【完結】天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜

里海慧

文字の大きさ
上 下
34 / 60

34話 輝くほどの美しさ①

しおりを挟む
 ルシアンはいつもよりご機嫌の様子で笑みを浮かべ、午前中の執務室では王太子補佐のカッシュと事務処理を進めていた。

 アマリリスが不穏分子を排除してくれたおかげで面会が激減し、午後の腹黒教育が終わればルシアンとアマリリスはそのまま終業となる。

 あまりに機嫌がよすぎて幸せオーラを放ちすぎたのか、カッシュが呆れ顔で口を開いた。

「ルシアン、顔が緩みっぱなしだぞ」
「いや……リリスと一緒にいられるのが嬉しすぎて、これ以上キリッとするのは無理だよ」 
「はあ、もう十年も片思いを拗らせてたからな……無理もないか」

 カッシュは苦笑いを浮かべる。王都の西に領地を持つアンデルス公爵家の嫡男カッシュは、ルシアンの幼馴染であり数少ない友人だ。ふたりで執務をこなす時は、いつも気楽な言葉使いになる。

 ルシアンはようやくチャンスを掴み、人生で初めて欲しいと思った女性を婚約者にした。十年間もの間ひっそりと積み重ねた想いは簡単に昇華するわけもなく、ルシアンの腹の底で黒くドロドロとした執着となっている。

(リリスを手にするため父上も巻き込んで囲い込んだから嫌われているかと思ったけど、予想以上にクールで聡明だから助かったな。これなら僕がリリスの心を掴むのも早まりそうだ……)

 たとえ嫌われていてもアマリリスを手放すつもりはないし、時間をかけて口説き落とそうとルシアンは思っていた。死ぬまでに愛を返してくれたら上出来だし、愛されなくてもルシアンのものだと理解してくれたら、それでいいとさえ思っている。

 こんな重苦しい感情が自分の中にあると知ったのは、アマリリスに出会って半年が過ぎた頃だった。
 どんなにアマリリスをあきらめようとしても想いは募るばかりで、この気持ちを消し去るのは無理だと悟る。

 無理やり婚約をすることもできたけれど、ダーレンの婚約者として頬を桃色に染めたアマリリスを悲しませるのは嫌だった。

 苦肉の策として常にアマリリスの情報を集めていたが、ひどい状況だと知ってもなにもできず本当に歯痒くてたまらなかった。婚約者であるはずのダーレンに何度か忠告したがまったく頼りにならず、アマリリスの状況は悪くなり悪女の噂が広まるばかりだったのだ。

 その状況からアマリリスを救い出そうとルシアンは父に相談したが、その時は立太子もしていなくて意見を述べてもまともに取り合ってもらえない。ましてやバックマン公爵家とクレバリー侯爵家の縁談に王族が口を挟むべきではないという父の意向もあり、ルシアンにはどうすることもできなかった。

 仕方なく調査のためにクレバリー侯爵家へ忍ばせていた王家の影へ命令して、アマリリスが飢えないように、好きなだけ勉強できるように、誕生日には金貨を用意して、ルシアンの名前は伏せつつ影を通して家令を動かしていた。

 そうしてやっとのことで、アマリリスをルシアンの教育係にできたのだ。

 ところが、兄であるテオドールの消息を掴み、アマリリスは早々に教育を終えてルシアンのもとから去ると言った。ルシアンはほんの一瞬もアマリリスを手放すつもりはないから、父を巻き込んで先手を打った。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

忘れられた薔薇が咲くとき

ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。 だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。 これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...