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犬山観光
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麓に下りたあと、今度は川沿いの道ではなく、城下町を通って犬山駅方面へと歩いていった。楓屋犬山店は、犬山駅の近くに店舗を構えている。
(城下町っていいよね)
古いお寺や神社が歴史を感じさせる。歴史館やミュージアムの他、土産屋やカフェ、団子屋さんが軒を連ねる通りは、見ているだけで楽しい。
(掛井さんと城下町を散策して、そのあとドライブする。なんて、いいよねえ)
彼の愛車に乗って、二人きりのロマンチックなドライブデート……
妄想が止まらなくなり、一人でにやにやした。だけど、楓屋犬山店に辿り着いた瞬間、ハッと我にかえる。
現実の二人は、仕事上の知り合いに過ぎないってことを思い出したから。
(なんだかんだ、早く来てしまった)
顔を引き締め、店の様子を見やった。入り口に「イベント開催中」と書かれた看板が立ち、開け放たれたドアからお客様があふれている。
さすが楓屋さん。普段から大人気なのだろう。イベントともなれば、遠くから訪れる人も多いに違いない。
私は緊張しつつ、チケットを手に最後尾に並んだ。
(掛井さん、どこにいるのかな。接客中かしら)
順番に進んでいき、ようやく店内に入ったところでキョロキョロした。
「あっ……」
着物姿の店員さんの中で一人だけ、スーツにエプロンを着けた男性を見つけた。
掛井さんだ。
お客様を奥の試食スペースに案内している。紺地に招き猫が染め抜かれたエプロンが可愛い。妙によく似合っていて、私はつい微笑んでしまった。
すると、彼がふとこちらを向き、真っ直ぐに目が合う。ドキッとしたけれど、慌てて会釈したら、彼も明るく笑い、どうしてか照れた様子になった。
きっと、エプロン姿が恥ずかしいのだ。そんな掛井さんが可愛くてたまらなくなり、私は心の中で思い切り身悶えた。
(ああ、やっぱり私、掛井さんが大好き!)
にやにやが止まらず、店員さんに不思議がられながら和菓子を購入した。それから、チケットを使って試食と煎茶のサービスを受けた。案内してくれたのは掛井さんである。
「ようこそ、夏目さん。お待ちしてましたよ」
「あ、ありがとうございます」
店の奥はあんがい広く、チケットを持つお客様がじゅうぶん座れる椅子が用意されていた。
掛井さんは私を窓際の席に座らせてくれた。なんだかとても嬉しそに見えるのは気のせいだろうか。
掛井さん自らお茶と和菓子を運んでくれた。雪うさぎの練り切りが冬らしくて、可愛い。
「今、着いたばかりですか?」
「いえ、その……先に犬山城を観光してきました。開店まで時間があったので」
結局、早く来たことがバレてしまった。しかし彼はにこやかな顔のまま、
「そうなんですか。いいでしょう、犬山城。城下町も賑やかで、楽しい町ですよね」
「は、はい。本当に」
「犬山は他にも、明治村とかリトルワールドとか、見どころがたくさんあります。地元の方によると、観光地として昔から有名らしく……と、お喋りしてたら怒られてしまうな。ええと……」
掛井さんが私の顔をじっと見つめた。
「夏目さん。 このあと、もし時間があれば、付き合ってもらえませんか。本当に、もしよければで構わないので」
「?」
どういう意味か、すぐに分からなかった。
でも、急に真顔になった彼の眼差しに気圧され、分からないまま頷いていた。
「良かった! それでは、あと20分ほどで交代なので、裏の駐車場で待っていてください。それまでどうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいね」
「え、あの……」
戸惑う私を残し、彼は売り場に戻った。
付き合ってもらえますか……って、どういうことだろう。それに裏の駐車場って、もしかして、車でどこかに行くとか。
二人きりで?
