琥珀色の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
14 / 88
ゴアドアの城

しおりを挟む
 ゴアドアの城は、森を越えたらじきに見えてくる。
 にぎやかな城下の街を俯瞰しつつ、城を幾重にも囲む魔法の壁をすり抜け、妖獣は飛ぶ。城の真上で一旦静止すると、そのままゆっくりと降下し、高い塔のてっぺんにある妖獣専用のポートへ爪を接した。

「ラルフ様、ようこそゴアドア城へ!」
 衛兵が敬礼をして出迎える。
 そのほうへ軽く頷くと、ラルフは昇降機に乗り、城の内部へと下りた。
「王様に、ちゃんと話をしてよ」
 ルズがラルフの肩に乗り、何度も念を押す。彼はミネラルのことで頭がいっぱいのようだ。
「わかってるよ。焦るな」

 ラルフは昇降機の籠を降りると、マントを翻して王の間へ続く長い廊下を悠々と進んだ。
 先導もなしで勝手に歩いて行くのを、廊下の両側に並び立つ屈強な近衛兵が敬礼で見送る。姿勢を一定に保ち微動だにしない姿は、まるで石像のようだ。
 ゴアドア王国において、王の間へ自由に出入りできるのはラルフのみ。王族すら差し置いての特権だった。それは1000年の間、変わることなく許されている。
 もっとも、ラルフが王城を訪ねることはほとんどなく、特権など放棄しているに等しいのだが。

「おお、久しぶりだなラルフ。どうしたのだ突然」
 生まれる前から見守ってきた現ゴアドア王も齢60を越え、その大柄な体躯には君主としての貫禄が備わっている。
 しかしそんな王も、ラルフの前では王子の頃に自然と戻ってしまうようだ。王座から降りると、嬉しそうにラルフの手を取り、来城を歓迎した。
「ほほう、元気そうだなハモンド。そろそろ譲位の頃かと思っていたが」
 王にテラスへと引っ張られながら、ラルフはからかうように笑った。

「何を言うか。私の時代はまだまだこれからが本番だぞ。特製の揚げ菓子を用意させよう」
「すまないがルズにも高級なおやつを頼むよ。さっきからうるさくてね」
「ああ、もちろんだ。分かっておる」
 王は大臣に命令し、ルズのために採掘しておいた良質なミネラルを持ってこさせた。
 銀のトレーに載せられたそれは、磨けば宝飾品にもなる純度の高い鉱物で、ルズにとっては最高に美味しいエネルギー源だ。
「一つは今食べて、あとは取っておこうっと。もったいないからね」
 はしゃぐ相棒を脇に置き、ラルフは王の耳元にそっと近付いた。

「元妻のことだが」
「……何番目の?」
 王はラルフが城内に送り込んでくる、元妻達の顔を思い浮かべた。どれもこれも皆、枯れた老婆ではあるが。
「一番、最近のだ」
「ああ、ベルとかいう、お前にしては長く続いたほうの」
 表情を変えずにラルフは頷く。
「実はひょんなことから、あれが東の小国トーマの出身だということが分かった。そのトーマという国について訊きたいのだ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

処理中です...