夫のつとめ

藤谷 郁

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マッスルパワー!!

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『私の未来』 6年1組 北城希美

 私は父の会社の後継ぎなので、将来は社長になります。30歳になったら結婚します。夫になるのは年下で、地味な男のひと。顔は普通で、勉強もスポーツも、そこそこできればじゅうぶんです。
 職業は普通のサラリーマンがいいです。イケメンでも金持ちでもない、凡人が最高。大事なのは、女の人にぜんぜんモテないということ。なぜなら、モテるとめんどうが起きるからです。
 夫には奥さんをやってもらいます(新しいマンションで私のお世話をする)
 それが、夫のつとめなのです。


  ◇

  ◇ 

  ◇


 気が付けば夜が明けていた。
 壮二は昨夜、北城希美が小学校の卒業文集に書いた『私の未来』というテーマの作文を読み、その内容について考察した。
 考えるうちにだんだん興奮して、眠れなくなってしまったのだ。

「それが、夫のつとめなのです……か」

 布団の中でうつ伏せになり、枕元に置いた文集を手に取る。もう一度彼女の作文のページを開き、繰り返し読んでみた。 

 北城希美は一部上場の食品会社『ノルテフーズ』の社長令嬢。そのことは、昨日寛人から聞かされた。
 一人娘なので、将来会社を継ぐだろうとは予想したが、これほど具体的に未来を描いていたとは意外だった。

 注目すべきは、理想の夫像である。

(年下で、地味で、顔は普通。勉強もスポーツもそこそこできればじゅうぶんって……社長令嬢なのに、なぜハイスペックを求めないんだろう。モテるとめんどうっていうのは??)

 それも謎だが、夫に奥さんをやってもらうというくだりも気になる。
 社長になってバリバリ働くから、結婚相手には主夫になってほしいのか。それとも、単に家事が苦手なんだろうか。

 しかし、壮二には嬉しい情報だった。
 彼はこの条件にほぼ当てはまっている。今は学生だが、普通のサラリーマンになれば完璧だ。家事は得意なので、主夫業をこなす自信もある。

(あ……でも)

 今の今まで忘れていたが、彼は自分の将来について思い出した。
 グラットンの社長になるという、南村壮太との約束だ。もしもそれが実現したら、北城希美の理想の夫像から外れてしまう。

(困ったぞ……うーん、いやしかし)

 作文にある"平凡な男"というのは、あくまで彼女が12歳だった頃の、理想の夫像だ。
 今はどうなんだろう。

 壮二はがばっと起き上がり、部屋を飛び出した。
 居間に行くが、二人ともまだいない。仕方ないので、朝食を作りながら武子が起きるのを待つことにした。
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