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番外編

3-6、シェリル、いま行く

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 俺はエルフの国に戻り、精霊大王ティターニアにコンタクトを取った。

【精霊大王ティターニア】

『……お前の呼び出しには逆らえないね』

 目の前にシェリルと同じ色彩の精霊大王が姿を見せる。思った通りだ、ここなら俺の声も届くと思ったんだ。

「シェリルの行方がわからない。追えるか?」

『珍しく余裕がないようだ……なるほど、女王の危機か』

 ティターニアは目が目を閉じると、淡いグリーンの光の粒があらわれてまるで生き物ようにうねり始めた。やがて周囲に溶け込むように消えていく。

『邪竜の神殿にいる。すぐに迎え』

「ありがとう。あとは俺がシェリルを取り戻す」

 俺の言葉を聞き届け、ティターニアは満足げに微笑んで空へと飛んでいった。


【クリタス】

『聞いていたわ。邪竜神殿ね』

「ああ、シェリルはそこにいる」




 一瞬で邪竜神殿へと飛び、結界によって入れないことに激しく苛立つ。邪魔だな、この結界。

【メリウス】

無常の理り ブレイク・トゥルース

 森羅万象の杖で結界に触れると、途端にヒビが入り結界は崩れ落ちた。邪竜の結界だとか言ってけど知るか。俺はシェリルの方が大事だ。

【イグニス、ウェンティー、アクア、トニトルス、ラキエス、ルキス】

 俺は精霊王たちを全員召喚する。もう一分一秒でも早くシェリルを抱きしめたい。

「ここにいるヤツらはシェリルをさらった組織のものだ。全員殺す。ひとりも逃さない。ああ、殺す前にシェリルの居場所だけは聞いてくれ。結界は貼っておくから、思い切り暴れていい」

『レオの心のままに』

 そう言って精霊王たちは意気揚々と神殿に乗り込んでいく。俺は転移魔法が使えないように、ハロルドが渡してくれた魔道具を起動させた。
 巨大な魔法陣を形成して、神殿全体に強力な結界が張られていく。

 よし、これで一匹残らず殲滅できるな。ゴッド召喚はチェンジだ。

【ゼウス】

 一番攻撃力の高いゴッドを召喚して、俺も神殿に乗り込んだ。
 すでに精霊王たちは神殿を破壊しながら、奥へと進んでいる。

 俺も後を追いながら、見つけた組織の者にシェリルの居場所を尋ねるが誰も知らない。知らないならどうでもいいので、残党を何の躊躇もせず片付けていった。

 万が一にも生き残らないように、紫雷で焼き尽くしていく。


 その時、シェリルの声が聞こえた。一瞬空耳かと思った。


「レオ————助けて!!」


 いや、違う間違いなくシェリルの声を拾った。
 そして、俺に助けを求めている。
 初めてハッキリと口に出して、助けを求めている。


 ゼウス降臨で身体能力が上がったからか、俺もティターニアの加護を受けているからか。シェリルを見つけられるなら、どちらでも構わない。

 全神経を集中させて、シェリルの気配を探った。極微弱なティターニアの気配を感じ取る。


「見つけた。シェリル、いま行く」


 三つ先の部屋で足を止めた。
 シェリルの居場所はこの下だ。かなり深いところにいる。
 面倒だ、このまま破壊するか。

「天地雷轟!!」

 濃紫の刀からあふれ出た強力な雷撃で俺の足元ごと神殿を破壊した。一点集中の攻撃で、瓦礫とともに一気に三階層下まで到達する。

 そこで俺の目に飛び込んできたのは、鎖に囚われ泣いているシェリルだ。
 それとシェリルの足に触れている、男だ。



 コイツ、何をしている?
 俺のシェリルに何をしている?



 瞬間的に男の首を刎ねた。

 本当はミンチにしたかったが、シェリルがすぐそばにいたので手足を切り落とすだけで我慢した。
 ただの肉塊となった男が床に転がっていく。


 そしてシェリルに男に汚い血がかからないように、鎖を断ち切り俺の腕の中に抱き寄せた。
 

「シェリル!!」

「レオ! レオ!!」


 半日も離れていないのに、ずっと会えなかったような切なさが込み上げる。堪えきれなくて、深い口づけを落とした。

 少しも離れるのがいやで、シェリルと口づけしながら手枷を外して、腕輪を破壊する。
 手枷が外れると、シェリルも俺の首に腕を回した。

 お互いの熱を確かめあうように、求めあう。
 もう側にいるのだと。愛しい人が腕の中にいるのだと心に刻むように。

 こぼれ落ちる涙をそっと拭いて、シェリルの頬を両手で包み込んだ。
 やっと唇を離したのは、足元から紅い光を放つ魔法陣があらわれたからだ。

「えっ、なんだこれ?」

「この禍々しい気配は……邪竜……!?」


 振り返れば、この部屋一面に魔法陣が浮かび上がっている。地の底からの唸るような咆哮が、俺たちの身体を震わせた。

 感じたことのないような絶望感と、絶対的強者の雄叫びは周りの者を恐怖の底に落とすのだった。
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