81 / 179
父と娘と、婚約者
2
しおりを挟む
「そ、そうなんだ……」
さすが、壮二のご両親だけあって豪胆な人達だ。
希美は深く感心しながら、何ともいえない喜びに満たされていく。
「ご両親に早くお会いしたいわ。あと、中華そばもぜひ食べてみたい!」
「はい。近いうちに実現させましょう」
微笑みを交わし、早速スケジュールを打ち合わせる。仕事も結婚も順風満帆。世界は二人の味方だった。
翌朝――
希美はいつものように社長室のパソコンでスケジュール調整を行い、隣に座る壮二に操作方法を教えた。
二人とも少し寝不足だった。顔を見合わせると、互いにクスッと笑う。
「昨夜はごめんなさい。大丈夫?」
「はい。体力はありますから」
昨夜、食事の帰りに壮二のアパートへ直行し、一晩中抱き合った。明日の仕事に差し障りますと壮二が遠慮したが、希美が執拗に求めたのだ。
壮二が欲しくて仕方なかった。朝から晩まで傍にいるのに手を出せず、悶々とした時間を過ごしたから。
何度も壮二を受け入れ、彼を慰め、気が済むまで貪り合った。寝不足でも、心身ともに充実している。
(それにしても壮二の部屋、狭いながらも片付いていたわ。それに、キッチンには驚いた)
小さな台所だった。しかし、鍋から包丁から、調理道具がひと通り揃っていた。どれも使い込まれ、普段から料理しているのが窺える。
壮二の両親は料理人なので、彼も見よう見まねで覚えたのだろう。
いずれにしろ、食いしん坊の希美には素晴らしい光景だった。
(夫が料理上手だなんて、最高。毎日美味しいものを食べられそう)
「北城さん、よだれが……」
「あ、ごめん」
壮二がハンカチで口元を拭ってくれた。
利希を見やり、スマートフォンをいじっているのを確かめてホッとする。こんな場面を見られたら、何を言われるか分かったものではない。
「さてと、気を引きしめて仕事仕事。南村さん、ここに来週の予定を打ち込んでおいて。数字を間違えないように、お願いね」
「はい、分かりました」
パソコン操作を壮二に任せると席を立ち、プリントアウトしたスケジュール表を手に、社長のデスクに近づく。
「本日のスケジュールを確認いたします」
「ああ、はいよ」
利希はスマートフォンをデスクに放った。
機械が苦手な彼は、スマホの操作もうまくいかないらしい。要するに八つ当たりである。
「……ということで、午前中は以上です。午後は2時から業界情報誌『フードウエイブ』の取材を受けます。社長、もちろん資料はお読みになられましたよね?」
「……ああ」
声が小さい。希美には「読んでいない」と聞こえた。
「困りますね。それではインタビューにまともな受け答えができません」
「仕方ないじゃないか。よく分からんのだから」
希美は形の良い眉をぴくりとさせた。
「また丸投げでするおつもりですか。インターネットのセキュリティ管理について勉強してくださいと、申し上げましたよね? 会社の信用に関わることです」
「まったく、ガミガミガミガミうるさいやつだ。お前は本当に、お母さんそっくりだな」
「なっ……」
希美が絶句し、社長室が静まり返る。壮二のキーボードを打つ音も止まった。
(こんの……わがまま親父!)
「あのう、もしよろしければ、お手伝いさせてください」
さすが、壮二のご両親だけあって豪胆な人達だ。
希美は深く感心しながら、何ともいえない喜びに満たされていく。
「ご両親に早くお会いしたいわ。あと、中華そばもぜひ食べてみたい!」
「はい。近いうちに実現させましょう」
微笑みを交わし、早速スケジュールを打ち合わせる。仕事も結婚も順風満帆。世界は二人の味方だった。
翌朝――
希美はいつものように社長室のパソコンでスケジュール調整を行い、隣に座る壮二に操作方法を教えた。
二人とも少し寝不足だった。顔を見合わせると、互いにクスッと笑う。
「昨夜はごめんなさい。大丈夫?」
「はい。体力はありますから」
昨夜、食事の帰りに壮二のアパートへ直行し、一晩中抱き合った。明日の仕事に差し障りますと壮二が遠慮したが、希美が執拗に求めたのだ。
壮二が欲しくて仕方なかった。朝から晩まで傍にいるのに手を出せず、悶々とした時間を過ごしたから。
何度も壮二を受け入れ、彼を慰め、気が済むまで貪り合った。寝不足でも、心身ともに充実している。
(それにしても壮二の部屋、狭いながらも片付いていたわ。それに、キッチンには驚いた)
小さな台所だった。しかし、鍋から包丁から、調理道具がひと通り揃っていた。どれも使い込まれ、普段から料理しているのが窺える。
壮二の両親は料理人なので、彼も見よう見まねで覚えたのだろう。
いずれにしろ、食いしん坊の希美には素晴らしい光景だった。
(夫が料理上手だなんて、最高。毎日美味しいものを食べられそう)
「北城さん、よだれが……」
「あ、ごめん」
壮二がハンカチで口元を拭ってくれた。
利希を見やり、スマートフォンをいじっているのを確かめてホッとする。こんな場面を見られたら、何を言われるか分かったものではない。
「さてと、気を引きしめて仕事仕事。南村さん、ここに来週の予定を打ち込んでおいて。数字を間違えないように、お願いね」
「はい、分かりました」
パソコン操作を壮二に任せると席を立ち、プリントアウトしたスケジュール表を手に、社長のデスクに近づく。
「本日のスケジュールを確認いたします」
「ああ、はいよ」
利希はスマートフォンをデスクに放った。
機械が苦手な彼は、スマホの操作もうまくいかないらしい。要するに八つ当たりである。
「……ということで、午前中は以上です。午後は2時から業界情報誌『フードウエイブ』の取材を受けます。社長、もちろん資料はお読みになられましたよね?」
「……ああ」
声が小さい。希美には「読んでいない」と聞こえた。
「困りますね。それではインタビューにまともな受け答えができません」
「仕方ないじゃないか。よく分からんのだから」
希美は形の良い眉をぴくりとさせた。
「また丸投げでするおつもりですか。インターネットのセキュリティ管理について勉強してくださいと、申し上げましたよね? 会社の信用に関わることです」
「まったく、ガミガミガミガミうるさいやつだ。お前は本当に、お母さんそっくりだな」
「なっ……」
希美が絶句し、社長室が静まり返る。壮二のキーボードを打つ音も止まった。
(こんの……わがまま親父!)
「あのう、もしよろしければ、お手伝いさせてください」
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
2021 宝島社 この文庫がすごい大賞 優秀作品🎊
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにて先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる