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希美が倒されたのは絨毯の上。反射的に立ち上がると、幸一に対して防御の体勢をとった。とんでもないことが起きたのだ。
今、自分が引きずられてきたのは、鏡の裏に隠された秘密の通路。
そして、ぼんやりと薄暗いこの部屋は――
「ようこそ、お嬢さん。我々の愛の世界に」
ぞっとするほど不快な響き。それは目の前の幸一が発したのではなく、横から聞こえた。
見ると、幸一の父友光がベッドに腰かけている。ゴールドのベッドカバーに覆われた、超キングサイズの天蓋付きベッド。広いとはいえないこの部屋の、ほとんどのスペースを占めている。
「ほ、細野社長?」
衝撃の連続に息が止まりそうになるが、さらなる驚きが希美を襲う。
「お母様!」
友光の傍らに、母麗子が横たわっていた。手足をベルトで縛られ、怯えた顔で、震えながらこちらを見ている。
「……希美い」
「どうして、お母様がここに……あっ」
友光の勝ち誇った顔を見て、希美は覚った。
この親子、正攻法では女を誘えないからとトラップを仕かけたのだ。女性用トイレに男は入って来ない。つまり、ボディガードに邪魔されず女をさらえる。
麗子も希美も、その罠に嵌ってしまったのだ。
「はっはっは。今夜のために、幸一が隠し通路を作ったのだよ。化粧室の奥に設置したのは、マジックミラーの出入り口。希美さんを捕らえるための罠だが、麗子さんが素直じゃないから一緒にお招きした。素晴らしいアイデアだと思わんかね」
まるで映画の悪役のように、芝居がかったセリフを吐く。片手で麗子の髪を撫でながら希美を見据える友光の眼は、狂気をはらんでいた。
(いくらなんでも、ここまでする?)
常軌を逸した行為に、希美は戦慄した。
「ほ、細野社長……正気ですか。こんなの、犯罪ですよ!」
震え声で訴える希美を、幸一が後ろから羽交い絞めにする。
「何をするの。放して!」
「大人しくしろよ、お嬢様」
全力でもがくが、女の身体は悲しいほど自由にならない。
「やめてっ、誰かーっ!!」
「叫んでも無駄ですよ、お嬢さん。この部屋は奥まった場所にある。それに、マジックショーの賑やかさが、悲鳴をかき消してしまうでしょう」
友光の言葉に愕然とする。そのためのイベントだったのか。
「タイミングも計算ずく。それに、気が付かなかったのかな? 父は麗子さんをマークし、僕は君のことをずっと見つめていた。たとえば、グラットンの社長に媚びるところも目撃済みさ」
幸一の息が首筋にかかる。
(このストーカー男!)
と、思いきり罵ってやりたいが、不気味すぎて声が出ない。
今、自分が引きずられてきたのは、鏡の裏に隠された秘密の通路。
そして、ぼんやりと薄暗いこの部屋は――
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ぞっとするほど不快な響き。それは目の前の幸一が発したのではなく、横から聞こえた。
見ると、幸一の父友光がベッドに腰かけている。ゴールドのベッドカバーに覆われた、超キングサイズの天蓋付きベッド。広いとはいえないこの部屋の、ほとんどのスペースを占めている。
「ほ、細野社長?」
衝撃の連続に息が止まりそうになるが、さらなる驚きが希美を襲う。
「お母様!」
友光の傍らに、母麗子が横たわっていた。手足をベルトで縛られ、怯えた顔で、震えながらこちらを見ている。
「……希美い」
「どうして、お母様がここに……あっ」
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この親子、正攻法では女を誘えないからとトラップを仕かけたのだ。女性用トイレに男は入って来ない。つまり、ボディガードに邪魔されず女をさらえる。
麗子も希美も、その罠に嵌ってしまったのだ。
「はっはっは。今夜のために、幸一が隠し通路を作ったのだよ。化粧室の奥に設置したのは、マジックミラーの出入り口。希美さんを捕らえるための罠だが、麗子さんが素直じゃないから一緒にお招きした。素晴らしいアイデアだと思わんかね」
まるで映画の悪役のように、芝居がかったセリフを吐く。片手で麗子の髪を撫でながら希美を見据える友光の眼は、狂気をはらんでいた。
(いくらなんでも、ここまでする?)
常軌を逸した行為に、希美は戦慄した。
「ほ、細野社長……正気ですか。こんなの、犯罪ですよ!」
震え声で訴える希美を、幸一が後ろから羽交い絞めにする。
「何をするの。放して!」
「大人しくしろよ、お嬢様」
全力でもがくが、女の身体は悲しいほど自由にならない。
「やめてっ、誰かーっ!!」
「叫んでも無駄ですよ、お嬢さん。この部屋は奥まった場所にある。それに、マジックショーの賑やかさが、悲鳴をかき消してしまうでしょう」
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「タイミングも計算ずく。それに、気が付かなかったのかな? 父は麗子さんをマークし、僕は君のことをずっと見つめていた。たとえば、グラットンの社長に媚びるところも目撃済みさ」
幸一の息が首筋にかかる。
(このストーカー男!)
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