【完結】天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜

里海慧

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38話 翻弄される悪女①

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 アマリリスはひとしきり泣いた後、用意された紅茶を飲んでようやく落ち着きを取り戻した。
 テオドールの胸元を涙と鼻水でべちょべちょにしてしまって、今頃になって羞恥心が込み上げる。

(テオ兄様の上着をあんなに汚してしまった上に、ルシアン様の前でみっともなく泣いてしまったわ……!)

 恥ずかしがるアマリリスを優しく見つめていたテオドールが、おもむろに口を開いた。

「ルシアン殿下、この度は妹との再会をご提案いただき誠にありがとうございます」
「いや、婚約者が喜ぶことをしたかっただけだよ」

 ルシアンの言葉にアマリリスはハッとした。まさかサイコパスであるルシアンがそのような理由で、テオドールとの再会をセッティングしたとは考えていなかった。

 そんな風に心を砕いてくれたルシアンに対して、サイコパスだと偏見を持ちすぎていたとアマリリスは反省する。ただアマリリスを喜ばせるためだという言葉に、胸の奥がポカポカと温かくなった。

「ですが、こうして心置きなくアマリリスと会うことができ、心より感謝申し上げます。リオーネ王国モンタス辺境伯騎士団長テオドールとして、有事の際にはお力になるとお約束いたします」
「ふむ、それはとても魅力的な申し出だね。だけど、まずは僕の提案を聞いてほしいのだけど、いいかな?」
「ルシアン殿下のご提案、ですか? もちろんです。拝聴いたします」

 アマリリスはルシアンの横顔へ視線を向ける。真っ直ぐにテオドールを見据えるルシアンの瞳は、今までに見たことがないほど怜悧で鋭くアマリリスは目が離せない。

「クレバリー侯爵家のことだ。由緒ある侯爵家の状態が芳しくないから、正当な後継者が建て直す必要があると考えている」
「それでは、アマリリスが……」
「いや、リリスはいずれ王太子妃として采配してもらうから、侯爵家の管理をするのは難しい。そこで、テオドールに後継者の打診をしたいのだけど」
「……っ!」

 テオドールが息を呑む。両隣に控える騎士たちも、驚きに目を見開きすぐに眉間に皺を寄せる。

「恐れ入りますが、テオドール様は我がモンタス騎士団長です。テオドール様以上に団長にふさわしいお方はおりません」
「そうです、団長のお力があったからこそ魔物だって——」

 テオドールが片手をあげて騎士たちの言葉を遮ったが、彼らの言い分ももっともだ。ルシアンは少しも表情を変えず、前を向いたままだ。

(ルシアン様はこの状況で勝算があるのかしら……?)

「ルシアン殿下の申し出は大変ありがたいが、これは俺ひとりで決定できる内容ではありません。モンタス辺境伯とも協議が必要です」
「うん、そうだね。ただ、ひとつ理解しておいてほしいのは、リリスは僕の婚約者になったということだ。つまりゆくゆくは王妃となる。その際に生家が没落しているというのは、リリスにとって好ましくない」
「……状況は理解しましたが、こちらの事情もあります」
「この件に関する権限は僕にあるから、ある程度融通するよ。しばらく王城に滞在してもらい今後も協議しよう」
「……はい」
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