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34話 輝くほどの美しさ①

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 ルシアンはいつもよりご機嫌の様子で笑みを浮かべ、午前中の執務室では王太子補佐のカッシュと事務処理を進めていた。

 アマリリスが不穏分子を排除してくれたおかげで面会が激減し、午後の腹黒教育が終わればルシアンとアマリリスはそのまま終業となる。

 あまりに機嫌がよすぎて幸せオーラを放ちすぎたのか、カッシュが呆れ顔で口を開いた。

「ルシアン、顔が緩みっぱなしだぞ」
「いや……リリスと一緒にいられるのが嬉しすぎて、これ以上キリッとするのは無理だよ」 
「はあ、もう十年も片思いを拗らせてたからな……無理もないか」

 カッシュは苦笑いを浮かべる。王都の西に領地を持つアンデルス公爵家の嫡男カッシュは、ルシアンの幼馴染であり数少ない友人だ。ふたりで執務をこなす時は、いつも気楽な言葉使いになる。

 ルシアンはようやくチャンスを掴み、人生で初めて欲しいと思った女性を婚約者にした。十年間もの間ひっそりと積み重ねた想いは簡単に昇華するわけもなく、ルシアンの腹の底で黒くドロドロとした執着となっている。

(リリスを手にするため父上も巻き込んで囲い込んだから嫌われているかと思ったけど、予想以上にクールで聡明だから助かったな。これなら僕がリリスの心を掴むのも早まりそうだ……)

 たとえ嫌われていてもアマリリスを手放すつもりはないし、時間をかけて口説き落とそうとルシアンは思っていた。死ぬまでに愛を返してくれたら上出来だし、愛されなくてもルシアンのものだと理解してくれたら、それでいいとさえ思っている。

 こんな重苦しい感情が自分の中にあると知ったのは、アマリリスに出会って半年が過ぎた頃だった。
 どんなにアマリリスをあきらめようとしても想いは募るばかりで、この気持ちを消し去るのは無理だと悟る。

 無理やり婚約をすることもできたけれど、ダーレンの婚約者として頬を桃色に染めたアマリリスを悲しませるのは嫌だった。

 苦肉の策として常にアマリリスの情報を集めていたが、ひどい状況だと知ってもなにもできず本当に歯痒くてたまらなかった。婚約者であるはずのダーレンに何度か忠告したがまったく頼りにならず、アマリリスの状況は悪くなり悪女の噂が広まるばかりだったのだ。

 その状況からアマリリスを救い出そうとルシアンは父に相談したが、その時は立太子もしていなくて意見を述べてもまともに取り合ってもらえない。ましてやバックマン公爵家とクレバリー侯爵家の縁談に王族が口を挟むべきではないという父の意向もあり、ルシアンにはどうすることもできなかった。

 仕方なく調査のためにクレバリー侯爵家へ忍ばせていた王家の影へ命令して、アマリリスが飢えないように、好きなだけ勉強できるように、誕生日には金貨を用意して、ルシアンの名前は伏せつつ影を通して家令を動かしていた。

 そうしてやっとのことで、アマリリスをルシアンの教育係にできたのだ。

 ところが、兄であるテオドールの消息を掴み、アマリリスは早々に教育を終えてルシアンのもとから去ると言った。ルシアンはほんの一瞬もアマリリスを手放すつもりはないから、父を巻き込んで先手を打った。
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