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約束
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「あ、はい。ペアリングですの」
ペアという部分を強調した。幸一は不快そうに眉根を寄せ、いかにも馬鹿にしたように言った。
「例の、南村……といったかな。彼の贈り物ですか? 失礼ですが、それほど高価なものに見えませんね。それに、婚約中なら婚約指輪をつけるべきじゃないですか。大粒のダイヤとか……ま、彼には無理でしょうけど」
つくづく失礼な男だ。しかし想定内の返しなので、希美は冷静に対応する。
「この指輪は、彼が初めて買ってくれたものなんです。婚約指輪も素敵ですが、誠実な想いのこもるペアリングは、私にとって何より大切な宝物なのです」
嘘ではない。本当に、心から希美はそう感じている。
「ふーん……また、あとでお話しましょう」
「ええ、ぜひ」
指輪を盾にされた幸一は、とりあえず引き下がった。壮二の『誠実』に対抗できる口説き文句を、彼は持ち合わせていない。
しかし、いまだ引き下がらない男がいた。
バカ息子の親、細野友光である。
希美と幸一がやり取りする間も麗子に迫っていたようで、利希がなんとかガードするも、かなり押され気味の様子だ。
(まずいわ……お父様がキレる。いろんな意味で!)
希美は父を援護しようとした。
しかし、友光の甲高い声がそれを阻んだ。
「そうだ、やはり麗子さんは私がエスコートしましょう。どうですかな、北城社長。あなたも、そのほうが助かるでしょう」
「は……?」
利希がぽかんとする。
希美も麗子も、友光が何を言っているのか分からなかった。
エスコート? 助かる?
「北城社長。パーティーには弊社取引先の重役が多数いらっしゃいます。この機会にコネクションを広げられては? 奥様のことは心配なさらず、どうぞ、ご自由に」
つまり、麗子と別行動しろと言うのだ。なかなか誘いに乗らない麗子に業を煮やしたのか、強引な態度に出てきた。
しかし、いくらなんでも夫に対して、なんという図々しい申し出!
いよいよ父の血圧がヤバいと希美は焦り、自分が代わりに断ろうとした。
「……えっ?」
利希が片手を上げて、希美を制した。下がっていなさいと、目で告げている。
(お父様?)
落ち着いた表情。
彼は、友光と麗子の間に割り込み、胸を反らせた。まるで、覚悟を決めたかのように敵と向き合う。
「それには及びません。誕生会の主役である細野社長こそ、お客様へのご挨拶でお忙しいでしょうし。それに、コネクション作りも良いですが、私は今夜、社長のお祝いに参ったのです。妻と一緒にパーティーを楽しませていただきますよ」
「……」
今度は、友光がぽかんとする。
意外な答えが返ってきたからだ。そして――
「行こうか」
希美は目を疑った。
利希が麗子の手を取り、歩いていく。
(嘘、どうして……あのお父様が、お母様と手をつな……えええええっ!?)
呆然とする友光を残し、希美も慌てて後を追った。
(そうか……)
混乱しながら、思い出す。
希美、そして武子との約束どおり、父はしっかりと母を捕まえたのだ。
友光のあまりにも図々しい申し出に、いい意味でキレて、冷静になったのかもしれない。
それにしても、手を繋ぐとは。
いがみ合う両親ばかり見てきた娘にとって、信じられない光景だった。
ペアという部分を強調した。幸一は不快そうに眉根を寄せ、いかにも馬鹿にしたように言った。
「例の、南村……といったかな。彼の贈り物ですか? 失礼ですが、それほど高価なものに見えませんね。それに、婚約中なら婚約指輪をつけるべきじゃないですか。大粒のダイヤとか……ま、彼には無理でしょうけど」
つくづく失礼な男だ。しかし想定内の返しなので、希美は冷静に対応する。
「この指輪は、彼が初めて買ってくれたものなんです。婚約指輪も素敵ですが、誠実な想いのこもるペアリングは、私にとって何より大切な宝物なのです」
嘘ではない。本当に、心から希美はそう感じている。
「ふーん……また、あとでお話しましょう」
「ええ、ぜひ」
指輪を盾にされた幸一は、とりあえず引き下がった。壮二の『誠実』に対抗できる口説き文句を、彼は持ち合わせていない。
しかし、いまだ引き下がらない男がいた。
バカ息子の親、細野友光である。
希美と幸一がやり取りする間も麗子に迫っていたようで、利希がなんとかガードするも、かなり押され気味の様子だ。
(まずいわ……お父様がキレる。いろんな意味で!)
希美は父を援護しようとした。
しかし、友光の甲高い声がそれを阻んだ。
「そうだ、やはり麗子さんは私がエスコートしましょう。どうですかな、北城社長。あなたも、そのほうが助かるでしょう」
「は……?」
利希がぽかんとする。
希美も麗子も、友光が何を言っているのか分からなかった。
エスコート? 助かる?
「北城社長。パーティーには弊社取引先の重役が多数いらっしゃいます。この機会にコネクションを広げられては? 奥様のことは心配なさらず、どうぞ、ご自由に」
つまり、麗子と別行動しろと言うのだ。なかなか誘いに乗らない麗子に業を煮やしたのか、強引な態度に出てきた。
しかし、いくらなんでも夫に対して、なんという図々しい申し出!
いよいよ父の血圧がヤバいと希美は焦り、自分が代わりに断ろうとした。
「……えっ?」
利希が片手を上げて、希美を制した。下がっていなさいと、目で告げている。
(お父様?)
落ち着いた表情。
彼は、友光と麗子の間に割り込み、胸を反らせた。まるで、覚悟を決めたかのように敵と向き合う。
「それには及びません。誕生会の主役である細野社長こそ、お客様へのご挨拶でお忙しいでしょうし。それに、コネクション作りも良いですが、私は今夜、社長のお祝いに参ったのです。妻と一緒にパーティーを楽しませていただきますよ」
「……」
今度は、友光がぽかんとする。
意外な答えが返ってきたからだ。そして――
「行こうか」
希美は目を疑った。
利希が麗子の手を取り、歩いていく。
(嘘、どうして……あのお父様が、お母様と手をつな……えええええっ!?)
呆然とする友光を残し、希美も慌てて後を追った。
(そうか……)
混乱しながら、思い出す。
希美、そして武子との約束どおり、父はしっかりと母を捕まえたのだ。
友光のあまりにも図々しい申し出に、いい意味でキレて、冷静になったのかもしれない。
それにしても、手を繋ぐとは。
いがみ合う両親ばかり見てきた娘にとって、信じられない光景だった。
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