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40話 翻弄される悪女③
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「あの、ルシアン様? どうされたのですか?」
城へ帰る馬車の中で、ルシアンはアマリリスの太ももを枕がわりにして座席に横になっている。執務室でもこんなことはしていなかったので、アマリリスはなにかあったのかと尋ねた。
「別に、なんでもない」
「なんでもなくはないようですが……」
「本当になんでもない」
ルシアンは話す気がないようなので、アマリリスはこっそりと感情を読み取ってみる。
(急に口数が少なくなってそっけない態度になったくせに、膝枕を求めてくる。視線も合わないわね……この態度に心当たりはあるけれど)
口に出して違っていたらとても恥ずかしいが、ルシアンのわかりやすい態度でほぼ確信に近い答えが出ていた。
しかし、にわかには信じ難い。
「……まさかとは思いますが、焼きもちですか?」
「はー、本当にリリスには隠せないね」
美貌の眉を歪めてルシアンはむくりと起き上がる。適度な重みと熱がなくなり、アマリリスは残念な気持ちを抱いた。そんな気持ちを打ち消すように、冷静な自分が顔を出す。
「いったいなにに嫉妬されたのか、わかりません」
「リリスがテオドールばっかり見てるから」
「……それは、八年ぶりの再会でしたので、そうなるのは当然かと思いますが」
「わかってるよ。実際リリスが喜ぶと思ってセッティングしたのも僕だし、それは成功したと思っている。でもさ、一ミリも僕のことを見ないし、話すのはテオドールとばかりだし……あー、もうこんな感情初めてだ」
珍しく感情的なルシアンを目にして、アマリリスは驚いていた。
ルシアンはガリガリを頭を掻いて、むくれている。でもアマリリスは嬉しくなってしまった。
いつも本心を覆い隠して心の底が読めないルシアンだったが、アマリリスはやっとその心に触れた気がしたのだ。ルシアンとテオドールのおかげでほぐれた心が、アマリリスの表情にも変化をもたらす。
「ふふふ、私にとっても初めてのルシアン様ですわ」
「っ! リリスはどこまで僕をかき乱すんだろうね?」
アマリリスの花が咲くような微笑みが心に突き刺さり、一方的に振り回されることにルシアンは苛立ちさえ感じている。紫水晶の瞳が捕食者のようにギラついていることに気が付ついたのは、ルシアンが手のひらがアマリリスの頬に触れたからだ。
「え、ルシアン……様?」
「たまには僕もリリスをかき乱していい?」
「それは、どう——」
アマリリスの疑問などあっさり無視して、ルシアンは強引に口付けをした。
柔らかな感触、身体が火照るほどの熱、もっと自分だけを見てほしいと願う想い。
それがルシアンから伝わってきて、アマリリスの思考が停止する。
どれほど触れ合っていたのか、とても長いような一瞬のような甘い時は終わりを迎えた。ゆっくりとルシアンが離れ、満足げに妖艶な笑みを浮かべる。
「真っ赤になって、かわいい」
「~~~~!!」
耳元で囁くルシアンの唇が触れて、アマリリスの身体が震えた。
問答無用の口付けだったが、アマリリスはそれに対して嫌悪感はない。心の準備ができておらず羞恥心でいっぱいなだけだ。
「あ、着いたみたいだね。せっかくだし、お姫様抱っこしようか?」
「結構です!!」
「ははは、怒ったリリスもいいね。もっと僕のことで心乱れてよ」
「…………」
ここで反応するのも悔しくて、アマリリスはしばらく無言を貫いた。
城へ帰る馬車の中で、ルシアンはアマリリスの太ももを枕がわりにして座席に横になっている。執務室でもこんなことはしていなかったので、アマリリスはなにかあったのかと尋ねた。
「別に、なんでもない」
「なんでもなくはないようですが……」
「本当になんでもない」
ルシアンは話す気がないようなので、アマリリスはこっそりと感情を読み取ってみる。
(急に口数が少なくなってそっけない態度になったくせに、膝枕を求めてくる。視線も合わないわね……この態度に心当たりはあるけれど)
口に出して違っていたらとても恥ずかしいが、ルシアンのわかりやすい態度でほぼ確信に近い答えが出ていた。
しかし、にわかには信じ難い。
「……まさかとは思いますが、焼きもちですか?」
「はー、本当にリリスには隠せないね」
美貌の眉を歪めてルシアンはむくりと起き上がる。適度な重みと熱がなくなり、アマリリスは残念な気持ちを抱いた。そんな気持ちを打ち消すように、冷静な自分が顔を出す。
「いったいなにに嫉妬されたのか、わかりません」
「リリスがテオドールばっかり見てるから」
「……それは、八年ぶりの再会でしたので、そうなるのは当然かと思いますが」
「わかってるよ。実際リリスが喜ぶと思ってセッティングしたのも僕だし、それは成功したと思っている。でもさ、一ミリも僕のことを見ないし、話すのはテオドールとばかりだし……あー、もうこんな感情初めてだ」
珍しく感情的なルシアンを目にして、アマリリスは驚いていた。
ルシアンはガリガリを頭を掻いて、むくれている。でもアマリリスは嬉しくなってしまった。
いつも本心を覆い隠して心の底が読めないルシアンだったが、アマリリスはやっとその心に触れた気がしたのだ。ルシアンとテオドールのおかげでほぐれた心が、アマリリスの表情にも変化をもたらす。
「ふふふ、私にとっても初めてのルシアン様ですわ」
「っ! リリスはどこまで僕をかき乱すんだろうね?」
アマリリスの花が咲くような微笑みが心に突き刺さり、一方的に振り回されることにルシアンは苛立ちさえ感じている。紫水晶の瞳が捕食者のようにギラついていることに気が付ついたのは、ルシアンが手のひらがアマリリスの頬に触れたからだ。
「え、ルシアン……様?」
「たまには僕もリリスをかき乱していい?」
「それは、どう——」
アマリリスの疑問などあっさり無視して、ルシアンは強引に口付けをした。
柔らかな感触、身体が火照るほどの熱、もっと自分だけを見てほしいと願う想い。
それがルシアンから伝わってきて、アマリリスの思考が停止する。
どれほど触れ合っていたのか、とても長いような一瞬のような甘い時は終わりを迎えた。ゆっくりとルシアンが離れ、満足げに妖艶な笑みを浮かべる。
「真っ赤になって、かわいい」
「~~~~!!」
耳元で囁くルシアンの唇が触れて、アマリリスの身体が震えた。
問答無用の口付けだったが、アマリリスはそれに対して嫌悪感はない。心の準備ができておらず羞恥心でいっぱいなだけだ。
「あ、着いたみたいだね。せっかくだし、お姫様抱っこしようか?」
「結構です!!」
「ははは、怒ったリリスもいいね。もっと僕のことで心乱れてよ」
「…………」
ここで反応するのも悔しくて、アマリリスはしばらく無言を貫いた。
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