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51話 クレバリー侯爵家の惨状①
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エミリオがクレバリー侯爵家から追い出されて、今度は後継者としてロベリアとダーレンが領地経営を手伝うことになった。
そこでロベリアは父エイドリックにこう進言する。
「お父様、ダーレン様はすでにバックマン公爵家で領地経営をされていたそうなのです。お兄様のことでお疲れでしょうし、少しお休みになった方がいいわ」
「ううむ……だが、今はまだ休むわけには……」
「ですがひどい顔色ですし、無理をされては今後の運営に差し障ります。お母様は相変わらずお茶会やパーティーで家にいませんし、わたしがお父様のお力になりたいのです!」
「ロベリア……心配をかけてすまないな」
少しだけ表情を緩めて、エイドリックはロベリアたちに少しの間、領地経営を任せることにした。
だが、この決断がさらにクレバリー侯爵家を追い詰めることになった。
真冬の気候もあいまってエイドリックの体調がなかなか回復せず、一カ月ほどの休養が必要だと医師に診断された。エミリオの件といい、アマリリスが出ていってから心労が絶えなかったのも影響していたらしい。
その間も妻のフランシルはお茶会や貴婦人たちとの社交に忙しくしていて、いつも通りに過ごしていた。
冬本番を迎えたある日の朝のことだ。
エイドリックは経験したことのない寒さで目が覚めた。
「なんだ、この寒さは……? 暖炉の火が消えているではないか! おい、誰かおらんか!」
「旦那様、おはようございます。いかがなさいましたか?」
エイドリックの怒号で駆けつけたのは家令のケヴィンだ。何食わぬ顔でエイドリックに尋ねてくる。
「暖炉の火が消えているではないか! 寒くて起きれんのだ、今すぐ火をつけろ!」
「申し訳ございません。あいにく薪の在庫が足りないため、各部屋で就寝の間は消すことになったのです」
「なぜそんなことになっている!? 冬季の薪くらい用意できる予算はあっただろう!?」
「それは……詳しくはロベリア様とダーレン様へお尋ねくださいませ」
「ふたりはどこにいる!?」
「旦那様の執務室でございます」
ケヴィンの言葉にエイドリックはベッドから飛び起きて、手早く着替えを済ませてふたりがいる執務室へ向かった。
クレバリー侯爵家が冬の薪すら買えないなんて、恥晒しもいいところだ。エイドリックの計算では、冬季の薪はもちろん、春まで問題なく過ごせるくらいの見通しが立っていた。
(何人も使用人が辞めてうまいこと人件費も削れたから、問題ないはずなのになぜ薪すら買えなくなっている? ロベリアとダーレンはなにをやっているのだ!?)
体調不良も吹っ飛んだエイドリックは大股で歩き、勢いよく執務室の扉を開けた。すると耳に飛び込んできたのは、ロベリアとダーレンが罵倒し合う言葉だ。
「ダーレン様! あんなに領地経営ならできると言っていたのに、こんな寒い時期に薪も買えないなんてどういうことよ!?」
「うるさい! そもそも予算が少なすぎるんだ! 侯爵家だというのに、あれっぽっちの金額でどうしろというのだ!」
「はあ!? ご自分の手腕がないのをわたしたちのせいにしないでよ!」
「なにを言っている! 最初からあの予算でやれなんて、私を馬鹿にしているのか!?」
エイドリックは醜い言い争いに頭が痛くなる。
この様子では領地経営ができると豪語していたダーレンは、どうやら失敗したようだ。すでに弟夫婦が蓄えてきた資産も底が尽きそうな状態で、補填も難しい。
その苛立ちをぶつけるようにエイドリックは叫んだ。
「いい加減にしろっ!!」
そこでロベリアは父エイドリックにこう進言する。
「お父様、ダーレン様はすでにバックマン公爵家で領地経営をされていたそうなのです。お兄様のことでお疲れでしょうし、少しお休みになった方がいいわ」
「ううむ……だが、今はまだ休むわけには……」
「ですがひどい顔色ですし、無理をされては今後の運営に差し障ります。お母様は相変わらずお茶会やパーティーで家にいませんし、わたしがお父様のお力になりたいのです!」
「ロベリア……心配をかけてすまないな」
少しだけ表情を緩めて、エイドリックはロベリアたちに少しの間、領地経営を任せることにした。
だが、この決断がさらにクレバリー侯爵家を追い詰めることになった。
真冬の気候もあいまってエイドリックの体調がなかなか回復せず、一カ月ほどの休養が必要だと医師に診断された。エミリオの件といい、アマリリスが出ていってから心労が絶えなかったのも影響していたらしい。
その間も妻のフランシルはお茶会や貴婦人たちとの社交に忙しくしていて、いつも通りに過ごしていた。
冬本番を迎えたある日の朝のことだ。
エイドリックは経験したことのない寒さで目が覚めた。
「なんだ、この寒さは……? 暖炉の火が消えているではないか! おい、誰かおらんか!」
「旦那様、おはようございます。いかがなさいましたか?」
エイドリックの怒号で駆けつけたのは家令のケヴィンだ。何食わぬ顔でエイドリックに尋ねてくる。
「暖炉の火が消えているではないか! 寒くて起きれんのだ、今すぐ火をつけろ!」
「申し訳ございません。あいにく薪の在庫が足りないため、各部屋で就寝の間は消すことになったのです」
「なぜそんなことになっている!? 冬季の薪くらい用意できる予算はあっただろう!?」
「それは……詳しくはロベリア様とダーレン様へお尋ねくださいませ」
「ふたりはどこにいる!?」
「旦那様の執務室でございます」
ケヴィンの言葉にエイドリックはベッドから飛び起きて、手早く着替えを済ませてふたりがいる執務室へ向かった。
クレバリー侯爵家が冬の薪すら買えないなんて、恥晒しもいいところだ。エイドリックの計算では、冬季の薪はもちろん、春まで問題なく過ごせるくらいの見通しが立っていた。
(何人も使用人が辞めてうまいこと人件費も削れたから、問題ないはずなのになぜ薪すら買えなくなっている? ロベリアとダーレンはなにをやっているのだ!?)
体調不良も吹っ飛んだエイドリックは大股で歩き、勢いよく執務室の扉を開けた。すると耳に飛び込んできたのは、ロベリアとダーレンが罵倒し合う言葉だ。
「ダーレン様! あんなに領地経営ならできると言っていたのに、こんな寒い時期に薪も買えないなんてどういうことよ!?」
「うるさい! そもそも予算が少なすぎるんだ! 侯爵家だというのに、あれっぽっちの金額でどうしろというのだ!」
「はあ!? ご自分の手腕がないのをわたしたちのせいにしないでよ!」
「なにを言っている! 最初からあの予算でやれなんて、私を馬鹿にしているのか!?」
エイドリックは醜い言い争いに頭が痛くなる。
この様子では領地経営ができると豪語していたダーレンは、どうやら失敗したようだ。すでに弟夫婦が蓄えてきた資産も底が尽きそうな状態で、補填も難しい。
その苛立ちをぶつけるようにエイドリックは叫んだ。
「いい加減にしろっ!!」
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