夫のつとめ

藤谷 郁

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壮二は人気者

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 希美は編み物などまったく興味がない。以前、基礎の編み方を教えられたが、すぐに投げ出した。そもそも母親の趣味に付き合う気がないのだ。

 編み物を教えてほしいという壮二の申し出は、麗子を喜ばせた。

「もちろん、教えて差し上げるわ!」

 彼は近い将来、息子になるかもしれない。親子で手芸を楽しむという夢が叶えられる……と、そんな期待が表情に出ていた。
 
「そうだ。この前、きれいな毛糸を見つけて、何を編もうか迷っていたのよ。あの色なら希美に似合うだろうし、早速編んでみましょう」
「ちょ、ちょっと、お母様? あの、待っ……」
「ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします!」

 一体、どんな展開?
 まごつく希美に、壮二が明るく笑いかけた。
 
「希美さん。僕、頑張りますね。あなたにぴったりの腹巻きを編んでみせます」
「いや……あのね、壮二。私は別に腹巻きなんて必要ないし。ていうか、むしろいらな……」
「僕の愛情をいっぱい込めますから。期待しててくださいっ」
「……」

 そう来るか――

 希美はもう何も言えなかった。
 壮二にとって手編みの腹巻きは、愛情の証なのだ。

「ところで南村さん、お時間は大丈夫?」

 麗子が思い出したように訊いた。

「はい。今日は一日空いています」
「良かった、ゆっくりできるのね。編み物の道具を揃えるから、あとでリビングにいらして。あ、そうそう……その前に希美のお腹まわりのサイズを測らなくちゃ。メジャーを取って来るわね」

 麗子が張り切って廊下を駆けていく。あれほど活発な姿は、めったに見られない。

(あーあ。壮二と部屋でゆっくりしたかったけど、今日は無理そうね)

「何だ、お母さんはバタバタと。えらく騒々しいな」

 麗子と入れ替わりで利希が戻ってきた。腹痛は治まったようで、すっきりした顔だ。

「さてと、今日はパソコンを教えてもらうんだったな。のんびりしてる場合じゃないぞ、南村。ほら、書斎に行こう」
「えっ? あ……確かに、そうでしたね」

 利希との約束を、壮二はうっかり忘れていたようだ。希美も同じくで、今初めて思い出した。

「あの、社長。少しお待ちくださいますか。これから奥様に編み物を教えていただくので」
「はあ? 編み物って、お前がか?」

 壮二がこくこく頷くと、利希は心底情けなさそうに眉根を寄せる。

「男のくせに、なーにが編み物だ。どういうつもりだ、一体」
「あら、男性にも編み物のプロがいるわ。男女は関係ありませんよ」

 いつの間にか麗子が戻っていた。
 夫に向かって、メジャーリールを印籠のように突きつける。
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