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58話 最愛の婚約者②
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「さあ、リリス。ここからは僕がエスコートするよ」
「はい、ルシアン様。よろしくお願いいたします」
「本当は今日も最初から僕がエスコートしたかったのに……」
「これからはルシアン様だけですわ」
少し拗ねていたルシアンがアマリリスの言葉にふんわりと笑みを浮かべる。それは背後から黄色い悲鳴が上がるほどで、アマリリスもその笑顔に心臓がおかしなことになっていた。
(待って、待って、待って! こんな麗しい表情で見つめられたら、心臓が止まっちゃう!!)
心の中ではのたうち回っていても表情には出さずに、アマリリスはルシアンにエスコートされダンスを踊りはじめる。
クルクルと回りながらステップを軽やかに踏み、優美なふたりは会場の視線を集めた。ルシアンはアマリリスが自分のものだと見せつけたくて、耳元で愛を込めて甘く囁く。
「リリス」
「はい、なんでしょう?」
「君だけを愛してる」
「…………っ!」
突然のルシアンの愛情表現に、アマリリスはこらえきれずクールな表情を崩した。
頬は薔薇色に染まり、琥珀色の瞳は潤んでシャンデリアの光を反射している。いつもはまっすぐな眉尻を下げてアマリリスはルシアンを見上げた。
「うわっ! その表情、他の男に見せないで!」
「え? どうしてですか? こんな風にしたのはルシアン様なのに」
「ダメ、絶対に他の男に見せたくない」
珍しく余裕がないルシアンは素早くダンスフロアから抜け出し、誰もいないバルコニーへやってきた。途中、アマリリスに見惚れた男たちに氷のような視線を向けて牽制しながらきたが、ルシアンを焦燥感が襲う。
「リリス。いますぐ結婚しよう」
「えっ! それは無理です。妃教育も終わっていませんし、今日お披露目したばかりですし」
「いや、僕が無理。あ、それなら行動範囲を限定してもいい? 他の男に会わない範囲なら許せるかな」
「あの、ルシアン様。それは無理があります」
「だってさ、リリスのあんなかわいい表情見せたら、他の男が惚れちゃうでしょう!? 僕のリリスなんだよ!?」
アマリリスは甘い気持ちから一転、なぜそうなるのかと頭が痛くなる。
そもそもルシアンがあんなところで愛の言葉を囁かなければ、アマリリスは落ち着いた気持ちのままだったのだ。
「それでは、むやみやたらに愛の言葉を囁かないでください」
「うっ、でもさあ……リリスに伝えたくなるんだよね」
「ではふたりきりの時だけにしてください。そうでないと、平静を保っていられません」
「……それって、つまり」
ルシアンはハッとしてアマリリスをジッと見つめる。
「それだけ僕を好きってことだよね?」
「……知りません!」
「ふうん、そっか。ふふ、そんなに僕が好きなんだ」
「…………」
ルシアンの花が咲くような極上の笑顔に、アマリリスの心臓が暴走しているのを悟られたくなくて背中を向ける。
そのまま背中から抱きしめられて、アマリリスは抗議したくて斜め後ろのルシアンを見上げた。
その瞬間、熱く柔らかなルシアンの唇が降ってきて、心臓だけでなく身体中が燃えるように熱くなる。
ルシアンの深い愛を受け止めて、それしか考えられない。
やっと解放された頃には、クラクラとする頭でルシアンをうっとりと見上げていた。
「リリス、すぐに結婚しよう。もう絶対に誰にも渡したくない」
「……は、い」
妖艶に微笑むルシアンを見てアマリリスは思った。
(やっぱり腹黒教育なんてもう必要ないわ——)
その後、テオドールはすぐに正式な手続きを取り、クレバリー侯爵家の当主となった。モンタス辺境伯はテオドールが正当な後継者だと認められたことを喜んでくれて、年に一度顔を出すことを条件に退団に応じてくれた。
すでに王城で働いている使用人たちには、屋敷に戻るか確認して希望に応じて職場を用意している。
アマリリスはクレバリー侯爵家が没落する前に取り戻せたことで、ケヴィンたちにも義理を果たせたと安堵した。
「はい、ルシアン様。よろしくお願いいたします」
「本当は今日も最初から僕がエスコートしたかったのに……」
「これからはルシアン様だけですわ」
少し拗ねていたルシアンがアマリリスの言葉にふんわりと笑みを浮かべる。それは背後から黄色い悲鳴が上がるほどで、アマリリスもその笑顔に心臓がおかしなことになっていた。
(待って、待って、待って! こんな麗しい表情で見つめられたら、心臓が止まっちゃう!!)
