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雪の小京都
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「だけどもう、がまんができなかった。昨日、夏目さんが、帰ろうとする僕に話しかけてくれたでしょう。嬉しそうな顔で、少し頬を赤らめて」
「はあ……え、嬉しそう? 頬を赤らめ?」
そんなだった? 狼狽える私に、彼がはっきりとうなずく。
「はい。あなたはたいてい、僕と話す時はそんな感じなので、もしかしたらと……」
信じられない。感情を隠していたつもりが、実は漏れていたってこと?
「まじですか? は、恥ずかしい……」
「いえいえ、素直で、とても可愛いですよ」
「……」
今すぐにカフェを飛び出したかった。でも私は逃げることもできず、掛井さんの視線に晒される。
「これはチャンスだ。僕は急いで考えを巡らせ、イベントのチケットが一枚あるのを思い出して、あなたに渡しました。ダメ元でも行動するべきだと、自分を励ましながら」
「掛井さん……」
「あなたは必ず、来てくれる。しかも、早い時間に来てくれるだろう。そして僕の予想は当たり、そのあとは……知ってのとおり」
「デートに、誘ってくれたんですね?」
「うん」
まったく気づかなかった。たまたまチケットをくれただけだと思い妄想を抑えていたのに、実は妄想のとおりだったなんて。
落ち着くために、カップを手に取る。少し冷めてしまったが、丁寧にドリップされたコーヒーは、十分に美味しい。
「僕は最初から、夏目さんを可愛い人だと思ってたんです。だから、名古屋城の公園で、雨宿りするあなたを見つけたあの日、すぐに声をかけていました。そして、スマホを失くしてがっかりしたり、見つかって喜んだりする、感情豊かな姿を見て、すごく惹かれました。あれほど胸が高鳴るなんて、驚きです」
「わ、私も、あの日をきっかけに、掛井さんを意識し始めたんです。それからはもう、会うたびに好きになっていくというか……」
「……」
掛井さんが唇を結び、そっと視線をはずした。困ったような、嬉しいような、複雑な表情だけど、明らかに動揺している。掛井さんこそ、可愛い……!
「私の気持ち、バレてたんですね」
「バレるというか、ちゃんと伝わってましたよ。言葉にしなくても……いや、でもやっぱり言葉の力は凄いですね」
私に目を戻し、じっと見つめてきた。
「掛井さんの目力も凄いですよ」
「そ、そうかな」
微笑み合い、どちらからともなく手を重ねた。
窓の外は降り積もる雪。
私たちはしばらくそうして、互いの温もりを感じていた。
「はあ……え、嬉しそう? 頬を赤らめ?」
そんなだった? 狼狽える私に、彼がはっきりとうなずく。
「はい。あなたはたいてい、僕と話す時はそんな感じなので、もしかしたらと……」
信じられない。感情を隠していたつもりが、実は漏れていたってこと?
「まじですか? は、恥ずかしい……」
「いえいえ、素直で、とても可愛いですよ」
「……」
今すぐにカフェを飛び出したかった。でも私は逃げることもできず、掛井さんの視線に晒される。
「これはチャンスだ。僕は急いで考えを巡らせ、イベントのチケットが一枚あるのを思い出して、あなたに渡しました。ダメ元でも行動するべきだと、自分を励ましながら」
「掛井さん……」
「あなたは必ず、来てくれる。しかも、早い時間に来てくれるだろう。そして僕の予想は当たり、そのあとは……知ってのとおり」
「デートに、誘ってくれたんですね?」
「うん」
まったく気づかなかった。たまたまチケットをくれただけだと思い妄想を抑えていたのに、実は妄想のとおりだったなんて。
落ち着くために、カップを手に取る。少し冷めてしまったが、丁寧にドリップされたコーヒーは、十分に美味しい。
「僕は最初から、夏目さんを可愛い人だと思ってたんです。だから、名古屋城の公園で、雨宿りするあなたを見つけたあの日、すぐに声をかけていました。そして、スマホを失くしてがっかりしたり、見つかって喜んだりする、感情豊かな姿を見て、すごく惹かれました。あれほど胸が高鳴るなんて、驚きです」
「わ、私も、あの日をきっかけに、掛井さんを意識し始めたんです。それからはもう、会うたびに好きになっていくというか……」
「……」
掛井さんが唇を結び、そっと視線をはずした。困ったような、嬉しいような、複雑な表情だけど、明らかに動揺している。掛井さんこそ、可愛い……!
「私の気持ち、バレてたんですね」
「バレるというか、ちゃんと伝わってましたよ。言葉にしなくても……いや、でもやっぱり言葉の力は凄いですね」
私に目を戻し、じっと見つめてきた。
「掛井さんの目力も凄いですよ」
「そ、そうかな」
微笑み合い、どちらからともなく手を重ねた。
窓の外は降り積もる雪。
私たちはしばらくそうして、互いの温もりを感じていた。
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