夫のつとめ

藤谷 郁

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最高の用心棒

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 三人が会場を出たタイミングで、ベンツが玄関前に横付けされた。杉山が降りてきて、座席のドアを開ける。

「お前たち、早く乗りなさい」

 利希に促され、希美と麗子は後部席に乗り込んだ。

「旦那様も?」

 助手席のドアを開けて待つ杉山に、利希は「うむ……」と返事をするが、顔は後ろを向いている。その目は鋭く、やがて見えてきた人影を捉えた。

 ロビーを歩いて来る男が誰なのかわかると、麗子がびくりと震える。
 細野友光だった。

「これは北城さん。もうお帰りですかな」

 何ごともなかったかのように、白々しく挨拶してくる。
 そのふてぶてしさに、希美は怒りを通り越して情けなくなった。なぜノルテフーズは、こんな下卑た男が経営する会社と関わったのか。

「どうも、細野さん。今夜は素晴らしいパーティーにお招きいただきありがとうございます」

 利希がにこりと微笑む。はらわたが煮えくり返っているが必死に堪えて。それすべて、妻のため。ことを荒立ててはいけないと我慢しているのだ。

 友光は利希の挨拶を受けると、口の端に笑みを浮かべた。

「いやいや、さしてお構いもせず失礼いたしました。北城家の皆さんとは、これからも良いお付き合いを続けたいと考えておりますのでね、そう言ってくださるとありがたいですな」

 大手商社の社長である彼にとって、ノルテフーズは格下の存在だ。どんな無法も許されると思っているのだろう。
 しかし、未遂に終わったとはいえ細野親子はとんでもないことをした。わざわざ見送りに来たのは、こちらの出方を探るためだろう。

「今後ともよろしく頼みますよ、北城さん」
「そのことですが、細野さん。取引については見直すことにしました」

 希美はハッとした。父の大きな背中が、妻と娘を守っている。

「……どういうことですかな?」
「ご自身が、一番よくわかっておられるはず。そうでしょう?」

 友光はにわかに動揺した。思いどおりになるはずの相手が、逆らってきた。しかも、不穏な言葉を口にして。

「さ、さあ。何のことやらさっぱり……」
「とぼけなくてもいい。これ以上我々を侮辱するなら、こちらにも考えがある」

 何もかもわかっているのだぞ――という脅しが言外に滲む。

「くっ……」

 友光は車の中を覗き込もうとしたが、利希に阻まれ、麗子を見ることができない。

 麗子がふいに希美の手を握りしめた。小刻みに震える指は、怖いからではない。感激しているのだと、希美にはわかった。

「お母様……」

 娘は母の手を握り返し、父の言葉を待つ。
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