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47話 本領発揮②
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国王の命が下ったことで、アマリリスは関係者たちに尋問することが許された。ルシアンの右腕として辣腕を振るうカッシュに補佐をしてもらうことになった。
「アマリリス嬢。このような形でお会いするのは遺憾ではありますが、よろしくお願いします」
「いえ、私だけでは力不足のため、カッシュ様のお力をお借りいたします。よろしくお願いいたします」
挨拶を済ませたふたりは調査用の部屋を用意してもらい、早速、当日の関係者に聞き取りを始める。
ひとり目はロゼシャパンをアマリリスに渡した給仕だ。席に着くなり憔悴しきった様子で、アマリリスに訴えてきた。
「ボ、ボクはなにもしてません! 信じてください! ただあの日も指示された通り、会場でシャンパンを配っていただけなんです!」
アマリリスの琥珀色の瞳が、冷静に給仕を見つめる。
眉尻が下がって視線は揺れ口元は引き下がり、膝の上に肘をつき両手をギュッと握りわずかに震えていた。
(極度の不安と焦り、それからこの状況に対する恐怖を感じているわね。そう感じる原因が隠し事をしているからなのか、罪を着せられることに対してなのか、見極めないと………)
カッシュはアマリリスの采配に任せているので、なにも口出しをしてこない。ふたりは事前に騎士たちが作成した調書を読んでいるので、それぞれの証言は把握している。
改めて矛盾がないか、またはマイクロサインが出ないか確かめるため、アマリリスは給仕に問いかけていった。
「では貴方に尋ねます。あの日は何時から会場に来て、誰の指示を受けてロゼシャンパンを配りましたか?」
「はい………ボクは夜会の担当でしたので、15時から会場に入り準備を手伝いました。あの日、会場の担当の割り振りは給仕長がされていて、ボクはシャンパンの係になりました」
ここまで、給仕の視線は左上を向いたままだ。話を聞いてくれると思って落ち着いたのか、不安な様子はなくなりスムーズに言葉を紡いでいる。
「私にシャンパンを渡したのは覚えていますか?」
「はい。その真紅の髪が印象的でしたので、覚えていました」
真っ直ぐに見つめてきた給仕と視線が絡むが、頬を染めてパッと逸らされた。
(視線の絡み方を見ても、嘘をついている様子はないわね)
「カッシュ様、この方は大丈夫です。次は給仕長をお願いします」
「かしこまりました」
こうしてアマリリスは次々と関係者から話を聞き出し、嘘をついている者はいないか調べた。
それから五人目の会場責任者エドガー・フロストの聞き取りをしていた時だ。
「私はただ王城で開催される夜会の責任者をしていただけです」
「貴方は以前、財務部で勤務していましたね?」
「それがどうしたのですか。部署異動しただけだし、そういうことは珍しくもなんともないでしょう」
「そうですわね」
アマリリスはエドガーのわずかな挙動を見逃さなかった。
この時点でもエドガーは『部署異動』というところで瞬きが増え、組んだ足をアマリリスの方へと向けてきた。
(でも、貴方の仕草がなにか隠し事をしていると訴えているのよ。さて、どうやって追い詰めようかしら)
ギラリと光る琥珀色の瞳は、獲物を狙う肉食動物のようだった。アマリリスは稀代の悪女の名にふさわしい、黒い笑みを浮かべる。
そんなアマリリスを見て、カッシュはさすがルシアンの婚約者だと感嘆していた。だが、この後、さらに驚くことになる。
「アマリリス嬢。このような形でお会いするのは遺憾ではありますが、よろしくお願いします」
「いえ、私だけでは力不足のため、カッシュ様のお力をお借りいたします。よろしくお願いいたします」
挨拶を済ませたふたりは調査用の部屋を用意してもらい、早速、当日の関係者に聞き取りを始める。
ひとり目はロゼシャパンをアマリリスに渡した給仕だ。席に着くなり憔悴しきった様子で、アマリリスに訴えてきた。
「ボ、ボクはなにもしてません! 信じてください! ただあの日も指示された通り、会場でシャンパンを配っていただけなんです!」
アマリリスの琥珀色の瞳が、冷静に給仕を見つめる。
眉尻が下がって視線は揺れ口元は引き下がり、膝の上に肘をつき両手をギュッと握りわずかに震えていた。
(極度の不安と焦り、それからこの状況に対する恐怖を感じているわね。そう感じる原因が隠し事をしているからなのか、罪を着せられることに対してなのか、見極めないと………)
カッシュはアマリリスの采配に任せているので、なにも口出しをしてこない。ふたりは事前に騎士たちが作成した調書を読んでいるので、それぞれの証言は把握している。
改めて矛盾がないか、またはマイクロサインが出ないか確かめるため、アマリリスは給仕に問いかけていった。
「では貴方に尋ねます。あの日は何時から会場に来て、誰の指示を受けてロゼシャンパンを配りましたか?」
「はい………ボクは夜会の担当でしたので、15時から会場に入り準備を手伝いました。あの日、会場の担当の割り振りは給仕長がされていて、ボクはシャンパンの係になりました」
ここまで、給仕の視線は左上を向いたままだ。話を聞いてくれると思って落ち着いたのか、不安な様子はなくなりスムーズに言葉を紡いでいる。
「私にシャンパンを渡したのは覚えていますか?」
「はい。その真紅の髪が印象的でしたので、覚えていました」
真っ直ぐに見つめてきた給仕と視線が絡むが、頬を染めてパッと逸らされた。
(視線の絡み方を見ても、嘘をついている様子はないわね)
「カッシュ様、この方は大丈夫です。次は給仕長をお願いします」
「かしこまりました」
こうしてアマリリスは次々と関係者から話を聞き出し、嘘をついている者はいないか調べた。
それから五人目の会場責任者エドガー・フロストの聞き取りをしていた時だ。
「私はただ王城で開催される夜会の責任者をしていただけです」
「貴方は以前、財務部で勤務していましたね?」
「それがどうしたのですか。部署異動しただけだし、そういうことは珍しくもなんともないでしょう」
「そうですわね」
アマリリスはエドガーのわずかな挙動を見逃さなかった。
この時点でもエドガーは『部署異動』というところで瞬きが増え、組んだ足をアマリリスの方へと向けてきた。
(でも、貴方の仕草がなにか隠し事をしていると訴えているのよ。さて、どうやって追い詰めようかしら)
ギラリと光る琥珀色の瞳は、獲物を狙う肉食動物のようだった。アマリリスは稀代の悪女の名にふさわしい、黒い笑みを浮かべる。
そんなアマリリスを見て、カッシュはさすがルシアンの婚約者だと感嘆していた。だが、この後、さらに驚くことになる。
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