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引越しのバイト
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翌日、壮二は仕事を探した。まず見つけたのは、引越し作業のアルバイトである。
大手の引越し会社が大学近くにあり、アパートから通うのも便利そうだ。短期の募集だが、時給が良いので応募することにした。
事務所に電話を入れると、面接するので土曜日の朝来るように言われた。採用されたら、その日から仕事ができる。
初めてのバイトなので少し緊張するが、そんなこと言ってる場合じゃない。
彼は焦っていた。
アルバイトの面接は、所長と班長が行うという。壮二を入れて3名の応募者が、応接室で彼らと向き合っている。
ブラインドを開けた窓から、トラックのバックブザーが聞こえてくる。広い敷地内には車両が何台も停まっていた。
「次は、南村壮二君。F大経済学部の学生さんか。ふうむ……」
所長は老眼鏡をかけた小柄な人だった。壮二の履歴書をサッと確かめると、隣にいる班長に手渡す。
「どうかな、池田君。F大なら近くだし、融通が利きそうだぞ」
「そうスねえ……」
壮二はさっきから、その班長の風貌に目が釘付けだった。他の応募者も同じように注目している。
とにかく、でかい。大きいではなく、でかいのだ。身長195cm、体重110kgといったところか。格闘技経験者の身体つきだ。
顔立ちはなかなか整っている。例えるなら、ハリウッドのアクションスター。年齢は50くらいだが、美丈夫という言葉がぴたりと当てはまる。
「ちょいと細っこいな」
池田班長が、いきなり壮二の腕を掴んだ。信じられないほど力が強く、骨を砕かれたかのような衝撃が走る。
「人手不足だし、しゃあないですね」
「それじゃ、3人とも合格だ。早速仕事に入ってもらおうか」
壮二は所長に言われるまま作業着に着替え、池田のアシスタントになって引越し現場に向かった。
(すごいなあ。この人なら、どんなに重い家具でも片手で運べそうだ)
トラックを運転する池田の隣で、壮二はそんなことを考えつつ腕をさすった。さっき彼に掴まれたところが、まだ痺れている。
「南村……壮二だったな。これから二人で引越し作業をするが、お前は俺の指示どおり動けばいい。トラック半分ほどの荷物を積んで隣町まで運ぶんだが、なあに、半日で片付くさ」
「はあ……よろしくお願いします」
池田は引越し会社でもベテランらしく、手際が良い。とても力持ちで、それこそ片手で家具を担ぎ、どんどん荷台に積み込んでいく。壮二は家具を毛布で保護したり、段ボールを運んだり、簡単な手伝いをするだけだった。
作業が終わるとちょうど昼時で、池田と一緒にうどん店に入って食事を済ませた。
「お前さん、結構気が利くな。おかげで作業がはかどったぜ」
「そ、そうですか」
初めてのバイトなので勝手がわからなかったが、役立てて良かったと思う。それにしても、お金を稼ぐのは大変だ。半日仕事をしただけで、壮二はかなり疲れていた。
トラックの座席に戻ると、池田は壮二の全身をじろじろと眺めた。
「細っこいが、筋肉をつけるといい身体になる。背も高いし、肩幅も広い。鍛えなきゃもったいねえな」
「は、はい?」
いい身体って、どういう意味だろう。そんなこと、誰にも言われたことがない。
「鍛えがいのある若い男……武子が好きそうなタイプだ」
「タ……タケコ?」
池田は笑みを浮かべると、ハンドルを握った。
「さて、午後からもう一仕事だ。遅れると武子に文句言われるからな、急がねえと」
タケコというのは、誰のことなのか。
壮二はわけがわからないまま、池田が運転するトラックに揺られるのだった。
大手の引越し会社が大学近くにあり、アパートから通うのも便利そうだ。短期の募集だが、時給が良いので応募することにした。
事務所に電話を入れると、面接するので土曜日の朝来るように言われた。採用されたら、その日から仕事ができる。
初めてのバイトなので少し緊張するが、そんなこと言ってる場合じゃない。
彼は焦っていた。
アルバイトの面接は、所長と班長が行うという。壮二を入れて3名の応募者が、応接室で彼らと向き合っている。
ブラインドを開けた窓から、トラックのバックブザーが聞こえてくる。広い敷地内には車両が何台も停まっていた。
「次は、南村壮二君。F大経済学部の学生さんか。ふうむ……」
所長は老眼鏡をかけた小柄な人だった。壮二の履歴書をサッと確かめると、隣にいる班長に手渡す。
「どうかな、池田君。F大なら近くだし、融通が利きそうだぞ」
「そうスねえ……」
壮二はさっきから、その班長の風貌に目が釘付けだった。他の応募者も同じように注目している。
とにかく、でかい。大きいではなく、でかいのだ。身長195cm、体重110kgといったところか。格闘技経験者の身体つきだ。
顔立ちはなかなか整っている。例えるなら、ハリウッドのアクションスター。年齢は50くらいだが、美丈夫という言葉がぴたりと当てはまる。
「ちょいと細っこいな」
池田班長が、いきなり壮二の腕を掴んだ。信じられないほど力が強く、骨を砕かれたかのような衝撃が走る。
「人手不足だし、しゃあないですね」
「それじゃ、3人とも合格だ。早速仕事に入ってもらおうか」
壮二は所長に言われるまま作業着に着替え、池田のアシスタントになって引越し現場に向かった。
(すごいなあ。この人なら、どんなに重い家具でも片手で運べそうだ)
トラックを運転する池田の隣で、壮二はそんなことを考えつつ腕をさすった。さっき彼に掴まれたところが、まだ痺れている。
「南村……壮二だったな。これから二人で引越し作業をするが、お前は俺の指示どおり動けばいい。トラック半分ほどの荷物を積んで隣町まで運ぶんだが、なあに、半日で片付くさ」
「はあ……よろしくお願いします」
池田は引越し会社でもベテランらしく、手際が良い。とても力持ちで、それこそ片手で家具を担ぎ、どんどん荷台に積み込んでいく。壮二は家具を毛布で保護したり、段ボールを運んだり、簡単な手伝いをするだけだった。
作業が終わるとちょうど昼時で、池田と一緒にうどん店に入って食事を済ませた。
「お前さん、結構気が利くな。おかげで作業がはかどったぜ」
「そ、そうですか」
初めてのバイトなので勝手がわからなかったが、役立てて良かったと思う。それにしても、お金を稼ぐのは大変だ。半日仕事をしただけで、壮二はかなり疲れていた。
トラックの座席に戻ると、池田は壮二の全身をじろじろと眺めた。
「細っこいが、筋肉をつけるといい身体になる。背も高いし、肩幅も広い。鍛えなきゃもったいねえな」
「は、はい?」
いい身体って、どういう意味だろう。そんなこと、誰にも言われたことがない。
「鍛えがいのある若い男……武子が好きそうなタイプだ」
「タ……タケコ?」
池田は笑みを浮かべると、ハンドルを握った。
「さて、午後からもう一仕事だ。遅れると武子に文句言われるからな、急がねえと」
タケコというのは、誰のことなのか。
壮二はわけがわからないまま、池田が運転するトラックに揺られるのだった。
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