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52話 クレバリー侯爵家の惨状②
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怒声が執務室に響き渡り、ロベリアとダーレンはなじり合いをやめる。しんと静まり返った執務室にエイドリックが入り、机の上に乱雑に置かれた書類に目を通していった。
ダーレンの杜撰な管理で、たった一カ月の間に随分と予算が使われてしまったようだ。すでに春までの分を使い切っている。
「お、お父様、加減はよろしいのですか?」
「……なぜこんなに予算をオーバーしているのだ? 私の組んだ通りに采配するだけで、問題なく冬は越せたはずだが」
「クレバリー侯爵、あの予算で運営などできるはずがない。あれにはフランシル夫人の茶会や社交に関する費用が入ってなかった。侯爵家の面目を保つための準備金を渡したら、屋敷の管理費が足りなくなったのだ」
「……フランシルはどこにいる?」
「ええと、今はサンルームにいますわ」
エイドリックは無言でサンルームへ向かった。
(フランシルめ……私が療養している間はおとなしくしていろと言ったのに、好きにやりおって……!)
沸々と込み上げる怒りでエイドリックは険しい表情になっていく。
ガラス張りのサンルームはいろとりどりの花に囲まれ、上品な香りが鼻先を掠めた。いつもならこれで眉間の皺が取れるのだが、今日ばかりはそうはいかない。
「あら、体調はよくなったの?」
「フランシル……お前、私が言ったことを理解していなかったのか?」
「ええ? なによ、そんな怖い顔して」
「私が療養している間は屋敷でおとなしくしていろと言いつけたであろう!!」
「夜会には参加しないでおとなしくしていたでしょう!?」
「毎日のように茶会に出かけていたのに、どこがおとなしいというのだ!?」
エイドリックはヒステリックに泣き叫ぶフランシルを見て、切り捨てることに決めた。当主であるエイドリックの言いつけを守れない妻など、お荷物でしかない。
茶会に参加して金になる話を持ってくるならまだしも、ご婦人たちと実のない噂話や愚痴を語るだけなのだ。そのために新しいドレスや装飾品を購入するなど、無駄使い以外のなにものでもなかった。
「フランシル、お前とは離縁だ。今すぐ実家へ戻れ!!」
「ひどい……ひどすぎるわ……!!」
ケヴィンにフランシルを実家に帰すように伝え、エイドリックは執務室へ戻る。
これからクレバリー侯爵家の財政を立て直さなければならない。今後はフランシルの予算が浮くので、後は無能なダーレンを追い出すことにした。
「ダーレン様」
「なんだ、まだこの書類の処理が済んでいないのだ。後にしてくれ」
「ロベリアとの婚約を解消します」
「なっ……!」
「お父様、勝手に決めないでよ!」
エイドリックはクレバリー侯爵家を守らなければならないのだ。自分の代で潰すわけにはいかないので、構わず言葉を続けた。
「ダーレン様はすでにバックマン公爵家とのご縁も切れており、援助を期待できません。さらにこの一カ月で使った予算は三カ月分になります。今後、領地経営をお任せするにも不安が残る。それならば、ロベリアとの結婚を見送るのが筋というものでしょう」
「だが、それはフランシル夫人が……!」
「予算を見て、渡してはいけない金額だと理解できないようでは無理です。これから一週間後にはこの屋敷からも出ていってください」
あくまでも原因はダーレンにあると責め立て、期限を設けて出ていくようにエイドリックは宣告する。呆然としていたダーレンだが、やがてフラフラと執務室から出ていき、ロベリアだけが残された。
「お父様……ダーレン様と婚約を解消したら、わたしは誰と結婚するの?」
「お前は王城へ行くのだ」
「王城?」
「アマリリスが王太子と婚約できたのだ。ダーレンの時のように奪い取ってこい。アマリリスかロベリアか戻ってきた方は、どこか金のある貴族の後妻に嫁がせる」
クレバリー侯爵家の存続のみがエイドリックの目的となってしまった。浪費家の妻を追い出し、無能な娘婿を放り出して、実の娘までも駒のように扱い利益をむしり取る。
そうでもしないと維持できないクレバリー侯爵家は、いつ没落してもおかしくない状況だった。
ダーレンの杜撰な管理で、たった一カ月の間に随分と予算が使われてしまったようだ。すでに春までの分を使い切っている。
「お、お父様、加減はよろしいのですか?」
「……なぜこんなに予算をオーバーしているのだ? 私の組んだ通りに采配するだけで、問題なく冬は越せたはずだが」
「クレバリー侯爵、あの予算で運営などできるはずがない。あれにはフランシル夫人の茶会や社交に関する費用が入ってなかった。侯爵家の面目を保つための準備金を渡したら、屋敷の管理費が足りなくなったのだ」
「……フランシルはどこにいる?」
「ええと、今はサンルームにいますわ」
エイドリックは無言でサンルームへ向かった。
(フランシルめ……私が療養している間はおとなしくしていろと言ったのに、好きにやりおって……!)
