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24話 証を示せ③

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 ルシアンは真っ直ぐにミクリーク公爵を見つめ、言葉を続ける。

「貴族たちが腹に隠し事をするように、リリスも夜会でだけ悪女の仮面をかぶっていただけだ。僕はずっとリリスを見てきたからわかる。クレバリー侯爵家でどのように扱われてきたのかも知っているし、何度も密かに手を回してきた」
「まさか、あの噂が事実だと……」

 あの噂とは、アマリリスがバックマン公爵夫人のお茶会で明かしたダーレンとロベリアのために悪女の演技をしていたという話だ。バックマン公爵夫人がアマリリスの名誉挽回のため話を広めているのは、予想通りである。

「リリスは聡明で自身を犠牲にしても周りの幸せを願う女性だ。僕の妻としてこれ以上ふさわしい令嬢はいない」
「……ルシアン殿下のお考えはしかと理解いたしました」
「うん、話を聞いてくれてありがとう。ではこれで失礼するよ」

 ミクリーク公爵はルシアンとアマリリスへ身体を向けて笑みを浮かべ、右手を胸に当てて臣下の礼をした。ルシアンの話を聞いて、アマリリスへの嫌悪感はかなり落ち着いたようだ。

 少し人混みから離れ、アマリリスは今の会話でどうしても気になることをルシアンに尋ねた。

「ルシアン様……ミクリーク公爵とのやり取りはよかったのですが、『密かに手を回してきた』とはどういうことでしょうか?」
「あ、それはね、僕の手の者を何人か侯爵家に送り込んで、様子を探らせていたんだ。王族と言っても屋敷の中のことまで口出しはできなくて、せめてリリスが心穏やかに過ごせるように指示を出していたんだよ」

 ルシアンはなんでもないように、アマリリスの知らなかった事実を突きつける。

(クレバリー侯爵家でやってこれたのは、ルシアン様の助けもあったからなの……?)

 思わぬ事実にアマリリスの心が揺れた。
 両親が亡くなり兄たちも養子に出され不安でたまらなかったあの時、アマリリスを支えてくれたのは使用人たちの愛情だ。彼らがいてくれたからここまでやってこれたのだが、それがルシアンのおかげだったなんて思いもよらないことだった。

(確かに私が屋敷を出る時に受け取った金貨は、使用人たちから集めたにしては高額だったわ……今までの誕生日のお祝いもそうだったのかしら?)

 胸のうちは大きく騒ついていたがなんとか気持ちを切り替えて、その後もルシアンが貴族たちを説き伏せていくのを見守る。
 そうして外交を担当するヒギンズ伯爵の誤解を解き、穏やかに話をしていた。

「そういえば、ルシアン殿下。先月東の国で魔物に強い騎士団の視察に行ったのですが、そこの騎士団長が魔法剣の使い手だったのです」
「へえ、魔法剣とは珍しいね」

 魔法剣とは剣にさまざまな魔法をまとわせる戦闘方法で、非常に戦闘能力が高いが魔法と剣技を極めなければならず使い手は限られている。国中を探しても両手で数えられる魔法剣の使い手は引く手あまたで、安全で稼げる仕事に就いていることが多い。

(魔法剣の騎士が辺境伯の騎士団長なんて、野心がないのね。近衛騎士にだって採用されるでしょうに)

 同じ騎士でも辺境伯の元で魔物と戦うのと、王族の護衛を務める近衛騎士では危険度も給金もまるで違う。魔法剣の使い手ならば近衛騎士でも騎士団長を狙えるのに、よほど戦闘が好きなのかとアマリリスは思った。

「私も詳しく話を聞いたところ、魔法剣が魔物に有効だと話していて、そのテオ団長が言うには雷の魔法剣が一番有効らしいのです。これは魔法剣の使い手の採用に力を入れ——」
「っ! 恐れ入ります、ヒギンズ伯爵。そのテオという騎士団長様は雷の魔法剣の使い手でございますか?」

 わずかに震えた声で、アマリリスは確かめるようにヒギンズ伯爵へ問いかける。

「ええ、魔法剣だけでも希少な存在ですが、テオ団長は青い稲妻をまとった剣を操り、切れのある剣技はそれもう見事でした。まだ二十代前半でお若いのにどれほどの鍛錬をされたのかと感心しましたよ」
「もしかして、薄茶色の髪に新緑のような緑の瞳ではありませんでしたか?」
「おや、テオ団長をご存じでしたか?」

 その特徴は長兄のテオドールと見事に一致しており、アマリリスは息を呑んだ。


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