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第四章 堕ちていく者たち
85、他の全てを壊しても
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私はレオが最後に目撃された場所、グリーンドラゴンが討伐された山に来ていた。
グリーンドラゴン自体はすでに処分されていて、今では山肌に黒い血の痕を残すだけだった。
その上に両手と両膝をつき、精霊に願いを告げる。
エルフが使うのは精霊魔法だ。呪文という呪文はない。共通しているのは呼びかけの言葉くらいだ。
精霊魔法は願い。エルフの願いが形になるもの。それなら、願い方によってどんなことでもできる。
いいえ、どんな形でも使いこなしてみせる。
————私が欲しいのは、ただひとり愛するレオだけ。
「精霊大王ティターニアよ。私に愛しい人を掴まえる力を貸して」
さらに魔力込めようとして、中性的な声が聞こえた気がした。
『エルフの王女よ。あなたの純真な願い、叶えましょう』
大地から暖かで清廉な魔力が流れ込んでくる。そして頭の中に浮かぶのは、愛しい人の姿。
二年ぶりの姿は、私の記憶より少し大人びている。でも、クセのある黒髪と優しい紫の瞳はそのままだった。
恋しくて恋しくて、焦がれて泣いて、ずっと求め続けた。
勘違いばかりの私のせいで、辛い思いをさせてしまった。
意気地のない私のせいで、いつも傷つけてしまった。
でも、もう私の想いは決して揺るがないわ。
「レオの居場所が、わかったわ。待ってて、すぐ会いに行くから」
***
俺は一年前に住んでいた獣人族の国、ライザン王国に来ていた。この国は国土の九割が山岳地帯で、獣人族でなければ移動すらままならない地域だ。
神召喚して気がついたことがある。
「ウェンティー、この気配は何だかわかるか?」
『ええ、わかるわよ』
半日前からずっと探られているような、見られているような気配を感じていた。
「なんだ? 教えてくれないのか?」
『そうねぇ……教えたいけど、許可が降りないのよねぇ』
「許可? なんだそれ?」
『ごめんなさい、これ以上は言えないの』
ウェンティーが困った様子で口をつぐんでいる。
何かが起きていると感じた。それも精霊王でも、どうにもできないような力が働きかけている。
「そうか……他の精霊王も一緒?」
『そうね、みんな同じよ』
精霊王より上位の存在。
そんなの、ひとつしかない。精霊大王ティターニアだ。エルフの国で何かあったのか? それとも————
「————レオ……本当にレオなの?」
聞こえるはずのない声が、俺の鼓膜を揺さぶった。
記憶の中と変わらない、俺を呼ぶ優しい声が激しく心をかき乱す。
ダメだ、いま振り返ったら、ダメだ。
【クリタス!】
『レオ、どこに行きたいの?』
「どこか、遠い場所へ」
そのまま振り返らずに、転移魔法で移動した。
ここはジオルドの前国王と戦った無人島だ。ひとりになりたかったから、ホッとした。見られているような気配は感じない。
俺の気持ちはぐちゃぐちゃだ。
何度も夢に見てきたシェリル様の声だった。間違うはずない。
……どうして会いに来たんだ? 好きな男とは上手くいってないのか? だとしても、今度会ったら、きっと顔を見てしまったらダメだ。
他の全てを壊しても奪い去ってしまいそうなんだ。
グリーンドラゴン自体はすでに処分されていて、今では山肌に黒い血の痕を残すだけだった。
その上に両手と両膝をつき、精霊に願いを告げる。
エルフが使うのは精霊魔法だ。呪文という呪文はない。共通しているのは呼びかけの言葉くらいだ。
精霊魔法は願い。エルフの願いが形になるもの。それなら、願い方によってどんなことでもできる。
いいえ、どんな形でも使いこなしてみせる。
————私が欲しいのは、ただひとり愛するレオだけ。
「精霊大王ティターニアよ。私に愛しい人を掴まえる力を貸して」
さらに魔力込めようとして、中性的な声が聞こえた気がした。
『エルフの王女よ。あなたの純真な願い、叶えましょう』
大地から暖かで清廉な魔力が流れ込んでくる。そして頭の中に浮かぶのは、愛しい人の姿。
二年ぶりの姿は、私の記憶より少し大人びている。でも、クセのある黒髪と優しい紫の瞳はそのままだった。
恋しくて恋しくて、焦がれて泣いて、ずっと求め続けた。
勘違いばかりの私のせいで、辛い思いをさせてしまった。
意気地のない私のせいで、いつも傷つけてしまった。
でも、もう私の想いは決して揺るがないわ。
「レオの居場所が、わかったわ。待ってて、すぐ会いに行くから」
***
俺は一年前に住んでいた獣人族の国、ライザン王国に来ていた。この国は国土の九割が山岳地帯で、獣人族でなければ移動すらままならない地域だ。
神召喚して気がついたことがある。
「ウェンティー、この気配は何だかわかるか?」
『ええ、わかるわよ』
半日前からずっと探られているような、見られているような気配を感じていた。
「なんだ? 教えてくれないのか?」
『そうねぇ……教えたいけど、許可が降りないのよねぇ』
「許可? なんだそれ?」
『ごめんなさい、これ以上は言えないの』
ウェンティーが困った様子で口をつぐんでいる。
何かが起きていると感じた。それも精霊王でも、どうにもできないような力が働きかけている。
「そうか……他の精霊王も一緒?」
『そうね、みんな同じよ』
精霊王より上位の存在。
そんなの、ひとつしかない。精霊大王ティターニアだ。エルフの国で何かあったのか? それとも————
「————レオ……本当にレオなの?」
聞こえるはずのない声が、俺の鼓膜を揺さぶった。
記憶の中と変わらない、俺を呼ぶ優しい声が激しく心をかき乱す。
ダメだ、いま振り返ったら、ダメだ。
【クリタス!】
『レオ、どこに行きたいの?』
「どこか、遠い場所へ」
そのまま振り返らずに、転移魔法で移動した。
ここはジオルドの前国王と戦った無人島だ。ひとりになりたかったから、ホッとした。見られているような気配は感じない。
俺の気持ちはぐちゃぐちゃだ。
何度も夢に見てきたシェリル様の声だった。間違うはずない。
……どうして会いに来たんだ? 好きな男とは上手くいってないのか? だとしても、今度会ったら、きっと顔を見てしまったらダメだ。
他の全てを壊しても奪い去ってしまいそうなんだ。
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