上 下
48 / 60

48話 本領発揮③

しおりを挟む
(キーワードは部署異動と、どんなことを隠しているのかということだわ。ふふふ、絶対に暴いてやるわ……!)

 アマリリスは優雅にお茶を口に含んでから、エドガーの調書内容を思い出した。エドガーは先月、突然の辞令で財務部から王城管理部へ移動した。そこで夜会の担当者となり、すべてのことを取り仕切る責任者として腕を振るっている。

 その前に王太子の事務官を希望していたが、それすらも嘘にまみれていた。今回も人事異動が本人の希望とは考えにくいとアマリリスは考えた。

「ではお尋ねしますが、エドガー様は今回の部署異動は希望を出されたのですか?」
「いえ、上からの命令です」
「そうですか。具体的にはどなたからのご命令ですか?」
「それが、この事件となんの関係があるのですか?」

 エドガーは一瞬だけ眉間と鼻に皺を寄せ、口角を下げる。明らかに嫌悪のマイクロサインが見られ、アマリリスはここぞとばかりに追求を始めた。

「一国の王太子が毒を盛られたのです。人事から見直すのは当然のことでしょう? それで、どなたからのご命令ですか?」
「………ブリジット伯爵です」
「あら、あまり関わりがないとおっしゃっていましたが、人事にまで口を出されるほどブリジット伯爵と深い付き合いなのですね」
「たまたま、です」

 エドガーは組んでいた足を元に戻し、膝を包むように手を乗せる。わずかに貧乏ゆすりも始まり、焦りと恐怖でいっぱいのようだ。

(あらあら、なににそんなに怯えているのかしら?)

 笑みを深めたアマリリスは、さらに追い打ちをかける。

「エドガー様。ブリジット伯爵から給仕に関することで、なにか命令されましたか?」
「っ! な、なんのことだかわかりません」

 視線は左右に揺れて瞬きが増え、首元のクラバットを緩めた。その手は膝の上に戻され固く握りしめられている。

「たとえばブリジット伯爵から、ピンク色のシャンパンに毒を盛って、王太子の婚約者を殺せと命じられましたか?」
「——っ!!」

 エドガーは両目をカッと見開き、眉間に皺を寄せて口元を引き下げた。一瞬でその表情は消え、今度は真っ青な顔で俯き肩を震わせている。

(まあ、なんてわかりやすい驚きの表情かしら。これが事実だと確定したようなものね。後は物的証拠だけれど………)

 エドガーとは二度目の対峙なので、上から言われれば従う気の弱さと、嘘が下手なことからそこまでの狡猾さがないのだとアマリリスは理解していた。そこで更なるプレッシャーをかけた上で、逃げ道を用意する。

「エドガー様、なにも話さないなら徹底的に調査し、もし敵と繋がりがあったとわかれば、王太子暗殺未遂の犯人として極刑を希望します。ですが、ここで素直に話せば司法取引できるよう私が手配します」
「………かった。私は、断れなかったんだ! 頼む! なんでも話すから、取引させてくれ!!」

 アマリリスの勝利が確定した瞬間、カッシュはその鮮やかな手口に心の中で唸った。

(まさか、こんなにあっさり陥落するとは………)

 エドガーは騎士の調査には淡々と対応していたし、調書を読んでも矛盾点はなかった。それがアマリリスが問いかけただけで、動揺が大きくなりボロが出始めたのだ。

 カッシュはアマリリスが王妃となった国を見てみたいと思った。

「カッシュ様、司法取引の手配をお願いいたします。それと大切な証人ですからエドガー様の保護もお願いします。犯人はエドガー様だけではなく、その上にもいるでしょうから」
「ええ、お任せください」

 アマリリスはわずかな手がかりからトカゲの尻尾を掴んだ。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

処理中です...