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第三章 画策する者たち

33、覚悟しておけ

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「シルヴァンス王子、ご無事のご帰還なによりでございます。そちらが至高の存在であるエルフの王女様ですな!」

 俺たちをエントランスで出迎えた学園長は、満面の笑みでシェリル様に近付いて来た。嫌悪感から一歩前に出て、シェリル様を背中に隠す。

「なっ! この者は……うん? お前は! レオ・グライスではないか!!」

「へぇ、学園長は彼を知っていたんですね」

 シルヴァンス王子は穏やかな微笑みを浮かべたまま、凍てつくような視線を学園長に向けた。すでに馬車の中で打ち合わせした作戦は始まっている。

「シルヴァンス王子! コ、コイツは呪われた存在 カース・レイドですぞ! しかも悪霊を呼び出すような危険な人物なのです!!」


「その口を閉じなさい! 私の専属護衛であるレオをそのように呼ぶとは……無礼極まりないわ!」


 シェリル様の演技ではない本気の怒りに、学園長はビクリと身体を震わせた。驚きのあまりこれでもかと眼を見開き口をだらしなく開けている。

「え……? エルフの王女様の、護衛ですと……?」

「学園長、彼はエルフの寵愛を受けています。これ以上侮辱すると物理的にクビが飛びますよ」

 シルヴァンス王子は学園長の耳元にそっと囁いた。その言葉に、学園長の顔色が一気に悪くなる。

(そんな……なぜ魔法も使えない呪われた存在 カース・レイドがエルフの寵愛を受けているのだ!? 一体何があったのだ!?)

 そこでシルヴァンス王子が、魔法学園に届いていない情報をありのまま伝えた。

「学園長……今回シェリル王女は、エルフの生薬を取引する相手を探すためにご来訪されてます。王城の高官たちや魔法研究所は該当者がおらず、私が魔法学園にお連れしたのです」

 ハッとして学園長はシルヴァンス王子の顔を見て、その可能性に気づいた。

(もしもこの学園の生徒や教師が選ばれたら、学園長である自分の功績にできる。この様子だと王子とも取引しないようだ……万が一自分が選ばれれば、こんな仕事はやめてのんびり贅沢に暮らせる!!)

 学園長は瞬時に損得を計算して、これからの振る舞いを決める。大きく深呼吸してから、態度を改めた。

「大変失礼しました。まずはいろいろとお伺いしたいこともあるので、落ち着ける場所に移動しましょう。ご案内いたします」



     ***


 俺たちが案内されたのは、来客用の応接室だった。王城ほどではないが、上質な家具に美しい調度品が飾られた華やかな空間だ。
 目の前には、最高級の紅茶と王室御用達店の焼き菓子が用意されている。

「先ほどもお話しした通り、シェリル王女のご希望にそうため、未熟ではありますが私が国内での世話役になりました。急遽決まったため、シェリル王女を先に魔法学園にお連れした次第です」

 これはシルヴァンス王子が国王に、
『現状ではシェリル王女と一番接点があり、取引相手になりそうのはハロルドです。それもいいですが、私が選ばれた方が王家にとって都合が良いのでは?』
 と持ちかけ、このシェリル様の接待役を獲得してきたのだ。

「ふむ、承知いたしました。昨日届いた親書に従い、学生寮の特別室は準備できております。他に何かご希望はございますかな?」

 ここでシェリル様が口を開いた。

「それでは、貴方も含めて教師を全員集めて頂けますか? 私からお話ししたいことがあります」

「もちろんでございます。シェリル王女のご希望でしたら、喜んで手配致しましょう。ただ、全員となると授業が終わってからになりますが、よろしいでしょうか?」

「構いません。よろしくお願いします」

 さぁ、この後は俺の出番だ。出来るだけ派手に暴れてやる。
 ————覚悟しておけ。
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