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第三章 画策する者たち

57、ならばお前はもういらん

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 僕は兄上に別れを告げたあと、魔法学園を去って屋敷で自分の荷物を整理していた。

 教師に相談したときは、新しい学園長なら相談に乗ってくれるからと引き止められたが、自分だけのうのうと生きることに耐えられなかった。

 幼い頃は優しくて楽しい兄上が大好きで、いつも後ろをついて歩いていた。それが変わったのは兄上が魔法学園に入学してからだ。

 父上と母上はまるで兄上がいなかったように振る舞って、最初はどうしてなのかわからなかった。
 ただ、兄上の話をすると両親が逆上したので、話してはいけないのだと理解した。

 やがて魔法学園に入って理由を知った。
 たかだか八歳の子供に、どうにかできる問題じゃなかったとは思う。でも、いつのまにか僕も父や母と同じように、兄上を蔑んでいた。

「もっていく荷物はこれだけかな……」

 必要最低限の荷物だけカバンに詰めて、最後に父上と母上に挨拶をしようと母上の部屋にむかった。そこでほんの少し扉が開いていて、ふたりの話し声が聞こええてくる。

 ……ちょうどよかった。一度に挨拶できそうだ。

 声をかけようとして、耳に入ってきた言葉に体が動かなくなった。



「これでレオを封印しろと、宰相閣下から渡されたんだ」

「そんな! いくら呪われた存在 カース・レイドだからって、こんな……封印なんてあんまりよ!」

「まだ寝ぼけたことを言っているのか!?」

 父は怒りに任せて、部屋の中で暴れているようだ。陶器が割れる音が響いて、物が倒され母が短い悲鳴をあげていた。

「いいか! レオを封印するだけで生き残れるわけがない! この先の私たちの未来はないんだ!!」

「それは貴方のせいじゃない!! もう嫌! 私は実家に帰ります、金輪際グライス家とは関わらないわ! 当然だけど実家からの援助もおしまいよ!!」

 父上は感情的に怒鳴り散らして、母上は泣きながら叫んでいた。……母上もこの家と決別するのか。
 どうしよう、兄上に危険が迫っていると伝えなきゃいけないけど……どうにかここで止められないか?

「待て!! これを使って封印するのはエルフの王女だ! そうすれば勝機はある!」

「何ですって!? エルフの王女様にそんなことしたら……」

 ありえない計画に母上の声は震えていた。僕も一瞬息をするのを忘れていたくらい衝撃だった。

「これくらいやらないと、グライス家は終わるんだ!! そして、グライス家と取引させればよいのだ!! あの二人の弱みを握れば上手く使えるだろう」

「わ、私はとにかく実家に帰ります!」

 僕が悩んでいる間にも、父上と母上の口論は決定的なものになってしまった。


「……そうか、ならばお前はもういらん」
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