169 / 179
自由と孤独
1
しおりを挟む
突然出てきた会社名に、武子と寛人はぽかんとした。
無理もない。
大企業の会社社長と、後継ぎになる約束を交わした。……などと言われても、信じられないのだ。
(そうだよな。でも……)
あれは男同士の約束だ。壮太に会って、きっちり話をつけなければならない。
午後のバイトを終えると、壮二は急いでアパートに帰り、壮太の携帯に連絡を入れた。話があるので会いたいと言うと、壮太は二つ返事で承諾し、夜に食事することになった。
(壮太さん、学費のことだと思ってるな)
壮二は畳に寝転がり、天井を仰いだ。安アパートが風に吹かれ、軋んだ音を立てる。
――まだ先の話だし、状況が変わるかもしれないだろ?
――ああ、大丈夫だ。臨機応変に対応するよ
グラットンの後継者にはなれない。
状況が変わったと、はっきり告げるつもりだった。壮太が臨機応変に対応するかどうか定かではないが、理由を言うつもりはない。もし言えば彼のことだから、全力でじゃましてくるだろう。
「学費や生活費の援助は断る。苦しくても構わない。僕は、希美さんのために生きると決めたんだ」
「何だって? どういうことだ、壮二!!」
ここは高層ホテルの最上階に位置する中華料理店。山海の料理を前に、二人は緊迫した空気に包まれる。
壮太の大声に驚いたのか、店員が様子を窺いに来た。コワモテのいかつい男が、学生を恐喝するように見えたらしい。
「いや、何でもない。騒がせてすまなかった」
店員が立ち去ると、壮太はネクタイを緩めて椅子の背にもたれた。眼下には豪華な夜景が広がっている。
「話があるというから来てみれば、ばかなことを言い出して……」
大学にかかる費用について相談されると彼は思っていた。ところが、壮二はまったく逆のことを伝えたのだ。
「理由は何だ。一体、どんなふうに状況が変わったというんだ」
「……」
「グラットンの他に、就職したい会社でもできたのか」
壮太の口ぶりは、別れたいという女に浮気を問いただす男のようだった。
「そうじゃなくて……とにかく僕は、グラットンの社長にはなれない。状況が変わったとしか言えないよ」
「まったく……」
大きく息をつくと、大皿のまま料理をもりもり食べる。小皿に分けるなど、大食漢の彼にはまだるっこしいのだろう。
「仙一には話したのか」
「いいえ。これは僕と壮太さんの問題だから」
無理もない。
大企業の会社社長と、後継ぎになる約束を交わした。……などと言われても、信じられないのだ。
(そうだよな。でも……)
あれは男同士の約束だ。壮太に会って、きっちり話をつけなければならない。
午後のバイトを終えると、壮二は急いでアパートに帰り、壮太の携帯に連絡を入れた。話があるので会いたいと言うと、壮太は二つ返事で承諾し、夜に食事することになった。
(壮太さん、学費のことだと思ってるな)
壮二は畳に寝転がり、天井を仰いだ。安アパートが風に吹かれ、軋んだ音を立てる。
――まだ先の話だし、状況が変わるかもしれないだろ?
――ああ、大丈夫だ。臨機応変に対応するよ
グラットンの後継者にはなれない。
状況が変わったと、はっきり告げるつもりだった。壮太が臨機応変に対応するかどうか定かではないが、理由を言うつもりはない。もし言えば彼のことだから、全力でじゃましてくるだろう。
「学費や生活費の援助は断る。苦しくても構わない。僕は、希美さんのために生きると決めたんだ」
「何だって? どういうことだ、壮二!!」
ここは高層ホテルの最上階に位置する中華料理店。山海の料理を前に、二人は緊迫した空気に包まれる。
壮太の大声に驚いたのか、店員が様子を窺いに来た。コワモテのいかつい男が、学生を恐喝するように見えたらしい。
「いや、何でもない。騒がせてすまなかった」
店員が立ち去ると、壮太はネクタイを緩めて椅子の背にもたれた。眼下には豪華な夜景が広がっている。
「話があるというから来てみれば、ばかなことを言い出して……」
大学にかかる費用について相談されると彼は思っていた。ところが、壮二はまったく逆のことを伝えたのだ。
「理由は何だ。一体、どんなふうに状況が変わったというんだ」
「……」
「グラットンの他に、就職したい会社でもできたのか」
壮太の口ぶりは、別れたいという女に浮気を問いただす男のようだった。
「そうじゃなくて……とにかく僕は、グラットンの社長にはなれない。状況が変わったとしか言えないよ」
「まったく……」
大きく息をつくと、大皿のまま料理をもりもり食べる。小皿に分けるなど、大食漢の彼にはまだるっこしいのだろう。
「仙一には話したのか」
「いいえ。これは僕と壮太さんの問題だから」
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる