛けた。
 所長室は天井に届くほどの書棚にぐるりと囲まれている。換気窓から差し込む自然光のおかげで、意外に明るい。
「久しぶりだな、サキ」
「ええ、本当に」
 自然光のもと、ラルフは彼女と向き合い目を細めた。
「森で初めて会った時、お前はまだほんの子どもだったな。あれから20年になるか」
「ええ、もう30になりますよ」

 サキは10歳で家出をし、暗黒の森をさまよっているところをラルフに発見された。そして選別に合格し、ゴアドアに無事通された"有益"な人間の1人である。
 女ではあるが、当時の彼女はまだ子どもであり、ラルフの妻には選ばれなかった。
 その代わり、学者になって鉱物王国ゴアドアで石の研究をしたいという望みを聞き入れられ、そのとおり世界に名を馳せるまでの博士となった。
 彼女が生まれ育った貧しい国には、夢を叶えられる機関などなかったという。ゆえに家を飛び出し、ゴアドアを目指したのだ。

「ラルフ様。あなたには感謝しきれないほどの恩があります」
「恩に着ることはない。魔物に喰わせるには惜しい人間を通しただけだ」
 サキは信念を持って危険な旅をし、ゴアドアを目指した。強く美しい女に、ラルフは寛大な心で接する。
「ところで、今日はどのような用向きですか? 私でお役に立てるのなら、何でも協力しますわ」
「うむ。これを見てほしい」
 椅子を向き合わせて座る彼女に、ラルフは胸ポケットからそれを取り出してみせた。
 ベルが持っていた琥珀――青いゴアである。

「これは……」
 サキは驚きの表情になり、壊れ物を扱うかのような慎重さで、石を受け取る。
 ためつすがめつした後、拡大鏡で詳しく調べ始めた。
「手触りも、この化石独特の軽い感じも、琥珀っぽい……でも違う。これは、樹脂でできたものではない。色合いもそうよ。青琥珀とはもっと別の、特殊な深みを持っているわ」 
 サキは拡大鏡の倍率を上げて、さらに観察する。
 ラルフが見守っていると、彼女はふいに立ち上がり、書棚から分厚い本を抜き出した。せっかちにページをめくり、ある箇所を開いてラルフに見せた。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...