沸々と込み上げる怒りでエイドリックは険しい表情になっていく。
ガラス張りのサンルームはいろとりどりの花に囲まれ、上品な香りが鼻先を掠めた。いつもならこれで眉間の皺が取れるのだが、今日ばかりはそうはいかない。
「あら、体調はよくなったの?」
「フランシル……お前、私が言ったことを理解していなかったのか?」
「ええ? なによ、そんな怖い顔して」
「私が療養している間は屋敷でおとなしくしていろと言いつけたであろう!!」
「夜会には参加しないでおとなしくしていたでしょう!?」
「毎日のように茶会に出かけていたのに、どこがおとなしいというのだ!?」
エイドリックはヒステリックに泣き叫ぶフランシルを見て、切り捨てることに決めた。当主であるエイドリックの言いつけを守れない妻など、お荷物でしかない。
茶会に参加して金になる話を持ってくるならまだしも、ご婦人たちと実のない噂話や愚痴を語るだけなのだ。そのために新しいドレスや装飾品を購入するなど、無駄使い以外のなにものでもなかった。
「フランシル、お前とは離縁だ。今すぐ実家へ戻れ!!」
「ひどい……ひどすぎるわ……!!」
ケヴィンにフランシルを実家に帰すように伝え、エイドリックは執務室へ戻る。
これからクレバリー侯爵家の財政を立て直さなければならない。今後はフランシルの予算が浮くので、後は無能なダーレンを追い出すことにした。
「ダーレン様」
「なんだ、まだこの書類の処理が済んでいないのだ。後にしてくれ」
「ロベリアとの婚約を解消します」
「なっ……!」
「お父様、勝手に決めないでよ!」
エイドリックはクレバリー侯爵家を守らなければならないのだ。自分の代で潰すわけにはいかないので、構わず言葉を続けた。
「ダーレン様はすでにバックマン公爵家とのご縁も切れており、援助を期待できません。さらにこの一カ月で使った予算は三カ月分になります。今後、領地経営をお任せするにも不安が残る。それならば、ロベリアとの結婚を見送るのが筋というものでしょう」
「だが、それはフランシル夫人が……!」
「予算を見て、渡してはいけない金額だと理解できないようでは無理です。これから一週間後にはこの屋敷からも出ていってください」
あくまでも原因はダーレンにあると責め立て、期限を設けて出ていくようにエイドリックは宣告する。呆然としていたダーレンだが、やがてフラフラと執務室から出ていき、ロベリアだけが残された。
「お父様……ダーレン様と婚約を解消したら、わたしは誰と結婚するの?」
「お前は王城へ行くのだ」
「王城?」
「アマリリスが王太子と婚約できたのだ。ダーレンの時のように奪い取ってこい。アマリリスかロベリアか戻ってきた方は、どこか金のある貴族の後妻に嫁がせる」
クレバリー侯爵家の存続のみがエイドリックの目的となってしまった。浪費家の妻を追い出し、無能な娘婿を放り出して、実の娘までも駒のように扱い利益をむしり取る。
そうでもしないと維持できないクレバリー侯爵家は、いつ没落してもおかしくない状況だった。
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