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48話 本領発揮③
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(キーワードは部署異動と、どんなことを隠しているのかということだわ。ふふふ、絶対に暴いてやるわ……!)
アマリリスは優雅にお茶を口に含んでから、エドガーの調書内容を思い出した。エドガーは先月、突然の辞令で財務部から王城管理部へ移動した。そこで夜会の担当者となり、すべてのことを取り仕切る責任者として腕を振るっている。
その前に王太子の事務官を希望していたが、それすらも嘘にまみれていた。今回も人事異動が本人の希望とは考えにくいとアマリリスは考えた。
「ではお尋ねしますが、エドガー様は今回の部署異動は希望を出されたのですか?」
「いえ、上からの命令です」
「そうですか。具体的にはどなたからのご命令ですか?」
「それが、この事件となんの関係があるのですか?」
エドガーは一瞬だけ眉間と鼻に皺を寄せ、口角を下げる。明らかに嫌悪のマイクロサインが見られ、アマリリスはここぞとばかりに追求を始めた。
「一国の王太子が毒を盛られたのです。人事から見直すのは当然のことでしょう? それで、どなたからのご命令ですか?」
「………ブリジット伯爵です」
「あら、あまり関わりがないとおっしゃっていましたが、人事にまで口を出されるほどブリジット伯爵と深い付き合いなのですね」
「たまたま、です」
エドガーは組んでいた足を元に戻し、膝を包むように手を乗せる。わずかに貧乏ゆすりも始まり、焦りと恐怖でいっぱいのようだ。
(あらあら、なににそんなに怯えているのかしら?)
笑みを深めたアマリリスは、さらに追い打ちをかける。
「エドガー様。ブリジット伯爵から給仕に関することで、なにか命令されましたか?」
「っ! な、なんのことだかわかりません」
視線は左右に揺れて瞬きが増え、首元のクラバットを緩めた。その手は膝の上に戻され固く握りしめられている。
「たとえばブリジット伯爵から、ピンク色のシャンパンに毒を盛って、王太子の婚約者を殺せと命じられましたか?」
「——っ!!」
エドガーは両目をカッと見開き、眉間に皺を寄せて口元を引き下げた。一瞬でその表情は消え、今度は真っ青な顔で俯き肩を震わせている。
(まあ、なんてわかりやすい驚きの表情かしら。これが事実だと確定したようなものね。後は物的証拠だけれど………)
エドガーとは二度目の対峙なので、上から言われれば従う気の弱さと、嘘が下手なことからそこまでの狡猾さがないのだとアマリリスは理解していた。そこで更なるプレッシャーをかけた上で、逃げ道を用意する。
「エドガー様、なにも話さないなら徹底的に調査し、もし敵と繋がりがあったとわかれば、王太子暗殺未遂の犯人として極刑を希望します。ですが、ここで素直に話せば司法取引できるよう私が手配します」
「………かった。私は、断れなかったんだ! 頼む! なんでも話すから、取引させてくれ!!」
アマリリスの勝利が確定した瞬間、カッシュはその鮮やかな手口に心の中で唸った。
(まさか、こんなにあっさり陥落するとは………)
エドガーは騎士の調査には淡々と対応していたし、調書を読んでも矛盾点はなかった。それがアマリリスが問いかけただけで、動揺が大きくなりボロが出始めたのだ。
カッシュはアマリリスが王妃となった国を見てみたいと思った。
「カッシュ様、司法取引の手配をお願いいたします。それと大切な証人ですからエドガー様の保護もお願いします。犯人はエドガー様だけではなく、その上にもいるでしょうから」
「ええ、お任せください」
アマリリスはわずかな手がかりからトカゲの尻尾を掴んだ。
アマリリスは優雅にお茶を口に含んでから、エドガーの調書内容を思い出した。エドガーは先月、突然の辞令で財務部から王城管理部へ移動した。そこで夜会の担当者となり、すべてのことを取り仕切る責任者として腕を振るっている。
その前に王太子の事務官を希望していたが、それすらも嘘にまみれていた。今回も人事異動が本人の希望とは考えにくいとアマリリスは考えた。
「ではお尋ねしますが、エドガー様は今回の部署異動は希望を出されたのですか?」
「いえ、上からの命令です」
「そうですか。具体的にはどなたからのご命令ですか?」
「それが、この事件となんの関係があるのですか?」
エドガーは一瞬だけ眉間と鼻に皺を寄せ、口角を下げる。明らかに嫌悪のマイクロサインが見られ、アマリリスはここぞとばかりに追求を始めた。
「一国の王太子が毒を盛られたのです。人事から見直すのは当然のことでしょう? それで、どなたからのご命令ですか?」
「………ブリジット伯爵です」
「あら、あまり関わりがないとおっしゃっていましたが、人事にまで口を出されるほどブリジット伯爵と深い付き合いなのですね」
「たまたま、です」
エドガーは組んでいた足を元に戻し、膝を包むように手を乗せる。わずかに貧乏ゆすりも始まり、焦りと恐怖でいっぱいのようだ。
(あらあら、なににそんなに怯えているのかしら?)
笑みを深めたアマリリスは、さらに追い打ちをかける。
「エドガー様。ブリジット伯爵から給仕に関することで、なにか命令されましたか?」
「っ! な、なんのことだかわかりません」
視線は左右に揺れて瞬きが増え、首元のクラバットを緩めた。その手は膝の上に戻され固く握りしめられている。
「たとえばブリジット伯爵から、ピンク色のシャンパンに毒を盛って、王太子の婚約者を殺せと命じられましたか?」
「——っ!!」
エドガーは両目をカッと見開き、眉間に皺を寄せて口元を引き下げた。一瞬でその表情は消え、今度は真っ青な顔で俯き肩を震わせている。
(まあ、なんてわかりやすい驚きの表情かしら。これが事実だと確定したようなものね。後は物的証拠だけれど………)
エドガーとは二度目の対峙なので、上から言われれば従う気の弱さと、嘘が下手なことからそこまでの狡猾さがないのだとアマリリスは理解していた。そこで更なるプレッシャーをかけた上で、逃げ道を用意する。
「エドガー様、なにも話さないなら徹底的に調査し、もし敵と繋がりがあったとわかれば、王太子暗殺未遂の犯人として極刑を希望します。ですが、ここで素直に話せば司法取引できるよう私が手配します」
「………かった。私は、断れなかったんだ! 頼む! なんでも話すから、取引させてくれ!!」
アマリリスの勝利が確定した瞬間、カッシュはその鮮やかな手口に心の中で唸った。
(まさか、こんなにあっさり陥落するとは………)
エドガーは騎士の調査には淡々と対応していたし、調書を読んでも矛盾点はなかった。それがアマリリスが問いかけただけで、動揺が大きくなりボロが出始めたのだ。
カッシュはアマリリスが王妃となった国を見てみたいと思った。
「カッシュ様、司法取引の手配をお願いいたします。それと大切な証人ですからエドガー様の保護もお願いします。犯人はエドガー様だけではなく、その上にもいるでしょうから」
「ええ、お任せください」
アマリリスはわずかな手がかりからトカゲの尻尾を掴んだ。
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