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護りの指輪
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「手筈は整っておりますので、ご安心ください」
武子はそれだけ答えると、にこりと微笑む。ここまできて"作戦"の内容を教えてくれない彼女を、希美はじれったく思う。意外と秘密主義なのだろうか。
「分かったよ。とにかく、希美のことはあいつが守ってくれるんだな?」
「もちろんでございます。それより旦那様、奥様をお守りくださるようお願いいたします」
「あ、ああ……」
利希は少しうろたえたものの、ちゃんと頷く。希美は何だか可笑しくなるが、笑わないでおいた。
「それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
武子に見送られ、車は走り出した。別荘までは高速道路を経て、およそ2時間の道のりだ。
「二人とも、武子さんと何を話したの? 最近、内緒話が多いわねえ」
麗子が疑わしげな眼差しで父娘を見てくる。彼女に余計な心配をさせないよう、ボディガード云々については伝えていない。
「何でもないよ。なあ、希美」
「えっ、ええ。ご馳走がいっぱい食べられていいですねえ、なんて言ってたの。ほら、武子さんってグルメだから」
「……そうなの? まあ、いいですけどね」
まだ何か訊きたそうだが、着物の衿を直す仕草をすると、彼女は窓の外に顔を向けた。
(やれやれ。いろんな意味で疲れるわ)
希美はふっと息をつき、ゆううつな表情を浮かべた。
パーティーはビュッフェ形式で、3時間の予定とのこと。個人の誕生会といっても、実際は会社関係者を招待したレセプションパーティーの意味合いが強い。
つまり半分はビジネスであり、退屈するのは間違いなかった。
(でも、壮二が来るのが救いよね)
希美は華美にならないよう、黒のワンピースにジャケットを合わせたシンプルな服装を選んだ。
ただ、アクセサリーだけは特別に――
左手薬指を飾る指輪を、愛しそうに見つめる。壮二がプレゼントしてくれた、シルバーのペアリングだ。
先週末、壮二が突然ジュエリーショップに希美を誘った。
いきなりどうしたのと驚いていると、彼は希美の白い手をぎゅっと握り、熱く見つめてくる。真剣な顔つきから、必死の想いが伝わってきた。
どうやら彼は、希美を自分のものだと印を付けたいらしい。もちろん、今度のパーティーに備えてのことだ。つまり指輪は、細野幸一を希美に近付けないための魔除けである。
『考えてみれば、もっと早く指輪をプレゼントするべきでした。無骨な男ですみません』
女性と付き合った経験のない、純な男。
ジュエリーショップなど、今までの彼には縁のない場所だったろう。
『そんなこと、気にしないの』
壮二と一緒にショーケースを覗き、二人が気に入ったものを選んだ。高価でなくてもいい。彼に贈られる指輪だから嬉しい。
(とてもきれいよ……ありがとう、壮二)
滑らかなアームの内側に刻印されたのは、二人のイニシャル。無骨で一途な愛情が、希美を護っていた。
武子はそれだけ答えると、にこりと微笑む。ここまできて"作戦"の内容を教えてくれない彼女を、希美はじれったく思う。意外と秘密主義なのだろうか。
「分かったよ。とにかく、希美のことはあいつが守ってくれるんだな?」
「もちろんでございます。それより旦那様、奥様をお守りくださるようお願いいたします」
「あ、ああ……」
利希は少しうろたえたものの、ちゃんと頷く。希美は何だか可笑しくなるが、笑わないでおいた。
「それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
武子に見送られ、車は走り出した。別荘までは高速道路を経て、およそ2時間の道のりだ。
「二人とも、武子さんと何を話したの? 最近、内緒話が多いわねえ」
麗子が疑わしげな眼差しで父娘を見てくる。彼女に余計な心配をさせないよう、ボディガード云々については伝えていない。
「何でもないよ。なあ、希美」
「えっ、ええ。ご馳走がいっぱい食べられていいですねえ、なんて言ってたの。ほら、武子さんってグルメだから」
「……そうなの? まあ、いいですけどね」
まだ何か訊きたそうだが、着物の衿を直す仕草をすると、彼女は窓の外に顔を向けた。
(やれやれ。いろんな意味で疲れるわ)
希美はふっと息をつき、ゆううつな表情を浮かべた。
パーティーはビュッフェ形式で、3時間の予定とのこと。個人の誕生会といっても、実際は会社関係者を招待したレセプションパーティーの意味合いが強い。
つまり半分はビジネスであり、退屈するのは間違いなかった。
(でも、壮二が来るのが救いよね)
希美は華美にならないよう、黒のワンピースにジャケットを合わせたシンプルな服装を選んだ。
ただ、アクセサリーだけは特別に――
左手薬指を飾る指輪を、愛しそうに見つめる。壮二がプレゼントしてくれた、シルバーのペアリングだ。
先週末、壮二が突然ジュエリーショップに希美を誘った。
いきなりどうしたのと驚いていると、彼は希美の白い手をぎゅっと握り、熱く見つめてくる。真剣な顔つきから、必死の想いが伝わってきた。
どうやら彼は、希美を自分のものだと印を付けたいらしい。もちろん、今度のパーティーに備えてのことだ。つまり指輪は、細野幸一を希美に近付けないための魔除けである。
『考えてみれば、もっと早く指輪をプレゼントするべきでした。無骨な男ですみません』
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ジュエリーショップなど、今までの彼には縁のない場所だったろう。
『そんなこと、気にしないの』
壮二と一緒にショーケースを覗き、二人が気に入ったものを選んだ。高価でなくてもいい。彼に贈られる指輪だから嬉しい。
(とてもきれいよ……ありがとう、壮二)
滑らかなアームの内側に刻印されたのは、二人のイニシャル。無骨で一途な愛情が、希美を護っていた。
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