夫のつとめ

藤谷 郁

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ボディガード

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「顔合わせが終り、結納や式の予定もおおまかに決まった。細かいことはお前たちに任せるが、一応、我々にも報告するようにな」
「はい、承知しています」
「こっちも披露宴の招待客をリストアップしておく。結構な人数になるだろうから、早めに式場を確保したほうがいい」

 二人の結婚に両家は合意した。この先も、トントン拍子にことは進むだろう。秋には入籍し、壮二との新婚生活が始まるのだ。

「今日は楽しかったけど、さすがに疲れたわ。私、部屋で少し横になってきますね」

 麗子が小さなあくびをしながらソファを立つ。彼女がリビングを出て行くと、入れ替わりに武子が入ってきた。急須を載せた盆を手にしている。

「旦那様、おかわりはいかがですか」
「うむ、もらおうか」

 利希はドアのほうをチラッと見てから、ヒソヒソ声で希美に言った。

「ところで、例の細野社長の誕生パーティーだがな。壮二を連れて行ったらどうだ」
「えっ?」

 大真面目な父の顔つきを見て、希美は眉を曇らせる。

「でも、招待状がないから、会場に入れないわ」
「そうじゃなくて。壮二を連れてパーティー会場まで行くことに意味があるんだよ。要するに、壮二はお前の婚約者だと、細野親子に決定的に分からせてやることだ。この前のバカ息子……細野専務の態度から察するに、あいつらはウチとの政略結婚をあきらめていない。壮二からお前を奪うつもりでいるぞ」
「……う、うーん」

 おそらく利希の想像は当たっている。だけど、もしそうだとしても……

 武子が注いでくれたお茶をゆっくりと飲む。細野幸一の顔を思い出すと、ムカムカしてくる。あんなやつ、放っておけばいい。

「断り続ければいいじゃない。いくらなんでも、そのうちあきらめるでしょ」
「ダメだ。細野親子に、お前らなど眼中にないと、知らしめてやるんだ!」

 希美は湯呑みを置くと、冷めた目で父を眺めた。この人は細野幸一ではなく、むしろ友光を警戒している。妻麗子を奪われまいと、必死になっているのだ。

「大変でございますねえ」

 大体の事情を知る武子は、深いため息をついた。彼女だけは、希美のことを心から案じてくれている。

「決定的に分からせるって、どうやるのよ?」
「だから壮二と連れ立って会場に行き、式の日取りが決まったと言ってやれ。何なら、入籍済みだとホラを吹いてもいい」

 希美はちょっと呆れた。いくら何でも、取引先にそんな嘘はつけない。

「そんなやり方は禍根を残します」
「だがな、希美」
「お父様、それは公私混同です」

 しつこい父をキッと睨むと、強い口調で意思表示した。もう、いいかげんにしてほしい。
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