琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ラルフとミア

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 娘は料理を運んできた。
「調理場にあるものを、適当に使わせていただきました」
 そう言いながら、ずいぶんと遠慮なく食材を使用したと見える。しかし、ラルフが文句をつけようにも、あまりにも美味しそうな匂いである。
 夜中から働いていたため腹が減っている。とりあえず、食材の件は後回しにして、娘とともにテーブルについた。
「……?」
 娘の首の後ろから、ルズがひょっこり顔を出した。そして、相棒が娘をいじめないよう、目で牽制している。
「やれやれ、いつからそこにいたんだ」
 ルズはクルルル……と鳴くのみで、答えない。ラルフは肩をすくめ、二つのカップにミルクティーを注いだ。娘は驚いた顔で、ぺこりと頭を下げる。

 二人は黙々と食べ始めた。
「どんな魔法を使ったのか知らないが、えらく美味いじゃないか」
 ゆで卵をスプーンですくって口に含み、ラルフは感心する。単なるゆで卵がこんなにも香ばしく、味わい深くなるのだから妙なものである。
「私は幼い頃より、料理や掃除など、家政婦としての技術を叩き込まれていますので」
 ラルフはスプーンを置いた。そして、その銀のスプーンが磨き抜かれているのに、今初めて気が付く。
「家政婦だと?」

 娘は頷くと、意を決したように顔を上げ、ラルフに告白した。
「申しわけございません、ラルフ様。私は、東の小国トーマからやって参りました。トーマの財務大臣プラドー伯爵のお屋敷にお仕えする、家政婦のミアという者です」
「……」
 娘は震えながらも、視線を外さない。今の内容に嘘はないと、ラルフは判断した。
「では、姉を捜す云々という話は?」
「ゴアドアに行くと言って家出をされたのは、プラドー家の一人娘……ベル様です!」
 ベルを捜してここまで来たのは、間違いないらしい。

「妹と偽ったのはなぜだ。母親が倒れたという話もでたらめか」
「そのほうが同情をかって捜しやすいだろうと、だんな様と奥様のお言いつけで……」
 ラルフはしょんぼりと肩を落とすミアを、冷たく見据えた。
「それでお前は、じゃじゃ馬のお嬢様のために、魔物がウロウロするこの森に、のこのこ入って来たわけか。しかもたった一人きりで」
「国を出た時は、軍人も交えた捜索隊を組んでいたのです。だけど途中で……」
「一人抜け、二人抜け……か。まあ大体分かるよ。魔物に呑まれて死にたいやつはいないだろう」
 ラルフは薄く笑い、朝食の続きを始めた。情けない話に付き合ううちに、冷めてしまうではないか。

「森の入り口に着く頃、私はとうとう一人になってしまいました。仕方なく森に入ったものの、疲労と心細さが襲ってきました。もう駄目だ、引き返そうと思ったところへ番人……ラルフ様が現れ。助けてくださったのです」
 ミアの肩で大人しく聞いていたルズが、いかにも愉快そうに鳴いた。
「助けた? ばかを言え、それどころか私は……」
 そのお嬢様を行方不明にさせた張本人だ。それに、お前をここへ連れてきたのは、黒の琥珀が目当てであり、すべて成り行きにすぎない。
 そう教えようとして、口をつぐむ。
 ミアの瞳がエメラルドのように輝いている。その美しさを涙で曇らせるのは不吉だと、ラルフは直感した。


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