琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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黒と青のゴア

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「何ひとつ不自由のない生活を保証する。私の妻になれば、どんな望みも叶えられるだろう」
 ラルフはいつもの口説き文句を並べはじめた。
 こんな娘っこにめんどうな手続きなど不要。しかし本気だというところは見せるべきだ――

 ミアは何の事だかわからないといった風に、きょとんとしている。
「この世に恐れるものはなくなり、それどころか世界中に畏怖される存在となる。どうだ、ミア」
 ラルフはミアの足元にひざまずくと、琥珀を握りこんだ彼女の手を包むように取り、キスをした。
 ミアは弾かれたように立ち上がると、手を振りほどき、後ろに飛びすさる。
「お戯れを!」
 思わぬ反応だった。ラルフは膝をついたまま、ぽかんとする。

「ばかげたことをおっしゃる。なぜ、いきなりそんなことを……あなたの妻になるなど無理です。できません」
「……本気で言っているのか」
 彼はこれまで、どんな気の強い女にも、これほど激しく拒絶されたことはない。皆、迷うそぶりをするが、まんざらでもない顔をして、求婚を受け入れたものだ。
 どんな強靭な精神力も、魔力を含んだキスにあっけなく蕩け、冴え冴えとして冷たい、夜空の月を思わせる美しい青年、ラルフの虜になった。

 求婚において、百戦錬磨の実績を誇るラルフのプライドは、意外なほどの傷を負った。「ばかげたこと」と一蹴された事実が、ひどくこたえている。

 いつの間にか食堂に戻っていたルズが、笑うように鳴きながらラルフの頭上を旋回する。そして、当然のようにミアの肩へと着地した。
「ルズ、お前……」
 ラルフは唇を噛みしめ、長年の相棒である妖獣を睨んだ。
 しかし、彼は彼らしさを失わず、冷静に思考する。

 この娘は怖気づいているのだ。
 私のような男に求められるなど、想像もできなかっただろう。
 それこそ、戯れにしか思えないのだ。
 ましてや強く美しい女達のように、これを機会にのし上がろうなど、これっぽちも発想しない。
 故郷での慎ましやかな生活にしがみ付き、なんら変わり映えのない己に甘んじる。
 なんという情けなさよ。
 あまりにも脆弱――!

(それにしても、それにしてもだ。この私を退けるとは)
 ラルフは何だか本当に腹が立ってきた。
(お前の仕えるお嬢様のベルは、ふたつ返事で承諾したぞ。そのベルの、爪の先ほどの魅力もないくせに)
 すくと立ち上がると、怯えながらも琥珀をしっかりと胸に抱く娘に迫った。
 怒りを抑え、せいいっぱいの笑みを広げる。


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