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パスタを飲む男
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「途中退場は難しそうだな。ビュッフェスタイルなら、さーっと抜け出せると思ったんだが」
利希が広間に配置された円形テーブルを見回し、残念そうにつぶやく。完全な立食ではなく、客たちが落ち着けるよう、会場には席が用意されていた。
希美は「そうね」と返事しながら、それとなく利希の手元を確かめた。まだしっかりと、妻の手を握りしめている。
麗子の頬が赤らんで見えるのは、気のせいだろうか。
(びっくりしたけど、まあ、いいわ。細野社長への、何よりの反撃になったみたいだし)
友光はショックのためか、口もきけない様子だった。
おそらく彼は、利希と麗子が不仲という情報を、どこかから仕入れている。それなのに、実際の二人は手を繋ぐほど仲睦まじい夫婦なのだから、驚くのも無理はない。
しかし、いきなり仲良くなったのは、他でもない友光がきっかけなのだ。それを考えると彼が道化に思えてしまう希美だった。
「中央のテーブルには大得意様が集まってるぞ。M食品工業に、外資大手のQ&Aコーポレーション。W産業の社長夫妻まで招いたのか。いまいましい男だが、コネの広さは認めざるを得んな」
途中退場をあきらめた利希が、招待客をチェックする。
「とりあえず座るか」
ぶつぶつ言いながら、中央から遠い位置にあるテーブルに、麗子とともに着席した。二人の手はその時になってようやく離れた。
(とにかく、細野社長が母をすっぱりあきらめてくれますように)
両親の隣に座りながら、希美は願った。
麗子を誘うという友光の目論見は外れたが、パーティーはプログラムどおり進んでいるようだ。
来賓のスピーチが終わると、食事と歓談が始まる。バンド演奏が流れる中、招待客らは次々と椅子を立ち、ビュッフェ料理を取りに向かった。
「さて、唯一のお楽しみ。たくさんいただいちゃいましょう」
いそいそと椅子を立つ希美に、利希が小声で注意した。
「みっともないから、あまり大食いするなよ。それと、細野専務が近づいて来たら、すぐに逃げろ。あいつと二人きりにならんよう、用心するんだ」
見ると、細野幸一は中央の客に挨拶して回っている。それがひと通り終わったら、希美のところにやって来るに違いない。
「分かってます。お父様こそ、引き続きお母様をよろしくお願いしますね」
「う……うむ」
両親は顔を見合わせ、照れた感じになる。付き合い始めのカップルのような二人を前に、希美は何だかばかばかしくなってきた。
「し、しかし変だな。壮二は一体どこにいるんだ。武子さんは、あいつにどんな指示を出したんだろうなあ」
利希がゴホンと咳払いして、話を逸らした。
「うーん。わかんないけど……」
ボディガードというからには、希美を守ってくれるはず。でも、作戦の内容は秘密だった。
「手筈は整ってるって武子さんが言ってたから大丈夫よ。それに、他のお客様もいるし、うかつに手は出せないでしょ。まずは腹ごしらえするわね」
「わが娘ながら図太いやつだ。しかし、くれぐれも油断するなよ。相手は何を仕掛けてくるか……」
「はいはい、お喋りしてると料理がなくなっちゃうわ。行ってきまーす」
希美は武子、そして壮二を信じている。彼らが守ってくれると思えば、落ち着いていられるのだ。
利希が広間に配置された円形テーブルを見回し、残念そうにつぶやく。完全な立食ではなく、客たちが落ち着けるよう、会場には席が用意されていた。
希美は「そうね」と返事しながら、それとなく利希の手元を確かめた。まだしっかりと、妻の手を握りしめている。
麗子の頬が赤らんで見えるのは、気のせいだろうか。
(びっくりしたけど、まあ、いいわ。細野社長への、何よりの反撃になったみたいだし)
友光はショックのためか、口もきけない様子だった。
おそらく彼は、利希と麗子が不仲という情報を、どこかから仕入れている。それなのに、実際の二人は手を繋ぐほど仲睦まじい夫婦なのだから、驚くのも無理はない。
しかし、いきなり仲良くなったのは、他でもない友光がきっかけなのだ。それを考えると彼が道化に思えてしまう希美だった。
「中央のテーブルには大得意様が集まってるぞ。M食品工業に、外資大手のQ&Aコーポレーション。W産業の社長夫妻まで招いたのか。いまいましい男だが、コネの広さは認めざるを得んな」
途中退場をあきらめた利希が、招待客をチェックする。
「とりあえず座るか」
ぶつぶつ言いながら、中央から遠い位置にあるテーブルに、麗子とともに着席した。二人の手はその時になってようやく離れた。
(とにかく、細野社長が母をすっぱりあきらめてくれますように)
両親の隣に座りながら、希美は願った。
麗子を誘うという友光の目論見は外れたが、パーティーはプログラムどおり進んでいるようだ。
来賓のスピーチが終わると、食事と歓談が始まる。バンド演奏が流れる中、招待客らは次々と椅子を立ち、ビュッフェ料理を取りに向かった。
「さて、唯一のお楽しみ。たくさんいただいちゃいましょう」
いそいそと椅子を立つ希美に、利希が小声で注意した。
「みっともないから、あまり大食いするなよ。それと、細野専務が近づいて来たら、すぐに逃げろ。あいつと二人きりにならんよう、用心するんだ」
見ると、細野幸一は中央の客に挨拶して回っている。それがひと通り終わったら、希美のところにやって来るに違いない。
「分かってます。お父様こそ、引き続きお母様をよろしくお願いしますね」
「う……うむ」
両親は顔を見合わせ、照れた感じになる。付き合い始めのカップルのような二人を前に、希美は何だかばかばかしくなってきた。
「し、しかし変だな。壮二は一体どこにいるんだ。武子さんは、あいつにどんな指示を出したんだろうなあ」
利希がゴホンと咳払いして、話を逸らした。
「うーん。わかんないけど……」
ボディガードというからには、希美を守ってくれるはず。でも、作戦の内容は秘密だった。
「手筈は整ってるって武子さんが言ってたから大丈夫よ。それに、他のお客様もいるし、うかつに手は出せないでしょ。まずは腹ごしらえするわね」
「わが娘ながら図太いやつだ。しかし、くれぐれも油断するなよ。相手は何を仕掛けてくるか……」
「はいはい、お喋りしてると料理がなくなっちゃうわ。行ってきまーす」
希美は武子、そして壮二を信じている。彼らが守ってくれると思えば、落ち着いていられるのだ。
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