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第二章 無知な者たち

25、集めた士官どもは全員ダメだったのか!?

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 レオとシェリルが魔法研究所を訪れた翌朝、国王は執務室でエルフの国との取引に関する報告を、宰相から受けていた。


「何!? 集めた士官どもは全員ダメだったのか!?」


 前日のシェリル王女との面談において、集めた士官たちが誰ひとり取引相手に選ばれなかったと聞き思わず叫んでいた。

「左様でございます、陛下。シェリル王女の怒りを買ったようでして、そのあと魔法研究所へご訪問されております。そして本日ブルーリアの闘技場で、ハロルド所長と例の護衛が対戦することになっております」

 宰相の顔にも疲労の色が濃くでていた。昨夜遅くにこの報告を受けてから、あまりの結果にほとんど眠れなかったのだ。

「闘技場でハロルドと対戦だと!? 魔法が使えないのに我が国一番の魔道士と対戦するというのか!?」

「はい、私からもハロルド本人に確認いたしましたが間違いございません。本日の対戦に勝てばハロルドが取引相手になることは約束したと聞いております」

「そうか、それならば……うむ、問題なかろう」

 なにせハロルドは歴代魔道士の中でも、五本の指に入るほどの実力の持ち主だ。現時点で人間界の中で最強といって過言ではない。結果は聞かなくてもわかる。

「しかし……呪われた存在 カース・レイドの分際で、エルフの王女に取り入りおって!! グライス家は何をやっていたのだ!?」

 忌々しいのは、エルフの王女の護衛としてやってきた呪われた存在 カース・レイドだ。どんな手を使ったのかはわからないが、王女の寵愛を受けていることは先日の件で嫌というほど理解した。

「陛下、グライス家には嫡男の再教育を命じます」

「うむ、そうだな。それと魔法研究所と取引するなら、王家も一枚かむように書類を用意しておけ。国立なのだ、ハロルドの好きにさせる必要はない」

「承知いたしました」

 一礼して宰相は国王の執務室を後にした。続いて国王は別の補佐官を呼び、今日のレオとハロルドの対決を映像で記録しておくように申しつける。

(ふん、無能が無様に倒れる様子を今夜の酒のつまみにしてやる————)

 このあと、その映像を見て愕然とすることを、国王は予想だにしなかった。



     ***



 レオとハロルドの対決が午後から開始されるという情報は、前日の夜遅くに研究所と王城に周知された。それでも闘技場の半分ほどは席が埋まっている。

 見に来たのは研究熱心な所員と、国王の謁見室にいた高官やレオの召喚魔法を悪霊と呼んだ士官たちだった。
 呪われた存在 カース・レイドが無様にやられるのを見たいらしい。


 シェリル様は貴賓席から観戦か……クリタスを付けておいたから、万が一の脱出も問題ないだろう。俺の気持ちをくんで、精霊王たちもしっかりシェリルを守ってくれるから安心だ。


 俺は控室でのんびり時間になるのを待っていた。ハロルド所長も先ほど闘技場に到着したと聞いたので、間もなく開始だろう。
 そこへノックの音と共に、カーターが入ってきた。

「レオさん、お待たせしました。時間なのでステージまでお願いします」

「わかりました」

 カーターはそのまま所長に声をかけに向かった。俺は暗い通路を進み、ステージへと登る。
 観客はざわついていた。たぶん呪われた存在 カース・レイドがどうのとか言ってるんだろうけど、どうでもいい。

 そのまま待っていると、反対側からハロルド所長があらわれる。その姿に観客席からワッと歓声があがった。完全アウェイだ。シェリル様が心細くしていないか気になって視線を向けると、相変わらず黒い笑顔で微笑んでいた。

 いや、女王様になるんだし、必要な資質だと思う。優しいだけでは国を治めるのなんて無理だろう。ある意味頼もしい。さすが俺のシェリル様だ。


「それでは、これよりハロルド・ベイカーとレオ・グライスの対戦を開始します!! 始め!!」


 カーターの宣誓によって対決は始まった。
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