妄想が暴走しそうになり、首をブンブンと振った。まさか、そんなわけがない。
彼の考えていることが分からず、見当もつかず、私はただ無心で和菓子を頬張り、お茶を飲んだ。
そして、あっという間に20分が経過。
そっと売り場を見ると、そこに掛井さんの姿はなく、別の営業さんらしき男性が接客している。つまり、彼はすでに駐車場で待っているってこと。
私はぎこちない動きで椅子を立ち、店の裏へと移動した。
(城下町っていいよね)
古いお寺や神社が歴史を感じさせる。歴史館やミュージアムの他、土産屋やカフェ、団子屋さんが軒を連ねる通りは、見ているだけで楽しい。
(掛井さんと城下町を散策して、そのあとドライブする。なんて、いいよねえ)
彼の愛車に乗って、二人きりのロマンチックなドライブデート……
妄想が止まらなくなり、一人でにやにやした。だけど、楓屋犬山店に辿り着いた瞬間、ハッと我にかえる。
現実の二人は、仕事上の知り合いに過ぎないってことを思い出したから。
(なんだかんだ、早く来てしまった)
顔を引き締め、店の様子を見やった。入り口に「イベント開催中」と書かれた看板が立ち、開け放たれたドアからお客様があふれている。
さすが楓屋さん。普段から大人気なのだろう。イベントともなれば、遠くから訪れる人も多いに違いない。
私は緊張しつつ、チケットを手に最後尾に並んだ。
(掛井さん、どこにいるのかな。接客中かしら)
順番に進んでいき、ようやく店内に入ったところでキョロキョロした。
「あっ……」
着物姿の店員さんの中で一人だけ、スーツにエプロンを着けた男性を見つけた。
掛井さんだ。
お客様を奥の試食スペースに案内している。紺地に招き猫が染め抜かれたエプロンが可愛い。妙によく似合っていて、私はつい微笑んでしまった。
すると、彼がふとこちらを向き、真っ直ぐに目が合う。ドキッとしたけれど、慌てて会釈したら、彼も明るく笑い、どうしてか照れた様子になった。
きっと、エプロン姿が恥ずかしいのだ。そんな掛井さんが可愛くてたまらなくなり、私は心の中で思い切り身悶えた。
(ああ、やっぱり私、掛井さんが大好き!)
にやにやが止まらず、店員さんに不思議がられながら和菓子を購入した。それから、チケットを使って試食と煎茶のサービスを受けた。案内してくれたのは掛井さんである。
「ようこそ、夏目さん。お待ちしてましたよ」
「あ、ありがとうございます」
店の奥はあんがい広く、チケットを持つお客様がじゅうぶん座れる椅子が用意されていた。
掛井さんは私を窓際の席に座らせてくれた。なんだかとても嬉しそに見えるのは気のせいだろうか。
掛井さん自らお茶と和菓子を運んでくれた。雪うさぎの練り切りが冬らしくて、可愛い。
「今、着いたばかりですか?」
「いえ、その……先に犬山城を観光してきました。開店まで時間があったので」
結局、早く来たことがバレてしまった。しかし彼はにこやかな顔のまま、
「そうなんですか。いいでしょう、犬山城。城下町も賑やかで、楽しい町ですよね」
「は、はい。本当に」
「犬山は他にも、明治村とかリトルワールドとか、見どころがたくさんあります。地元の方によると、観光地として昔から有名らしく……と、お喋りしてたら怒られてしまうな。ええと……」
掛井さんが私の顔をじっと見つめた。
「夏目さん。 このあと、もし時間があれば、付き合ってもらえませんか。本当に、もしよければで構わないので」
「?」
どういう意味か、すぐに分からなかった。
でも、急に真顔になった彼の眼差しに気圧され、分からないまま頷いていた。
「良かった! それでは、あと20分ほどで交代なので、裏の駐車場で待っていてください。それまでどうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいね」
「え、あの……」
戸惑う私を残し、彼は売り場に戻った。
付き合ってもらえますか……って、どういうことだろう。それに裏の駐車場って、もしかして、車でどこかに行くとか。
二人きりで?
妄想が暴走しそうになり、首をブンブンと振った。まさか、そんなわけがない。
彼の考えていることが分からず、見当もつかず、私はただ無心で和菓子を頬張り、お茶を飲んだ。
そして、あっという間に20分が経過。
そっと売り場を見ると、そこに掛井さんの姿はなく、別の営業さんらしき男性が接客している。つまり、彼はすでに駐車場で待っているってこと。
私はぎこちない動きで椅子を立ち、店の裏へと移動した。
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