琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ラルフとミア

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 真夜中に二人の人間が森に侵入した。
 ラルフはルズを起こすと、巨大化した彼の背中に乗り、その気配目がけて真っ直ぐに飛んだ。侵入者を見つけて容姿、身なりなどを観察し、正体を引き出すための問答をする。結果、一人は通したが一人は始末した。
 仕事から帰る頃には空が白みかけていた。


「あの子、一人で大丈夫かな」
 羽毛の温もりが眠気を誘う。ラルフがあくびしていると、ルズがひとり言のように話しかけてきた。
「お前、あれを気に入ったのか?」
 馬鹿にするような、からかうような口調である。ルズはムッとして、
「だって、真面目な感じがするし、優しそうじゃないか。ラルフがいつも選ぶような、意地悪女と違って」
「まったくお前は……1000年も生きてるくせに、まるで子どもだなあ」

 ルズはいきなり頭を下げると、近付いてきた屋敷へと急降下する。そして、物見櫓に絡まる豆の木に、ラルフを乱暴に振り落とした。
「僕は子どもじゃないッ!」
「ハハハ……ッ! 優しいのはお前だよ、ルズ」
 大人の背丈ほどもある大きな"さや"にもたれ、ラルフは楽しそうに叫んだ。
「どうせなら地面に叩きつけるぐらいの気概がほしいものだ」
 聞いているのかいないのか、ルズは元の姿に戻り、何処かへ消えてしまった。
 ラルフは豆の木を器用に滑り降りると、マントの埃を払いながら寝室の窓を開けて中に入った。

「だが、あいつが心配するのも無理はないか。弱虫の娘はどうしているかな。よもや逃げてはいまいな。娘はどうでもいいが、琥珀が心配だ」
 ラルフは真顔になると、やや荒っぽくドアを開けて廊下に出た。
「うん?」
 高い鼻をヒクヒクとさせた。階段の下から、いい匂いが漂ってくる。踊り場から小窓を覗くと、煙突から白い煙が上がるのが見えた。
 誰かが台所で朝食を作っているのだ。

「おはようございます、番人様」
 ラルフが食堂に入ると、娘はテーブルに皿を並べる手を止め、こちらに向き直って挨拶をした。確かめるまでもない、朝食の仕度をしていたのはこの娘である。
「私の名はラルフ。番人様はやめろ」
「あっ、す、すみません。ラルフ……さま」
 娘の顔色が、多少良くなったように見える。昨夜はうなされながらも、よく眠れたようだ。

(いや、そんなことより……)

 ラルフは彼女の襟もとに覗く革紐を確かめ、胸を撫で下ろす。しかしそんなことおくびにも出さず、娘と対峙した。
「一宿の恩義というやつか。律儀だな」
「いえ、そういうわけでは……」
 娘ははにかむと、お辞儀をしてから台所に戻った。
 ラルフはテーブルにきちんと並べられた皿を見下ろし、フンと息をつく。
「まあ、恩返しの方法は人間によって異なる。少なくとも私が好む女どもは、こんなしおらしいことはしない」
 もっと手っ取り早く、直接的な方法で結構。枕をともにし、精気を分けてくれたらそれでいいのだ。

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