上 下
40 / 60

40話 翻弄される悪女③

しおりを挟む
「あの、ルシアン様? どうされたのですか?」

 城へ帰る馬車の中で、ルシアンはアマリリスの太ももを枕がわりにして座席に横になっている。執務室でもこんなことはしていなかったので、アマリリスはなにかあったのかと尋ねた。

「別に、なんでもない」
「なんでもなくはないようですが……」
「本当になんでもない」

 ルシアンは話す気がないようなので、アマリリスはこっそりと感情を読み取ってみる。

(急に口数が少なくなってそっけない態度になったくせに、膝枕を求めてくる。視線も合わないわね……この態度に心当たりはあるけれど)

 口に出して違っていたらとても恥ずかしいが、ルシアンのわかりやすい態度でほぼ確信に近い答えが出ていた。
 しかし、にわかには信じ難い。

「……まさかとは思いますが、焼きもちですか?」
「はー、本当にリリスには隠せないね」

 美貌の眉を歪めてルシアンはむくりと起き上がる。適度な重みと熱がなくなり、アマリリスは残念な気持ちを抱いた。そんな気持ちを打ち消すように、冷静な自分が顔を出す。

「いったいなにに嫉妬されたのか、わかりません」
「リリスがテオドールばっかり見てるから」
「……それは、八年ぶりの再会でしたので、そうなるのは当然かと思いますが」
「わかってるよ。実際リリスが喜ぶと思ってセッティングしたのも僕だし、それは成功したと思っている。でもさ、一ミリも僕のことを見ないし、話すのはテオドールとばかりだし……あー、もうこんな感情初めてだ」

 珍しく感情的なルシアンを目にして、アマリリスは驚いていた。
 ルシアンはガリガリを頭を掻いて、むくれている。でもアマリリスは嬉しくなってしまった。

 いつも本心を覆い隠して心の底が読めないルシアンだったが、アマリリスはやっとその心に触れた気がしたのだ。ルシアンとテオドールのおかげでほぐれた心が、アマリリスの表情にも変化をもたらす。

「ふふふ、私にとっても初めてのルシアン様ですわ」
「っ! リリスはどこまで僕をかき乱すんだろうね?」

 アマリリスの花が咲くような微笑みが心に突き刺さり、一方的に振り回されることにルシアンは苛立ちさえ感じている。紫水晶の瞳が捕食者のようにギラついていることに気が付ついたのは、ルシアンが手のひらがアマリリスの頬に触れたからだ。

「え、ルシアン……様?」
「たまには僕もリリスをかき乱していい?」
「それは、どう——」

 アマリリスの疑問などあっさり無視して、ルシアンは強引に口付けをした。

 柔らかな感触、身体が火照るほどの熱、もっと自分だけを見てほしいと願う想い。
 それがルシアンから伝わってきて、アマリリスの思考が停止する。

 どれほど触れ合っていたのか、とても長いような一瞬のような甘い時は終わりを迎えた。ゆっくりとルシアンが離れ、満足げに妖艶な笑みを浮かべる。

「真っ赤になって、かわいい」
「~~~~!!」

 耳元で囁くルシアンの唇が触れて、アマリリスの身体が震えた。
 問答無用の口付けだったが、アマリリスはそれに対して嫌悪感はない。心の準備ができておらず羞恥心でいっぱいなだけだ。

「あ、着いたみたいだね。せっかくだし、お姫様抱っこしようか?」
「結構です!!」
「ははは、怒ったリリスもいいね。もっと僕のことで心乱れてよ」
「…………」

 ここで反応するのも悔しくて、アマリリスはしばらく無言を貫いた。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

王太子殿下にお譲りします

蒼あかり
恋愛
『王太子だって恋がしたい』~アルバート編~ 連載開始いたします。 王太子の側近であるマルクスは、自分の婚約者に想いを寄せている彼に婚約者を譲ると申し出る。 それで良いと思っていたはずなのに、自分の気持ちに気が付かない無自覚男が初めて恋心を知り悩むお話し。 ざまぁも婚約破棄もありません。割合、淡々とした話だと思います。 ※他サイトにも掲載しております。

婚約破棄されて無職、家無しになったので、錬金術師になって研究ライフを送ります

かざはなよぞら
恋愛
 ソフィー・ド・セイリグ。  彼女はジュリアン王子との婚約発表のパーティー会場にて、婚約破棄を言い渡されてしまう。  理由は錬金術で同じ学園に通うマリオンに対し、危険な嫌がらせ行為を行っていたから。  身に覚えのない理由で、婚約破棄を言い渡され、しかも父親から家から追放されることとなってしまう。  王子との婚約から一転、ソフィーは帰る家もないお金もない、知り合いにも頼れない、生きていくことも難しいほど追い詰められてしまう。  しかし、紆余曲折の末、ソフィーは趣味であった錬金術でお金を稼ぐこととなり、自分の工房を持つことが出来た。  そこからソフィーの錬金術師としての人生が始まっていくのだ――

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...