夫のつとめ

藤谷 郁

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ボディガード

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 自宅に戻ると希美は台所に直行し、顔合わせが成功したことを武子に報告した。彼女は夕飯作りの手を休め、耳を傾けてくれた。

「お疲れ様でございます。良い結果となり、私も安心いたしました」

 武子が微笑むのを見て、希美も満足そうに笑う。

「それでね、壮二のお母様がお土産のお菓子と、これをくださったの。ずっと気になってたのよねー」

 バッグから一本の瓶を取り出し、武子に渡した。

「ほら、前に壮二が言ってた『みなみかぜ』特製、中華そば用の液体調味料。ラーメンスープのほかにも、中華料理の味付けに使えるんですって。ねえ、武子さん。今度この調味料で何か作ってよ」
「なるほど、ラベルに『みなみかぜ』とプリントされています。原材料は、ごま油、昆布にカツオ、醤油、ナンプラー、ニンニク……これは美味しそうでございますねえ」

 武子は調理台を振り向くと、しばらく思案した。豚肉や小松菜、人参など、食材が用意されている。

「本日はポークジンジャーの予定でしたが、変更いたしましょう。こちらの調味料を使って、中華料理をお作りします」
「えっ、ほんとに?」

 希美は飛び上がって喜んだ。子どものようにはしゃぐ姿を見て、武子もニコニコする。

「リビングにお茶をお運びします。まずはごゆっくりと休憩なさいませ」
「分かったわ。ありがとう、武子さん」

 台所を出ると、希美は鼻歌を歌いながらリビングに戻った。部屋着に着替えた利希と麗子が、ソファで休んでいる。

「武子さんが、お茶を淹れてくれるって」
「あら、ありがたいわ。ほほほ……今日はお喋りしすぎて喉が枯れちゃったみたい」

 麗子は嬉しそうに笑った。

「壮二のご両親は、なかなか感じが良い。何しろ聞き上手だし、俺もお母さんもつい喋りすぎてしまったよ」

 希美の両親は普段、人間関係に慎重である。初対面の相手ならなおさら警戒し、余計な会話などしない。
 それなのに、今日は二人とも積極的に話しかけていた。旧知の仲のように。

「商売柄かもしれんが、あの柔らかな物腰は見習うべきところだ」
「そうですわねえ。壮二さんが優しくて気が利くのも、ご両親の影響なのだわ、きっと」

 武子がお茶を運んできた。南村家が土産にくれた最中も添えられている。
 三人は休息し、上品な甘さを味わった。
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