心の中ではのたうち回っていても表情には出さずに、アマリリスはルシアンにエスコートされダンスを踊りはじめる。
クルクルと回りながらステップを軽やかに踏み、優美なふたりは会場の視線を集めた。ルシアンはアマリリスが自分のものだと見せつけたくて、耳元で愛を込めて甘く囁く。
「リリス」
「はい、なんでしょう?」
「君だけを愛してる」
「…………っ!」
突然のルシアンの愛情表現に、アマリリスはこらえきれずクールな表情を崩した。
頬は薔薇色に染まり、琥珀色の瞳は潤んでシャンデリアの光を反射している。いつもはまっすぐな眉尻を下げてアマリリスはルシアンを見上げた。
「うわっ! その表情、他の男に見せないで!」
「え? どうしてですか? こんな風にしたのはルシアン様なのに」
「ダメ、絶対に他の男に見せたくない」
珍しく余裕がないルシアンは素早くダンスフロアから抜け出し、誰もいないバルコニーへやってきた。途中、アマリリスに見惚れた男たちに氷のような視線を向けて牽制しながらきたが、ルシアンを焦燥感が襲う。
「リリス。いますぐ結婚しよう」
「えっ! それは無理です。妃教育も終わっていませんし、今日お披露目したばかりですし」
「いや、僕が無理。あ、それなら行動範囲を限定してもいい? 他の男に会わない範囲なら許せるかな」
「あの、ルシアン様。それは無理があります」
「だってさ、リリスのあんなかわいい表情見せたら、他の男が惚れちゃうでしょう!? 僕のリリスなんだよ!?」
アマリリスは甘い気持ちから一転、なぜそうなるのかと頭が痛くなる。
そもそもルシアンがあんなところで愛の言葉を囁かなければ、アマリリスは落ち着いた気持ちのままだったのだ。
「それでは、むやみやたらに愛の言葉を囁かないでください」
「うっ、でもさあ……リリスに伝えたくなるんだよね」
「ではふたりきりの時だけにしてください。そうでないと、平静を保っていられません」
「……それって、つまり」
ルシアンはハッとしてアマリリスをジッと見つめる。
「それだけ僕を好きってことだよね?」
「……知りません!」
「ふうん、そっか。ふふ、そんなに僕が好きなんだ」
「…………」
ルシアンの花が咲くような極上の笑顔に、アマリリスの心臓が暴走しているのを悟られたくなくて背中を向ける。
そのまま背中から抱きしめられて、アマリリスは抗議したくて斜め後ろのルシアンを見上げた。
その瞬間、熱く柔らかなルシアンの唇が降ってきて、心臓だけでなく身体中が燃えるように熱くなる。
ルシアンの深い愛を受け止めて、それしか考えられない。
やっと解放された頃には、クラクラとする頭でルシアンをうっとりと見上げていた。
「リリス、すぐに結婚しよう。もう絶対に誰にも渡したくない」
「……は、い」
妖艶に微笑むルシアンを見てアマリリスは思った。
(やっぱり腹黒教育なんてもう必要ないわ——)
その後、テオドールはすぐに正式な手続きを取り、クレバリー侯爵家の当主となった。モンタス辺境伯はテオドールが正当な後継者だと認められたことを喜んでくれて、年に一度顔を出すことを条件に退団に応じてくれた。
すでに王城で働いている使用人たちには、屋敷に戻るか確認して希望に応じて職場を用意している。
アマリリスはクレバリー侯爵家が没落する前に取り戻せたことで、ケヴィンたちにも義理を果たせたと安堵した。
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