夫のつとめ

藤谷 郁

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希美の教え

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 興奮が高まってきたのか、壮二は唇だけでは飽き足らず希美の頬や耳たぶ、首筋にも吸いついてきた。仔犬みたいに夢中で舐めてくるのが滑稽な気もするが、笑わない。
 彼はこれで強引なつもりなのだろうし、要望に応えようと必死なのだ。独占するみたいにしがみついてくる。

「……希美さん……つ」

 壮二はもう一度キスしてきた。さっきより上手くなっている。

「なかなかいいわよ。その調子」
「はいっ」

 素直かつ爽やかな返事。目は輝いている。褒められて、さらにヤル気を出したようだ。
 壮二の前のめりに、希美はちょっとした達成感を覚える。これが武子の言う仕込む楽しさかなと思った。少なくとも彼は、最初のように怖がってないし、恥じらいも克服している。
 でも、まだまだこれからが本番だ。
 
(もしかして、壮二って……)

 希美の胸に、新たな期待が生まれたのはしばらく後。彼という男は、どんぐりに埋もれた逸材だったらしい。

(呑み込みが早い。教育次第では、かなりの上級者になるかも)

 夫としての条件を満たし、隠れマッチョで、その上床上手とくれば、最高のパートナーである。他の誰にも渡せない、希美だけのものだ。

 壮二の首筋に顔を埋めた。汗で濡れているが、素肌からいい匂いがする。

「あなたの汗、嫌いじゃないわ」
「……僕も」

 僕もあなたの汗が好きだと、荒い呼吸が語っていた。
 大きな手が、希美の背中を撫でる。
 何だか急激に、欲しくなってきた。

「……ねえ、壮二」
「は、はい?」

 ふいに話しかけられて戸惑う彼に、希美は要求した。

「悪いけど、すぐに抱いてくれない?」
「えっ?」

 壮二が身体ごと跳ね上がった。

「す、すぐに……ですか?」
「そう、一刻でも早く」

 いきなりの要求に面食らったようだ。でも、この体勢で驚くほうがどうかしている。

「わっ、わ、分かりました。こここっ、こちらこそ、お願い……します」

 彼はうわずりながらも、素直に頷いた。
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