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30話 こんなはずじゃなかった①
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夜会から帰ってきたロベリアは、悔しくてたまらなかった。
追い出したはずのアマリリスは王太子ルシアンにエスコートされ大切にされていたし、ロベリアとダーレンはバックマン夫人に拒絶され笑い物になった。
あの後も今まで親しくしていた貴族たちに声をかけたけれど、誰も彼もまともに相手をしてくれなくて結局早々に引き上げてきたのだ。
一夜明けても、ロベリアは今までとすっかり立場が変わってしまったことが受け入れられない。
すぐに父に話しバックマン公爵家へ取り次ぎをしてもらったが、三日後に【ダーレンはすでにバックマン公爵家から籍を抜いた】という返答が返ってきただけだった。
「ダーレン様がバックマン公爵家と完全に縁が切れたなんて……信じられないわ! これではわたくしは平民の妻になってしまうじゃない……!」
貴族が家門から籍を抜かれたら平民として生きていくしかない。そうなれば職も限られてくるし、貴族としての生活を送ることなど到底できないのだ。
クレバリー侯爵もこの展開は予想していなかったので、渋い顔で唸っている。
「ロベリア、ダーレン様は他に継げそうな爵位の話をしてなかったか?」
「確かお義母様が伯爵位を持っていたけれど、オードリー様の下にカーティス様がいるし夜会の様子じゃ無理よ」
「だが、うちもエミリオがいるからな。お前の婿になったとしてもどうにもならんぞ」
「……わかってるわ」
ロベリアはギリギリと奥歯を噛みしめた。
最初の予定ではあのままダーレンが公爵家を継ぎ、ロベリアは公爵夫人として社交界の重鎮になるはずだったのだ。あのアマリリスですらバックマン公爵夫人に受け入れられたのに、ここまで嫌われる理由がロベリアはさっぱり理解できない。
(見た目だってわたくしの方が若くて可憐で儚げだし、貴族としての振る舞いだってわたくしの方が優雅にこなせているのに、なにが不満だというのよ!)
クレバリー侯爵家にいたアマリリスは、いつも下働きをしていてセカセカと作業をこなし、屋敷の中を右へ左へと走り回って品性の欠片もなかった。
「ダーレン様には職を斡旋するから、それで身を立ててもらうしかないな。王城の仕事であれば給金もよいし、生活には困らんだろう」
「はい……お父様」
クレバリー侯爵とのやり取りを終え、ロベリアは私室へと戻った。扉の前でため息をついてから、笑みを浮かべて室内に足を進める。
その足音に気が付いて、部屋で待っていたダーレンがロベリアの前まで駆け寄った。
「ロベリア、随分時間がかかったのだな。それで、バックマン公爵家からの返答はどうだった?」
「ダーレン様……どうか落ち着いて聞いてください」
ロベリアはバックマン公爵家からの返答と、父親が職を斡旋するということを言葉を選びながら伝える。ガックリと項垂れながらダーレンは聞いていた。
「そうか……母上の言葉は事実だったんだな。父上の言葉も大袈裟に言っているだけかと思っていた……」
「そうですわね。ですがダーレン様なら、すぐに出世して認められますわ!」
「ああ、そうだな……」
肩を落とす婚約者をなんとか励まし、ロベリアは新しい職を得たダーレンに期待した。
(ダーレン様なら血筋もしっかりしているし、きっとすぐに認められて出世していくはずよ。そうしたら高官の妻として社交界に返り咲くわ!)
少々道は逸れたが、ロベリアは希望的な未来を描いていた。しかしそんな未来は、一カ月もしないうちに幻となる。
追い出したはずのアマリリスは王太子ルシアンにエスコートされ大切にされていたし、ロベリアとダーレンはバックマン夫人に拒絶され笑い物になった。
あの後も今まで親しくしていた貴族たちに声をかけたけれど、誰も彼もまともに相手をしてくれなくて結局早々に引き上げてきたのだ。
一夜明けても、ロベリアは今までとすっかり立場が変わってしまったことが受け入れられない。
すぐに父に話しバックマン公爵家へ取り次ぎをしてもらったが、三日後に【ダーレンはすでにバックマン公爵家から籍を抜いた】という返答が返ってきただけだった。
「ダーレン様がバックマン公爵家と完全に縁が切れたなんて……信じられないわ! これではわたくしは平民の妻になってしまうじゃない……!」
貴族が家門から籍を抜かれたら平民として生きていくしかない。そうなれば職も限られてくるし、貴族としての生活を送ることなど到底できないのだ。
クレバリー侯爵もこの展開は予想していなかったので、渋い顔で唸っている。
「ロベリア、ダーレン様は他に継げそうな爵位の話をしてなかったか?」
「確かお義母様が伯爵位を持っていたけれど、オードリー様の下にカーティス様がいるし夜会の様子じゃ無理よ」
「だが、うちもエミリオがいるからな。お前の婿になったとしてもどうにもならんぞ」
「……わかってるわ」
ロベリアはギリギリと奥歯を噛みしめた。
最初の予定ではあのままダーレンが公爵家を継ぎ、ロベリアは公爵夫人として社交界の重鎮になるはずだったのだ。あのアマリリスですらバックマン公爵夫人に受け入れられたのに、ここまで嫌われる理由がロベリアはさっぱり理解できない。
(見た目だってわたくしの方が若くて可憐で儚げだし、貴族としての振る舞いだってわたくしの方が優雅にこなせているのに、なにが不満だというのよ!)
クレバリー侯爵家にいたアマリリスは、いつも下働きをしていてセカセカと作業をこなし、屋敷の中を右へ左へと走り回って品性の欠片もなかった。
「ダーレン様には職を斡旋するから、それで身を立ててもらうしかないな。王城の仕事であれば給金もよいし、生活には困らんだろう」
「はい……お父様」
クレバリー侯爵とのやり取りを終え、ロベリアは私室へと戻った。扉の前でため息をついてから、笑みを浮かべて室内に足を進める。
その足音に気が付いて、部屋で待っていたダーレンがロベリアの前まで駆け寄った。
「ロベリア、随分時間がかかったのだな。それで、バックマン公爵家からの返答はどうだった?」
「ダーレン様……どうか落ち着いて聞いてください」
ロベリアはバックマン公爵家からの返答と、父親が職を斡旋するということを言葉を選びながら伝える。ガックリと項垂れながらダーレンは聞いていた。
「そうか……母上の言葉は事実だったんだな。父上の言葉も大袈裟に言っているだけかと思っていた……」
「そうですわね。ですがダーレン様なら、すぐに出世して認められますわ!」
「ああ、そうだな……」
肩を落とす婚約者をなんとか励まし、ロベリアは新しい職を得たダーレンに期待した。
(ダーレン様なら血筋もしっかりしているし、きっとすぐに認められて出世していくはずよ。そうしたら高官の妻として社交界に返り咲くわ!)
少々道は逸れたが、ロベリアは希望的な未来を描いていた。しかしそんな未来は、一カ月もしないうちに幻となる。
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