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約束
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細野家の別荘に到着したのは、パーティーが始まる15分前。
車を降りると、頭上に満月があった。シーズン前のためか、カラマツ林に囲まれた別荘地は静かなものだ。
「やれやれ、やっと着いたぞ。えらく遠かったなあ」
利希が腰を叩きながら、小さくぼやく。そこへ、制服を着た女性が近づいてきて、挨拶した。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
案内役のスタッフだった。彼女の後ろを歩き、会場の入り口へと進んでいく。
細野家の別荘は広い庭を有していた。一歩中に入ると、まばゆい照明が目に飛び込んでくる。
「えらく派手派手しいな」
「せっかくの月明かりが台無しね」
両親の感想に、希美も同意する。細野親子らしい風情のなさだった。
(さてと、それはともかくとして……)
建物に入ると、希美はきょろきょろした。先に到着したと思われる彼を探しているのだ。
しかし、玄関ホールにいるのは着飾った招待客ばかりで、それらしき姿が見当たらない。
「それでは、旦那様。私はあちらで待機しておりますので」
「ああ、すまないね杉山さん。早く抜け出せたら、すぐに連絡するよ」
杉山が運転手用の控え室に案内されるのを見送ってから、希美たちも受付を済ませた。上着をクロークに預け、プレゼントはスタッフに渡してしまうため客は身軽になる。
広間に移動しても、壮二は現れなかった。招待状を持っていないので、当然といえば当然だが。
「お父様、壮二はどうしたのかしら」
「分からん。俺もさっきから気にしてるんだが、どこにもいないぞ」
父娘が小声で話していると、頭の上から大音量が降ってきた。
「皆様、ようこそわが別荘へ!」
客たちが驚いて顔を上げる。
今夜の主役である細野友光、そして幸一が吹き抜けの回廊に立ち、広間を見下ろしていた。
親子揃って、銀色に輝く派手な衣装を身に着けている。
「まったく、何なんだあいつら。スターにでもなったつもりか」
「しいっ、お父様……じゃなくて、社長」
会社関係者が集まる場所で、彼らの悪口は禁物だ。希美は慌てて、大人気ない父をビジネスモードにチェンジさせる。
招待客が見守る中、ナルシスト親子は手を振りながらゆっくりと階段を下りてくる。希美は幸一が目を合わせてくるのに気づき、それとなく視線をそらした。
(仕事とはいえ、どうしてあんな男と関わらなきゃならないの。あー、もう。さっさと帰りたい!)
「すみませーん、後ろ失礼します」
メイド服を着た女性が背後を通りすぎた。パーティーの配膳係のようだ。
「ちょっと、君。裏口から入ってくれなきゃ困るよ」
「すみませーん。遅れて来たものですから慌てちゃってー」
黒服のスタッフに注意される彼女を、希美は何となく見やった。
今時珍しいビン底眼鏡をかけ、長い髪を三つ編みにしている。
「えらく大柄な女だな。声も低いし、武子さんの若い頃みたいだ」
「あら、本当。そういえば、あの人も昔は三つ編みだったわ」
利希と麗子がクスクス笑っている。
笑ってる場合じゃないでしょと、希美は呑気な両親を肘で突く。
すぐ目の前に、細野親子が迫っていた。
車を降りると、頭上に満月があった。シーズン前のためか、カラマツ林に囲まれた別荘地は静かなものだ。
「やれやれ、やっと着いたぞ。えらく遠かったなあ」
利希が腰を叩きながら、小さくぼやく。そこへ、制服を着た女性が近づいてきて、挨拶した。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
案内役のスタッフだった。彼女の後ろを歩き、会場の入り口へと進んでいく。
細野家の別荘は広い庭を有していた。一歩中に入ると、まばゆい照明が目に飛び込んでくる。
「えらく派手派手しいな」
「せっかくの月明かりが台無しね」
両親の感想に、希美も同意する。細野親子らしい風情のなさだった。
(さてと、それはともかくとして……)
建物に入ると、希美はきょろきょろした。先に到着したと思われる彼を探しているのだ。
しかし、玄関ホールにいるのは着飾った招待客ばかりで、それらしき姿が見当たらない。
「それでは、旦那様。私はあちらで待機しておりますので」
「ああ、すまないね杉山さん。早く抜け出せたら、すぐに連絡するよ」
杉山が運転手用の控え室に案内されるのを見送ってから、希美たちも受付を済ませた。上着をクロークに預け、プレゼントはスタッフに渡してしまうため客は身軽になる。
広間に移動しても、壮二は現れなかった。招待状を持っていないので、当然といえば当然だが。
「お父様、壮二はどうしたのかしら」
「分からん。俺もさっきから気にしてるんだが、どこにもいないぞ」
父娘が小声で話していると、頭の上から大音量が降ってきた。
「皆様、ようこそわが別荘へ!」
客たちが驚いて顔を上げる。
今夜の主役である細野友光、そして幸一が吹き抜けの回廊に立ち、広間を見下ろしていた。
親子揃って、銀色に輝く派手な衣装を身に着けている。
「まったく、何なんだあいつら。スターにでもなったつもりか」
「しいっ、お父様……じゃなくて、社長」
会社関係者が集まる場所で、彼らの悪口は禁物だ。希美は慌てて、大人気ない父をビジネスモードにチェンジさせる。
招待客が見守る中、ナルシスト親子は手を振りながらゆっくりと階段を下りてくる。希美は幸一が目を合わせてくるのに気づき、それとなく視線をそらした。
(仕事とはいえ、どうしてあんな男と関わらなきゃならないの。あー、もう。さっさと帰りたい!)
「すみませーん、後ろ失礼します」
メイド服を着た女性が背後を通りすぎた。パーティーの配膳係のようだ。
「ちょっと、君。裏口から入ってくれなきゃ困るよ」
「すみませーん。遅れて来たものですから慌てちゃってー」
黒服のスタッフに注意される彼女を、希美は何となく見やった。
今時珍しいビン底眼鏡をかけ、長い髪を三つ編みにしている。
「えらく大柄な女だな。声も低いし、武子さんの若い頃みたいだ」
「あら、本当。そういえば、あの人も昔は三つ編みだったわ」
利希と麗子がクスクス笑っている。
笑ってる場合じゃないでしょと、希美は呑気な両親を肘で突く。
すぐ目の前に、細野親子が迫っていた。
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