琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ゴアドアの城

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 菓子と紅茶が運ばれてきたので一旦二人は離れ、各々椅子に深く腰掛けた。
「トーマか。あそこは小国だが、わが国と同じく地下資源に恵まれているからな、財は豊かなはずだ」
 王はラルフのカップに手ずから紅茶を注いでやると、菓子とともにすすめた。
「あと、民俗学者の間ではこんな説もある。トーマの人間は我々と同じく、もともとは北の大陸から流れてきた民族で、もしかしたらご先祖は同じかもしれぬ……というものだ」
「ほう、さすが王だな。よく知っている」
「幼い頃よりさんざん勉強させられた。明けても暮れても教育係と差し向かいで歴史、経済、文化……」
 いつもの愚痴が始まった。
 ラルフは手を振ってそれを制すと、鉱物をぽりぽり食べているルズを呼んだ。

「ラルフ、もう行くのか」
 王は顔を曇らせ、名残惜しそうに彼を引き止めた。
「すまないが、これから寄るところがあるのでね。そうそう、ひとつ確認したいのだが」
「何だ」
「ゴアドアというのは、古い言語であったな」
 王は不思議そうにラルフを見上げた。
「そうだ。この地に国を建てた初代王の名だ。1000年も前に使われていた言葉であるから、その頃から生きているお前のほうが、よく知っておるだろう」
「ああ。だがもう昔の話だからな。正確なところは忘れている」
 王は大仰に咳払いすると、胸を反らせてラルフに教えた。

「我が偉大なる初代王ゴアドアの名は、聖なる光という意味を持つ。ゴアは『光』、ドアは『聖』」
「……なるほど。思い出した」
 ラルフはまだ講釈をしたそうな王に礼を言うと、もう一度ルズを呼んだ。ルズは渋々という顔で鉱物を仕舞い、ぱたぱた飛んできた。
「じゃまをしたな、ハモンド」
「いや、元気な顔を見られて安堵した。またいつでも来るが良い」
 ルズが肩に乗ると、ラルフはマントを翻して王の間を出た。衛兵が並ぶ長い廊下を戻り、突き当たりの昇降機の前に立つ。

「ルズ、これからサキのところに行く」
「そっか。ラルフを送ったら、僕は鉱山に遊びに行ってくるよ。自由に散策していいって、大臣の許可も貰ったし」
 ラルフは呆れ顔になる。
「まだ腹が減っているのか」
「東の鉱山ズリに、美味しいミネラルがたくさん散らばってるんだ。どうせ廃棄されるんだから、僕が拾って食べてやるのさ」
「ふうん。ミネラルもいいが、私のことを忘れるなよ」
 ラルフは懐中時計を確かめ、待ち合わせの時間と場所をルズと約束してから、昇降機の籠に乗り込んだ。


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