上 下
47 / 60

47話 本領発揮②

しおりを挟む
 国王の命が下ったことで、アマリリスは関係者たちに尋問することが許された。ルシアンの右腕として辣腕を振るうカッシュに補佐をしてもらうことになった。

「アマリリス嬢。このような形でお会いするのは遺憾ではありますが、よろしくお願いします」
「いえ、私だけでは力不足のため、カッシュ様のお力をお借りいたします。よろしくお願いいたします」

 挨拶を済ませたふたりは調査用の部屋を用意してもらい、早速、当日の関係者に聞き取りを始める。

 ひとり目はロゼシャパンをアマリリスに渡した給仕だ。席に着くなり憔悴しきった様子で、アマリリスに訴えてきた。

「ボ、ボクはなにもしてません! 信じてください! ただあの日も指示された通り、会場でシャンパンを配っていただけなんです!」

 アマリリスの琥珀色の瞳が、冷静に給仕を見つめる。
 眉尻が下がって視線は揺れ口元は引き下がり、膝の上に肘をつき両手をギュッと握りわずかに震えていた。

(極度の不安と焦り、それからこの状況に対する恐怖を感じているわね。そう感じる原因が隠し事をしているからなのか、罪を着せられることに対してなのか、見極めないと………)

 カッシュはアマリリスの采配に任せているので、なにも口出しをしてこない。ふたりは事前に騎士たちが作成した調書を読んでいるので、それぞれの証言は把握している。

 改めて矛盾がないか、またはマイクロサインが出ないか確かめるため、アマリリスは給仕に問いかけていった。

「では貴方に尋ねます。あの日は何時から会場に来て、誰の指示を受けてロゼシャンパンを配りましたか?」
「はい………ボクは夜会の担当でしたので、15時から会場に入り準備を手伝いました。あの日、会場の担当の割り振りは給仕長がされていて、ボクはシャンパンの係になりました」

 ここまで、給仕の視線は左上を向いたままだ。話を聞いてくれると思って落ち着いたのか、不安な様子はなくなりスムーズに言葉を紡いでいる。

「私にシャンパンを渡したのは覚えていますか?」
「はい。その真紅の髪が印象的でしたので、覚えていました」

 真っ直ぐに見つめてきた給仕と視線が絡むが、頬を染めてパッと逸らされた。

(視線の絡み方を見ても、嘘をついている様子はないわね)

「カッシュ様、この方は大丈夫です。次は給仕長をお願いします」
「かしこまりました」

 こうしてアマリリスは次々と関係者から話を聞き出し、嘘をついている者はいないか調べた。
 それから五人目の会場責任者エドガー・フロストの聞き取りをしていた時だ。

「私はただ王城で開催される夜会の責任者をしていただけです」
「貴方は以前、財務部で勤務していましたね?」
「それがどうしたのですか。部署異動しただけだし、そういうことは珍しくもなんともないでしょう」
「そうですわね」

 アマリリスはエドガーのわずかな挙動を見逃さなかった。
 この時点でもエドガーは『部署異動』というところで瞬きが増え、組んだ足をアマリリスの方へと向けてきた。

(でも、貴方の仕草がなにか隠し事をしていると訴えているのよ。さて、どうやって追い詰めようかしら)

 ギラリと光る琥珀色の瞳は、獲物を狙う肉食動物のようだった。アマリリスは稀代の悪女の名にふさわしい、黒い笑みを浮かべる。

 そんなアマリリスを見て、カッシュはさすがルシアンの婚約者だと感嘆していた。だが、この後、さらに驚くことになる。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

処理中です...