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43話 どんなに足掻いても③
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あれだけ厳しいバックマン公爵夫人の姪に手を出したのだから、エミリオがタダでは済まないのはロベリアでもわかる。それにクレバリー侯爵はバックマン公爵家の名前を出されたら、すべてを飲み込むしかないことも理解していた。
(バックマン公爵夫人を敵にしたら本当に恐ろしいのよ。お兄様を密告したことでダーレン様も許されるはずだし、そうなったらクレバリー侯爵を継ぐのはわたしでも問題ないわ)
ロベリアの読み通り、クレバリー侯爵は深くため息をついてブロイル伯爵の要望をすべて聞き入れた。
『………わかりました。それでは、この場で嫡男エミリオを廃嫡し、クレバリー侯爵家から追放いたします。慰謝料の金額は提示された金額で支払いましょう。それでどうにか怒りを鎮めていただきたい』
『では、文書として残していただきたい。その通りに対応されなければ、すべてを詳らかにしてクレバリー侯爵にも罪を問います』
『承知した』
クレバリー侯爵は家令のケヴィンを呼び出し、書類を作成していく。その様子を見ていたエミリオは、己の身を案じて父に縋りついた。
『そんな………父上、お願いです、助けてください……! 酒の勢いでやっただけなんです! 屋敷から出てどうやって生きていけばいいのですか!?』
『黙れっ! この私の顔に泥を塗りおって!! そんな出来損ないの息子などいらんわ!!』
エミリオはクレバリー侯爵の叱責に情けなく泣き出し、ブロイル伯爵夫妻は氷のような視線をふたりに向けていた。
「うふふ、あはははは! 思った通りの展開だったわ!」
「まったくだな。明日にはクレバリー侯爵から話があるだろうか」
「そうね。きっと朝一番で呼び出されて、わたしが後継者になるはずよ。ダーレン様も今回のことでバックマン公爵夫人に許しを乞えば、これからは援助だってしてくださるわ」
「うむ、そうだな。やはりアマリリスからロベリアに乗り換えて正解だった」
祝杯をあげたロベリアとダーレンは気分良く眠りについた。
翌朝、朝食の席にエミリオは姿を見せなかった。
代わりにクレバリー侯爵から食後に執務室へ来るように言われ、ロベリアは笑みを浮かべて頷いた。
「クレバリー侯爵家の後継者は本日よりロベリアとなった。これからはそのための勉強もしてもらうから、そのつもりでいろ」
「はい、お父様。精一杯頑張りますわ!」
「それと、アマリリスが正式にルシアン殿下の婚約者になったと王家から通達があった。今後はそちらとの付き合いも始まるから、礼儀作法もしっかりと身につけるように」
「——え?」
喜びの絶頂から一転、突如冷水を浴びせられたように心が凍りつく。
確かに以前夜会でエスコートされていたが、せいぜい愛妾になるのだと思っていた。
「どういう、ことですか? アマリリスが、ルシアン殿下の婚約者って……」
「どうもこうも、ルシアン殿下に見初められて婚約者に決まったのだ。国王陛下の許可も得ているそうだ」
それはつまり、アマリリスがロベリアよりも高貴な女性になるということで、今まで下に見てきた女に頭を下げなければならなくなるということだ。
それは、山より高いプライドを持つロベリアには耐えられない屈辱である。
(どうして! どうして、わたしよりあの女の方が立場が上なのよ!? あんな女にそこまで価値なんてないでしょう!?)
ロベリアは自分より聡明で美しく成長したアマリリスが、妬ましくてたまらなかった。そんな憎い女に跪くのが嫌でクレバリー侯爵の指示通り、アマリリスの婚約者を奪ったのだ。
それなのにアマリリスが王太子の婚約者だというなら、このままでは逆立ちしても敵わない。
悔しくて、腹立たしくて、ロベリアは醜く顔を歪めて怒りに震えていた。
(バックマン公爵夫人を敵にしたら本当に恐ろしいのよ。お兄様を密告したことでダーレン様も許されるはずだし、そうなったらクレバリー侯爵を継ぐのはわたしでも問題ないわ)
ロベリアの読み通り、クレバリー侯爵は深くため息をついてブロイル伯爵の要望をすべて聞き入れた。
『………わかりました。それでは、この場で嫡男エミリオを廃嫡し、クレバリー侯爵家から追放いたします。慰謝料の金額は提示された金額で支払いましょう。それでどうにか怒りを鎮めていただきたい』
『では、文書として残していただきたい。その通りに対応されなければ、すべてを詳らかにしてクレバリー侯爵にも罪を問います』
『承知した』
クレバリー侯爵は家令のケヴィンを呼び出し、書類を作成していく。その様子を見ていたエミリオは、己の身を案じて父に縋りついた。
『そんな………父上、お願いです、助けてください……! 酒の勢いでやっただけなんです! 屋敷から出てどうやって生きていけばいいのですか!?』
『黙れっ! この私の顔に泥を塗りおって!! そんな出来損ないの息子などいらんわ!!』
エミリオはクレバリー侯爵の叱責に情けなく泣き出し、ブロイル伯爵夫妻は氷のような視線をふたりに向けていた。
「うふふ、あはははは! 思った通りの展開だったわ!」
「まったくだな。明日にはクレバリー侯爵から話があるだろうか」
「そうね。きっと朝一番で呼び出されて、わたしが後継者になるはずよ。ダーレン様も今回のことでバックマン公爵夫人に許しを乞えば、これからは援助だってしてくださるわ」
「うむ、そうだな。やはりアマリリスからロベリアに乗り換えて正解だった」
祝杯をあげたロベリアとダーレンは気分良く眠りについた。
翌朝、朝食の席にエミリオは姿を見せなかった。
代わりにクレバリー侯爵から食後に執務室へ来るように言われ、ロベリアは笑みを浮かべて頷いた。
「クレバリー侯爵家の後継者は本日よりロベリアとなった。これからはそのための勉強もしてもらうから、そのつもりでいろ」
「はい、お父様。精一杯頑張りますわ!」
「それと、アマリリスが正式にルシアン殿下の婚約者になったと王家から通達があった。今後はそちらとの付き合いも始まるから、礼儀作法もしっかりと身につけるように」
「——え?」
喜びの絶頂から一転、突如冷水を浴びせられたように心が凍りつく。
確かに以前夜会でエスコートされていたが、せいぜい愛妾になるのだと思っていた。
「どういう、ことですか? アマリリスが、ルシアン殿下の婚約者って……」
「どうもこうも、ルシアン殿下に見初められて婚約者に決まったのだ。国王陛下の許可も得ているそうだ」
それはつまり、アマリリスがロベリアよりも高貴な女性になるということで、今まで下に見てきた女に頭を下げなければならなくなるということだ。
それは、山より高いプライドを持つロベリアには耐えられない屈辱である。
(どうして! どうして、わたしよりあの女の方が立場が上なのよ!? あんな女にそこまで価値なんてないでしょう!?)
ロベリアは自分より聡明で美しく成長したアマリリスが、妬ましくてたまらなかった。そんな憎い女に跪くのが嫌でクレバリー侯爵の指示通り、アマリリスの婚約者を奪ったのだ。
それなのにアマリリスが王太子の婚約者だというなら、このままでは逆立ちしても敵わない。
悔しくて、腹立たしくて、ロベリアは醜く顔を歪めて怒りに震えていた。
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