8 / 88
ラルフとミア
1
しおりを挟む
真夜中に二人の人間が森に侵入した。
ラルフはルズを起こすと、巨大化した彼の背中に乗り、その気配目がけて真っ直ぐに飛んだ。侵入者を見つけて容姿、身なりなどを観察し、正体を引き出すための問答をする。結果、一人は通したが一人は始末した。
仕事から帰る頃には空が白みかけていた。
「あの子、一人で大丈夫かな」
羽毛の温もりが眠気を誘う。ラルフがあくびしていると、ルズがひとり言のように話しかけてきた。
「お前、あれを気に入ったのか?」
馬鹿にするような、からかうような口調である。ルズはムッとして、
「だって、真面目な感じがするし、優しそうじゃないか。ラルフがいつも選ぶような、意地悪女と違って」
「まったくお前は……1000年も生きてるくせに、まるで子どもだなあ」
ルズはいきなり頭を下げると、近付いてきた屋敷へと急降下する。そして、物見櫓に絡まる豆の木に、ラルフを乱暴に振り落とした。
「僕は子どもじゃないッ!」
「ハハハ……ッ! 優しいのはお前だよ、ルズ」
大人の背丈ほどもある大きな"さや"にもたれ、ラルフは楽しそうに叫んだ。
「どうせなら地面に叩きつけるぐらいの気概がほしいものだ」
聞いているのかいないのか、ルズは元の姿に戻り、何処かへ消えてしまった。
ラルフは豆の木を器用に滑り降りると、マントの埃を払いながら寝室の窓を開けて中に入った。
「だが、あいつが心配するのも無理はないか。弱虫の娘はどうしているかな。よもや逃げてはいまいな。娘はどうでもいいが、琥珀が心配だ」
ラルフは真顔になると、やや荒っぽくドアを開けて廊下に出た。
「うん?」
高い鼻をヒクヒクとさせた。階段の下から、いい匂いが漂ってくる。踊り場から小窓を覗くと、煙突から白い煙が上がるのが見えた。
誰かが台所で朝食を作っているのだ。
「おはようございます、番人様」
ラルフが食堂に入ると、娘はテーブルに皿を並べる手を止め、こちらに向き直って挨拶をした。確かめるまでもない、朝食の仕度をしていたのはこの娘である。
「私の名はラルフ。番人様はやめろ」
「あっ、す、すみません。ラルフ……さま」
娘の顔色が、多少良くなったように見える。昨夜はうなされながらも、よく眠れたようだ。
(いや、そんなことより……)
ラルフは彼女の襟もとに覗く革紐を確かめ、胸を撫で下ろす。しかしそんなことおくびにも出さず、娘と対峙した。
「一宿の恩義というやつか。律儀だな」
「いえ、そういうわけでは……」
娘ははにかむと、お辞儀をしてから台所に戻った。
ラルフはテーブルにきちんと並べられた皿を見下ろし、フンと息をつく。
「まあ、恩返しの方法は人間によって異なる。少なくとも私が好む女どもは、こんなしおらしいことはしない」
もっと手っ取り早く、直接的な方法で結構。枕をともにし、精気を分けてくれたらそれでいいのだ。
ラルフはルズを起こすと、巨大化した彼の背中に乗り、その気配目がけて真っ直ぐに飛んだ。侵入者を見つけて容姿、身なりなどを観察し、正体を引き出すための問答をする。結果、一人は通したが一人は始末した。
仕事から帰る頃には空が白みかけていた。
「あの子、一人で大丈夫かな」
羽毛の温もりが眠気を誘う。ラルフがあくびしていると、ルズがひとり言のように話しかけてきた。
「お前、あれを気に入ったのか?」
馬鹿にするような、からかうような口調である。ルズはムッとして、
「だって、真面目な感じがするし、優しそうじゃないか。ラルフがいつも選ぶような、意地悪女と違って」
「まったくお前は……1000年も生きてるくせに、まるで子どもだなあ」
ルズはいきなり頭を下げると、近付いてきた屋敷へと急降下する。そして、物見櫓に絡まる豆の木に、ラルフを乱暴に振り落とした。
「僕は子どもじゃないッ!」
「ハハハ……ッ! 優しいのはお前だよ、ルズ」
大人の背丈ほどもある大きな"さや"にもたれ、ラルフは楽しそうに叫んだ。
「どうせなら地面に叩きつけるぐらいの気概がほしいものだ」
聞いているのかいないのか、ルズは元の姿に戻り、何処かへ消えてしまった。
ラルフは豆の木を器用に滑り降りると、マントの埃を払いながら寝室の窓を開けて中に入った。
「だが、あいつが心配するのも無理はないか。弱虫の娘はどうしているかな。よもや逃げてはいまいな。娘はどうでもいいが、琥珀が心配だ」
ラルフは真顔になると、やや荒っぽくドアを開けて廊下に出た。
「うん?」
高い鼻をヒクヒクとさせた。階段の下から、いい匂いが漂ってくる。踊り場から小窓を覗くと、煙突から白い煙が上がるのが見えた。
誰かが台所で朝食を作っているのだ。
「おはようございます、番人様」
ラルフが食堂に入ると、娘はテーブルに皿を並べる手を止め、こちらに向き直って挨拶をした。確かめるまでもない、朝食の仕度をしていたのはこの娘である。
「私の名はラルフ。番人様はやめろ」
「あっ、す、すみません。ラルフ……さま」
娘の顔色が、多少良くなったように見える。昨夜はうなされながらも、よく眠れたようだ。
(いや、そんなことより……)
ラルフは彼女の襟もとに覗く革紐を確かめ、胸を撫で下ろす。しかしそんなことおくびにも出さず、娘と対峙した。
「一宿の恩義というやつか。律儀だな」
「いえ、そういうわけでは……」
娘ははにかむと、お辞儀をしてから台所に戻った。
ラルフはテーブルにきちんと並べられた皿を見下ろし、フンと息をつく。
「まあ、恩返しの方法は人間によって異なる。少なくとも私が好む女どもは、こんなしおらしいことはしない」
もっと手っ取り早く、直接的な方法で結構。枕をともにし、精気を分けてくれたらそれでいいのだ。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる