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第三章 画策する者たち
40、シェリル様は気に入りましたか?
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シルヴァンス王子の指示を受けて、俺とシェリル様を特別室に案内してくれたのは、茶金色の艶のあるストレートの髪に琥珀色の瞳をした公爵令嬢だ。
「アリエノール・トンプソンと申します。それでは、私がご案内したします」
「アリエル……」
「レオ、久しぶりね」
嬉しそうに微笑う懐かしい人物に会い、思わず愛称で呼んでしまう。
俺がこの学園で唯一友達らしい会話ができた生徒だった。
いまは王子の側近なんだろうか。昔からたくさんの本を読んでいたので、きっとその知識量を買われたんだろう。いつも図書館の決まった席で、分厚い本を読んでいたアリエルを思い浮かべる。
「レオの……知り合いなの?」
シェリル様が、不安そうな顔で俺を見あげていた。安心させるようにフワリと微笑んで、誤解のないように説明する。
「図書館でよく顔を合わせるうちに、話すようになったんです。ただ俺は召喚魔法に夢中だったので、途中で疎遠になりましたが……」
「……それでは、特別室はこちらになります」
少しだけ寂しそうな顔をしたアリエルを先頭に、学生寮の特別室にむかう。
何年か前に一度、アリエルに召喚魔法を見せたことがあった。その頃にはお互い図書館の住人で、親しく話すようになっていたから、理解してもらえるかもと思ったんだ。
そんな考えは一瞬で消え去ったけど。スピリット召喚してあらわれた炎の妖精に、顔をひきつらせ固まっていた。
怖がらせたんだとわかったけど、拒絶されたと思ったらもう普通に話をする勇気はなかった。
それからは、またひとりに戻って召喚魔法を取得し続けたんだ。そんなことを考えていたら、特別室の前に着いたらしくアリエルに促されて中に入る。
最初の部屋は机や応接用のテーブルとソファーが用意されていて、ダークブラウンとグリーンの配色で落ち着く空間になっていた。ミニキッチンもついていて、お茶くらいならここで淹れられるようになっている。
「まぁ……素敵なお部屋ね」
「シェリル様は気に入りましたか?」
「ええ、とても! ベッドは……ああ、こちらなのね!」
奥の扉を開くと寝室になっていて、ベージュの壁に白い家具が並び、ベッドカバーや小物はピンク色で可愛らしく飾られている。それを見たシェリル様は、耳が上下に動いていて、喜んでいるのが聞かなくてもわかった。
そんな可愛いシェリル様を堪能してると、アリエルが細々とした物の場所などを話し始める。そして俺はこの部屋の隣にある、侍従用の部屋を使うように説明を受けた。
「明日の朝食はシルヴァンス王子が迎えに来られますので、準備をしておいてください。では、私はこれで失礼いたします」
「アリエ……ノール様、ありがとうございます」
「……っ、いえ……それでは」
さすがに愛称で呼ぶのはマズイかと思い、ごく一般的な呼び方で名前を呼んだ。すでに背中を向けていたアリエノールの表情は分からない。
でも、その声は少し沈んでいるように聞こえた。
「アリエノール・トンプソンと申します。それでは、私がご案内したします」
「アリエル……」
「レオ、久しぶりね」
嬉しそうに微笑う懐かしい人物に会い、思わず愛称で呼んでしまう。
俺がこの学園で唯一友達らしい会話ができた生徒だった。
いまは王子の側近なんだろうか。昔からたくさんの本を読んでいたので、きっとその知識量を買われたんだろう。いつも図書館の決まった席で、分厚い本を読んでいたアリエルを思い浮かべる。
「レオの……知り合いなの?」
シェリル様が、不安そうな顔で俺を見あげていた。安心させるようにフワリと微笑んで、誤解のないように説明する。
「図書館でよく顔を合わせるうちに、話すようになったんです。ただ俺は召喚魔法に夢中だったので、途中で疎遠になりましたが……」
「……それでは、特別室はこちらになります」
少しだけ寂しそうな顔をしたアリエルを先頭に、学生寮の特別室にむかう。
何年か前に一度、アリエルに召喚魔法を見せたことがあった。その頃にはお互い図書館の住人で、親しく話すようになっていたから、理解してもらえるかもと思ったんだ。
そんな考えは一瞬で消え去ったけど。スピリット召喚してあらわれた炎の妖精に、顔をひきつらせ固まっていた。
怖がらせたんだとわかったけど、拒絶されたと思ったらもう普通に話をする勇気はなかった。
それからは、またひとりに戻って召喚魔法を取得し続けたんだ。そんなことを考えていたら、特別室の前に着いたらしくアリエルに促されて中に入る。
最初の部屋は机や応接用のテーブルとソファーが用意されていて、ダークブラウンとグリーンの配色で落ち着く空間になっていた。ミニキッチンもついていて、お茶くらいならここで淹れられるようになっている。
「まぁ……素敵なお部屋ね」
「シェリル様は気に入りましたか?」
「ええ、とても! ベッドは……ああ、こちらなのね!」
奥の扉を開くと寝室になっていて、ベージュの壁に白い家具が並び、ベッドカバーや小物はピンク色で可愛らしく飾られている。それを見たシェリル様は、耳が上下に動いていて、喜んでいるのが聞かなくてもわかった。
そんな可愛いシェリル様を堪能してると、アリエルが細々とした物の場所などを話し始める。そして俺はこの部屋の隣にある、侍従用の部屋を使うように説明を受けた。
「明日の朝食はシルヴァンス王子が迎えに来られますので、準備をしておいてください。では、私はこれで失礼いたします」
「アリエ……ノール様、ありがとうございます」
「……っ、いえ……それでは」
さすがに愛称で呼ぶのはマズイかと思い、ごく一般的な呼び方で名前を呼んだ。すでに背中を向けていたアリエノールの表情は分からない。
でも、その声は少し沈んでいるように聞こえた。
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